第十一章 集まる妖怪と水晶の願い
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第十一章「集まる妖怪と水晶の願い」をお届けします。
前章で翔太の前に現れた謎の少年の正体を「座敷わらし」だと推測し、そっとしておこうと決めた大和たち。しかし、なぜか妖怪たちは大和の周りに引き寄せられていくようで……。
今回は、ちょっと不思議で心温まる(?)、大和と妖怪たちの奇妙な夜の交流を描いたエピソードです。雛の密かな心の声による鋭いツッコミにもご注目ください。
廊下の角に集まって、大和、雛、七海の三人が顔を寄せ合ってヒソヒソと話し合っていた。
「いるよね」
と、大和が神妙な顔つきで切り出す。
「いる」
七海も深く頷いた。
「座敷わらしだよね」
雛が確信を持ったように言うと、大和は少しだけ首を傾げた。
「え、でも翔太、男の子だって言ってたけど」
「座敷わらしの元は男の子。それに、妖怪は性別関係ない」
雛は淡々と説明し、諭すように続けた。
「ロレッタと同じで、いたずらはするけど悪さはしないと思うから、見つけたらそっとしておこう」
「そうだね」
七海が同意し、雛も「うん」と頷く。
「じゃあ、僕も眠たくなってきたから。そろそろ寝るよ」
大和が欠伸を噛み殺しながら言うと、二人は素直に見送った。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
自室へ戻ろうと、薄暗い廊下を歩いていた大和の後ろを音もなく、淡い水色の着物を着た見知らぬ少年が手毬を持って追いかけていく。大和が気づかず部屋に入って扉を閉めると、少年の背後、白とピンクの小袖がぬらりと現れた。妖怪『小袖の手』だ。その青白い手は、手毬を持つ少年と共に閉じられた大和の部屋の中へ吸い込まれるように消えていく。
一方、元の場所では雛と七海がひっそりと顔を見合わせていた。
「見た?」
雛が問いかけると、七海は深く頷いた。
「見た。大和の周りに、なぜか集まってくる」
「うん。いい妖怪ばかりだといいんだけど」
雛が少し心配そうにこぼすと、七海は苦笑いしながら言った。
「大和って、なんか妖怪に好かれるよね」
七海は「うんうん」と一人納得したように相槌を打つ。
そんな七海を横目で見やりながら、雛は心の中でつぶやいた。
(確かにね。目の前のキツネにも好かれてるもんね)
その頃、自室に戻った大和は、座卓の前に座り込んでいた。卓の上には木製の大きな鉢が置かれ、中には個包装された白いお菓子がたっぷりと入っている。大和はその一つを手に取り、封を開けて食べようとした。
その瞬間だった。背後の窓ガラスをすり抜けるように小袖の手が現れ、大和の手からお菓子をひったくっていった。
「ん? ……へ?」
大和が驚いて手元を見ると、今度は目の前に、先ほど廊下で見かけた淡い水色の着物の少年が座っていた。少年は無言のまま、鉢の中からお菓子を一つ摘み上げる。
「えっ?」
大和が困惑していると、再び小袖の手が鉢の中からもう一つお菓子を取ると、手を振って消えていった。
少年はじっと手元のお菓子を見つめている。その様子を見て、大和は恐る恐る声をかけた。
「ん? え? ……もっと欲しいの?」
少年は顔を上げ、小さく頷いた。
「うん。紅玉の分」
「紅玉?」
大和が聞き返すと、少年は少しだけ切なそうな表情を浮かべて言った。
「紅玉と……二人で食べたい」
その純粋な言葉に、大和の顔から警戒心が消えた。彼は優しく微笑み、お菓子の入った鉢ごと少年の前に押し出した。
「ああー……。全部、持ってっていいよ」
少年は両手で大切そうに鉢を受け取ると、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとう」
「あ、名前は?」
大和が尋ねると、少年は真っ直ぐに大和を見て答えた。
「水晶」
「水晶……」
大和がその名を口の中で反芻した瞬間、水晶の姿は鉢と共に眩い光に包まれ、フッと虚空へ消え去ってしまった。
「おお……」
誰もいなくなった空間を見つめながら、大和は不思議な余韻の中で「はぁ……」と短く感嘆の息を漏らした。
第十一章「集まる妖怪と水晶の願い」、いかがでしたでしょうか。
翔太は気絶するほど驚いていたのに、突然現れた妖怪にお菓子を横取りされてもそこまで動じず、少年に鉢ごとあっさりとあげてしまう大和。彼のどこか抜けているけれど優しい人柄と、妖怪に対する謎の順応性の高さが垣間見えるシーンでした。雛が心の中で七海を「目の前のキツネ」と評する、絶妙な三角関係(?)の描写もクスッと笑えるポイントですね。
そして、ついに大和の前で自ら名前を明かした少年「水晶」。彼が一緒に食べたいと願った「紅玉」とは、第六章で市華が暗闇に残してきてしまったあの人形のことです。市華が抱える秘密と、大和たちの不思議な日常が、ここから少しずつ交差し始めます。物語はいよいよ核心へ! 次章の展開もどうぞお楽しみに。




