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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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9/32

ボロ平屋を、買いました(地下に夢を詰めて)

鷹司さんの一件で、俺の口座に、30億円が、振り込まれた。

 

……いや、桁が、おかしい。

商店街でコツコツ稼いで、ちょこちょこ散財しても、数百万は貯まってた口座。そこにいきなり、30億だ。

ゼロの数を、三回、数え直した。やっぱり、間違いじゃ、なかった。

現実感なんて、あるわけが、ない。

 

まず、七海への分は、すでに渡してある。

あれは、給料じゃない。ボーナスとか、義理とか、そういうのとも、少し、違う。

……まあ、いい。済んだことだ。

残りは、まだ、とんでもない桁だった。

 

七海が、すかさず、釘を刺してくる。

「青柳さん。これは、浮かれて使う前に、まず、ちゃんと——」

「家、買うわ」

「は?」

今、いちばん聞きたくなかった単語、って顔をされた。

「いや、聞いてください。投資とか、税金の——」

「でっかい家。城みたいなやつ」

「……人の話を、聞きましょうか」

 

でも、これは、ただの浪費じゃ、ない。

……いや、半分は、浪費なんだけど。

残りの半分は、ちゃんと理由があった。

黒田の一件で、思い知ったんだ。

稼げば、目立つ。目立てば、狙われる。

今は商店街の片隅でやってるから、ギリ、平気。でも、この先もっとデカく稼ぐなら——守りを、固めなきゃ、いけない。

「隠れ家が、欲しいんだよ。誰にも、手出しできない城が」

俺がそう言うと、七海は、少しだけ、黙った。

「……防衛拠点、として。それなら、まあ、わからなくも、ないです。ちゃんとした不動産なら、資産にも、なりますし」

お。意外と、乗ってきた。

「ただし、物件は、私が選びます。あなたに任せたら、絶対、ロクなことになりません」

 

そこから、七海は、しごくまともだった。

都心の、いい立地。資産価値の高い、マンション。セキュリティのしっかりした、タワー。

ぜんぶ、文句のつけようの、ない物件ばかり、揃えてくれた。

……なのに。

俺の心は、これっぽっちも、動かなかった。

「うーん。なんか、違うんだよな」

「どこがですか。完璧でしょう」

「目立つ。タワマンの上層階とか、いかにも『金持ってます』じゃん。黒田みたいなのにすぐ嗅ぎつけられる」

七海が、ぐっ、と、言葉に詰まった。

……それは、否定、できないらしい。

 

で。

物件選びに、ちょっと疲れた、ある休日。

俺は、気分転換に、ミンティーで、あてもなく、ドライブに出かけた。

都心を抜けて。郊外を抜けて。どんどん、田舎のほうへ。

田んぼと山と、たまにコンビニ。そういう景色に、なってきた、頃。

 

その足が——いや、ブレーキが、ふと、止まった。

 

道の脇に、ぽつんと建っていた。

古い平屋。

 

壁の塗装は、剥げてる。庭は、草ぼうぼう。どう見ても、何年も、人が住んでない。

まわりに家は、一軒もない。あるのは、だだっ広い空き地みたいな敷地だけ。

ボロい。地味。何の、変哲もない。

なのに。

その、気の抜けた佇まいを見た瞬間、俺の胸が——ぎゅっと鳴った。

「……こいつだ」

二度目の、一目惚れ、だった。

 

翌日。

俺が「あのボロ平屋、買った」と報告すると七海は、しばらく無言だった。

「……なぜ、そこなんですか」

「ビビッと来た」

「都心の、優良物件。あんなに揃えたんですけど」

「ビビッと、来なかった」

七海が、額に手を当てて、天を仰いだ。

「……正気ですか」

「まあ、聞けって。あそこ、実は、めちゃくちゃ、いいんだぞ」

 

