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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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8/32

桁が、違う

黒田の一件があった、数日後。

七海が、めずらしく、改まった顔で、俺の前に、座った。

「青柳さん。ひとつ、ご提案が」

「ん?」

「今のやり方、そろそろ、限界です」

 

七海いわく、こうだ。

今の俺たちは、一般のお客さんを、ほぼ、来る者拒まずで、受けてる。

でも、噂が広がりすぎれば、無免許の件で、また黒田みたいなのが、湧いてくる。

そのうえ——施術するのは、俺、一人。

体は一つしかないのに、客だけ増え続けたら、いつか、確実に、パンクする。

「だから。一般の受付は、絞ります」

「絞る? せっかく、流行ってんのに?」

「ええ。表向きは、縮小。実態は——切り替えます」

七海の、目が、すっと、鋭くなった。

「これからは、完全な、紹介制。信用できる相手からの、紹介だけ。そして、単価を、大幅に、上げます」

 

……なるほど。

俺の、よく回る頭が、すぐに、その絵を、理解した。

客を、減らす。代わりに、一人あたりから、がっつり、もらう。

目立たなくなって、無免許リスクも、下がる。体も、楽になる。なのに、稼ぎは、むしろ、増える。

「……七海。お前、天才か?」

「ようやく、気づきましたか」

しれっと、言いやがる。

でも、その通りだ。9,800円で、行列をさばく商売は——もう、卒業だ。

 

路線を切り替えて、すぐ。

その、最初の客は、向こうから、やってきた。

 

店の前に、見たこともない、黒塗りの車が、停まった。

降りてきたのは、上等なスーツの男たちと——その真ん中の、一人の、老人。

歳は、70は、超えてる。

でも、背筋は、ぴんと、伸びてる。まとってる空気が、明らかに、“こっち側”の人間じゃ、なかった。

「……青柳さん、というのは、君かね」

「えーと。どちらさん、でしょう」

老人は、静かに、名乗った。

鷹司源一郎たかつかさ げんいちろう。……君の噂を、人づてに、聞いてね」

 

七海が、横で、ぴくりと、反応した。

たぶん、名の知れた、相当な、大物だ。

その鷹司さんが、深く、頭を、下げた。

……企業のトップみたいな人間が、無名の若造に、頭を下げる。

それだけで、ただ事じゃないって、わかった。

「頼みがある。……金なら、いくらでも、出す。どうか、孫を、診てやってくれ」

 

車の後部座席から、付き添いに連れられて、小さな女の子が、降りてきた。

歳は、7つか、8つくらい。

うつむいて、左腕を、そっと、後ろに、隠している。

美咲みさき、といいます」

鷹司さんの声が、わずかに、震えた。

「去年、事故で……左の、手首から先を、失った」

 

女の子が、おずおずと、左腕を、前に、出す。

手首から先が、なかった。

 

俺は、しゃがんで、その子と、目線を、合わせた。

そして、鑑定。

 

【美咲/7歳・女】

体の状態:左手首から先を欠損(事故による)。ほかは健康

心の状態:手を、ずっと、隠している。お友達の前に、出られない

いちばんの願い:また、両手で、おじいちゃんと、手をつなぎたい

 

……あー、もう。

なんで、こう、まっすぐな願いを、見せてくるかなあ。

胸の、奥が、また、きゅっと、なる。

 

「会長さん。病院は」

「あらゆる、名医に、診せた。海外にも、行った。義手も、最新のものを。……だが、“元に戻す”ことだけは、誰にも、できなかった」

鷹司さんの、握りしめた、拳が、白い。

「金は、どれだけ、かかっても、構わん。世界中の、医者が、無理だと言った。それでも……君なら、と」

 

正直に、言う。

俺も、自信は、なかった。

シミやシワ、膝の軟骨くらいは、何度もやった。でも——失くした体の一部を、ゼロから、生やす。

そんなの、試したこと、ない。

 

でも。

その子の、隠してた左腕と、まっすぐな願いを、見ちまった以上。

やらない、って選択肢は、俺の中に、なかった。

「……美咲ちゃん。ちょっとだけ、おじさんに、その腕、貸してくれる? 痛いことは、しないから」

美咲ちゃんは、おじいちゃんを、見上げて。

こくり、と、小さく、頷いた。

 

俺は、その、手首の先に、両手を、そっと、添えた。

目を、閉じる。

念じる。今までで、いちばん、深く。

ここに、あったはずの、骨。血管。神経。皮膚。ぜんぶを、思い描いて——もう一度、その細胞を、ゼロから、芽吹かせる、イメージで。

 

手のひらの中が、じわっと、熱くなった。

今までとは、比べものにならない、ほどの、熱。

淡い光が、美咲ちゃんの、手首の先で、ふくらんでいく。

 

そして。

光の中で——ゆっくりと。

なかったはずの、小さな手が、形を、取り戻していった。

手のひらが。指が。ちっちゃな、爪の、一枚一枚までが。

 

光が、引いていく。

そこには。

血の通った、あたたかそうな、小さな、左手が、あった。

 

しん、と、なった。

誰も、ひと言も、しゃべらない。

美咲ちゃんが、おそるおそる、その左手を、握って、開いて、握って、開いて。

……ちゃんと、動く。

「……できた」

ぽつりと、こぼれた、その子の声。

「できたよ、おじいちゃん。て、ある。りょうて、ある……っ」

 

美咲ちゃんが、その、戻ってきた左手で。

鷹司さんの、大きな手を、ぎゅっと、握った。

 

鷹司源一郎という、いかにも、人生で泣いたことなんかなさそうな、老人が。

声も、なく。

ぼろぼろと、涙を、こぼしていた。

 

……俺も、正直、やばかった。

平気な顔、してたけど。鼻の奥が、つんつんしてた。

 

しばらくして。

落ち着いた鷹司さんが、震える手で、懐から、何かを、取り出そうとした。

たぶん、小切手帳か、何か、だ。

「いくら、だ。言い値で、払う。本当に……本当に、礼の、しようもない」

「うちの、特別枠は……3,000万円から、です」

すかさず、七海が、横から、しれっと、口を挟んだ。

 

……は?

さんぜんまん。

一般コースが、9,800円なのに。その、三千倍。

俺ですら、聞いて、思わず、むせかけた。

 

でも、鷹司さんは。

ふっ、と、笑って、首を、横に、振った。

「……安すぎる。桁が、二つ、足りん」

 

……は?

 

「孫の、手だぞ。これが、戻ったんだ。それに比べたら、そんなものは、はした金だ」

鷹司さんは、その場で、さらりと——30億円を、払うと、言った。

さんじゅう、おく。

俺の頭ん中で、ゼロが、ずらーっと、並んで、桁が、わからなくなった。

そして、こう、続けた。

「それと。……青柳くん。私のような悩みを抱えた人間は、表には、決して出てこない。だが、この世界に、いくらでも、いる。金なら、唸るほど、持っている連中だ」

「はあ」

「紹介させて、くれんか。君を。……もちろん、口の堅い相手だけ、だ」

 

俺と、七海の、目が、合った。

七海が、ほんの少し、頷く。

——ゴーサイン、だ。

「……ぜひ、お願いします」

 

こうして、俺の商売は。

商店街の、9,800円から。

一気に、誰も知らない、桁違いの世界へと、扉を、開けた。

 

鷹司さんたちの車を、見送って。

店に、二人、残されて。

俺は、ソファに、沈みながら、ぽつりと、言った。

「……七海。俺さ。とんでもない金、入ってくるよな、これ