俺は、よく回るほうの頭で、説明してやった。

一、まわりに家がない。つまり、人目が、ゼロ。何やってても、誰にも、見られない。

二、敷地が、無駄に、広い。地下を、好きなだけ、掘れる。

三、通じてる道が、一本だけ。誰か来たら、すぐ、わかる。守りやすい。

そして、四。

「いちばんデカいのが——ボロくて、地味ってこと。誰も、こんなあばら家に、大金持ちが隠れてるなんて、思わねえ。最高の、隠れ蓑だろ」

七海が、ぽかんと口を開けた。

それから、深い深いため息を、ついた。

「……理屈は、通ってますね。正直、悔しいですけど」

「だろ?」

「ただ、勘違いしないでください。今のは、あくまで“理屈の上では”です。本当に上手くいくかは、作って、動かしてみないとわかりません」

「固いなあ、お前」

「当然です。一目惚れの勢いだけで、何億も動かす人の、ブレーキ役なので」

 

そこからは、もう、楽しくて、しょうがなかった。

基地づくりの、はじまりだ。

 

まず、問題は、秘密が、漏れないこと。

工事の業者やら、セキュリティ会社やら、いろんな人間が、出入りする。その誰かが、口を割ったら、隠れ家の意味が、ない。

でも、俺には、鑑定が、ある。

打ち合わせに来た担当者を、片っ端から、鑑定。

腹の中に、一ミリでも、よからぬ企みがある奴は、即、お断り。

口が堅くて、腕が良くて、裏表のない奴だけを、選んで、契約した。

……こういう時、ほんと便利すぎる、この力。

 

そうして、出来上がっていく俺の城は——控えめに言って、最高だった。

 

まず、守りは、ガチガチに、固めた。

敷地に通じる道は、もともと一本だけ。そこに車両センサーとカメラを仕込んで、車が一台でも通れば、すぐ、わかるようにした。

でも、それだけじゃ、足りない。

その気になれば、山や、裏手から、歩いて入ってくる奴も、いる。

だから、だだっ広い敷地の境界を、ぐるっと一周、赤外線と振動のセンサーで、囲った。

正面の道だろうが、裏の獣道だろうが。誰かが、この土地に、一歩でも踏み込んだら——その瞬間、地下に、通知が飛ぶ。

どこから来ても、必ず、わかる。それが、第一の守りだ。

 

……でも、俺は、まだ、満足しなかった。

「七海。センサーだけじゃ、地味じゃね? こう、もっと動くやつが、欲しいんだよ」

「動くやつ」

「ドローン。飛ばそうぜ。敷地の上、ぐるぐる」

「……はあ」

却下される、と、思った。

でも、七海は、しばらく考えて、意外にも、頷いた。

「……いいでしょう。むしろ、必要です」

「お。マジで?」

「この敷地、無駄に、広すぎるんです。人間が歩いて見回るなんて、現実的じゃない。空から巡回させるなら、合理的です」

——勝った。ロマンが、合理に、勝った。たぶん、初めてだ。

調子に乗った俺は、続けた。

「じゃあ、地上にも。警備ロボット。夜中、敷地を、のっしのっし歩くやつ。なんなら、レーザーとか——」

「却下です」

「えっ。なんで。ドローンは、いいのに」

「桁が、違います」

七海が、電卓を、すっと差し出してきた。画面に、ずらりと並んだ、ゼロ。

「自律で動く、警備ロボットを、まともなのを、何体も。……それ一式で、いくらすると思ってるんですか。地下を掘って、シェルターまで作って。この時点で、30億は、もう、ほとんど、残ってません」

「うっ……」

「ドローンは、安い。広い敷地を空から見るのに理にかなってる。でも、ロボットは、今の予算じゃ、無理。……いつか、もっと稼いだら、考えましょう」

「いつか、な」

「ええ。いつか。先立つものが、できたら」

ロマン二連勝とは、いかなかった。

でも、まあ、いい。ドローンは、もぎ取った。ロボットは——稼いで、買う。それも、また、楽しみってことにしておく。

「じゃあ、せめて、ドローンに、名前——」

「先に、進めましょうか」

 

そんなわけで。

俺の城は、空にドローン、境界一周にセンサー、要所にカメラ。空と地面の、二重の目で、二十四時間、にらみを利かせる、守りに、なった。

ドローンが、誰もいない田舎の敷地の上を、黙々と、旋回する画は——正直、ちょっと、シュールだった。

でも、かっこいい。それで、いい。

(地上を歩く警備ロボットは、また、今度。金が、できたら。……七海の、電卓が、忘れさせてくれなかった)

 

外見は、そのまま。剥げた壁の、ボロい平屋。

草も、わざとちょっと残した。センサーもカメラも、ドローンの待機場所も、外からはそうと分からないように仕込んである。完璧な、カモフラージュだ。

 

地上のボロ屋は、ボロ屋のまま、ちゃんと使う。

中に、ごく普通の、応接スペースを、こしらえた。

一見さんとか、軽い用件の相手は、ここで、お茶でも出して、対応する。

……地下があることなんて、おくびにも、出さない。普通の客は、そんなもの、あるとも知らずに帰っていく。

 

で。

秘密の話とか、表に出せない上客の、本格的な施術になったら。

そこで初めて、ボロ屋の中の、ある一室——「隠し部屋」へ、通す。

この隠し部屋に入ること自体が、最初の関門だ。

扉には、しっかり、セキュリティ。俺が認めて、登録した相手しか、入れない。

逆に言や、ここに通せる時点で、その客は、もう“こっち側”ってことだ。

 

そして、その隠し部屋の中に——地下へ降りる、エレベーターがある。

最初は、俺も「階段でいいだろ」って、思ってた。

でも、七海に、一発で、止められた。

「却下です。うちのお客様、どういう方々か、忘れたんですか」

……あ。

そうだ。

うちに来るのは、足腰の弱った年寄りや、車椅子の人も、多い。鷹司さんの孫の、美咲ちゃんだって、そうだった。

階段だけの隠れ家なんて、肝心の客が、降りられない。

「だろ。最初から、エレベーター付ける気だったわ、俺は」

「絶対、今、思い出しましたよね」

「…………」

 

そんなわけで。

隠し部屋の壁が、認証で、すっと開くと。

その奥に、地下へ続く、しっかりしたエレベーターが、現れる。

車椅子だろうが、杖をついてようが、問題なく、地下まで、降りられる。

階段も、いちおう、横に作った。けど、そっちは、非常用と、スタッフ用。基本は、エレベーターだ。

そこを降りると——別世界。

 

地下は、まるごと三階建てに、掘った。

地下1階は、施術フロアと、上客を迎える、立派な応接間。本格的な、“施術室”の顔。

地下2階は、七海の城。全部のカメラとセンサー、それにドローンの管制も集約した、管制ルーム。サーバーに、生活スペースまで、ある。

そして、地下3階は——最終シェルター。

完全密閉。独立の電源と、空調。長期の備蓄つき。外で、何が起きようが、ここまで来れば、いくらでも、籠城できる。

 

地下の各階の境目にも、さらに認証ゲート。

俺が事前に鑑定して、登録した人間。それから、腹の中に一ミリも悪意のない相手。それ以外は、一歩も、奥に進めない。

万が一、誰かが侵入してきても、層ごとにぴしゃりと止められる。

「……すげえ。秘密基地だ。完全に、秘密基地だ」

ずらりと並んだ監視モニターの前で、俺は、ガキみたいにはしゃいだ。

モニターの一つには、上空をゆっくり旋回する、ドローンの視点。その隣の画面は——本当は、地上を巡回する警備ロボットを映すはずだった、空きスペース。今は、まだ、ただの、黒い画面だ。

「……ここにいつか、ロボットを」

「稼いだら、ですよね」

「わかってるよ」

……もう、それだけで、ご飯三杯、いける。

 

「青柳さん。これ、要りますか」

七海が、図面の一点を、指で、つついた。

俺が、こっそり追加で頼んでた、「本棚に見せかけた、隠し扉」の項目だった。

「要る。ロマンだろ」

「却下です。無駄に、高い」

「じゃあ、滑り棒は」

「滑り棒って、なんですか」

「地上から地下に、シュッて降りてくる、消防署の、あれ。かっこいいだろ」

「エレベーター、ありますよね。すぐ横に」

「ロマンの話をしてんだよ」

「そのロマン、おいくらですか」

「…………わりとする」

「却下です」

 

ぐうの音も、出なかった。

でも、俺は、めげなかった。

粘りに粘って、最終的に、「隠し扉」だけは、なんとか、通した。

七海が、最後、ちょっとだけ、笑ってたのを、俺は、見逃さなかったけど。

「……べつに。男の子だなと、思っただけです」

 

完成した、シェルター基地を前に、俺は、腕を組んで、ひとり、満足げに、頷いた。

「これで、誰が来ても、安心だな。鑑定で悪意は弾けるし、空からドローン、境界はセンサー、ここは難攻不落だし」

「……認めます」

「ん?」

「あのボロ平屋の見立て。理屈だけじゃなくちゃんと形になりました。悔しいですけど……正解、だったみたいです」

「だろ? 惚れたもんに、ハズレなし」

「ただし」

「ん?」

「一応、ご報告が。地下の掘削、耐久構造、電源、空調、認証ゲート、監視カメラ、ドローン、セキュリティ一式。……これで、鷹司さんからの30億。ほぼ、丸ごと、消えました。……ロボットまで、手を出さなくて、本当に、よかったです」

「……は?」

「あなた、30億を、ほぼまるまる、地面の下に、埋めたんですよ。自覚、あります?」

俺は、おそるおそる、自分の口座を、確認した。

……億の桁が、きれいさっぱり、消えていた。

残ってるのは、鷹司さんの前から、コツコツ貯めてた、商店街時代の、数百万くらい。

要するに——億万長者から、また、ただの庶民に、逆戻り、だ。

「……あれ? 俺、これ。無職だった頃と、残高、そんな変わらなくね?」

「家賃の心配をしてた頃と、ほぼ、同じですね」

第1話の俺が聞いたら、たぶん、泣くと思う。

でも、不思議と、後悔は、なかった。

「……まあ、いいか。金は、また、稼げばいい。それに忘れんなよ、七海」

「なにを、ですか」

「この基地の、最後の砦は——俺だ。何されても、死なねえし、すぐ治る。人質にも、ならねえ。世界一、コスパのいい、セキュリティだろ?」

七海が、ちょっと考えてから、言った。

「……たしかに。あなたを攻撃するのが、いちばん、無駄かもしれませんね」

 

ボロい平屋の下に、夢と、要塞と、30億を、詰め込んだ。

億は、ほぼまるごと地面の下。手元は、また、スッカラカン寸前。

……でも、それでこそ、俺だ。

金は、ガンガン入って、ガンガン出ていく。だったら、また、ガンガン、稼げばいい。

ここを拠点に、もっと、デカい商売を、していく。

鷹司さんが紹介してくれる、表に出せない上客たちを、ここで、こっそり、迎えるんだ。

「……あ」

ふと、思い出して、俺は、つぶやいた。

「そういや、税金とか、そういうの。まだ、ちゃんとやってねえや」

「……それ、私も、ずっと気になってたんですけど」

「まあ、追々で」

「……追々、ですね」



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― 新着の感想 ―
大金を稼いで選んだ自宅がボロ屋…なんだかあの破天荒警察官漫画に出ていたあの超ハイテク一家を思い出す光景ですね…。
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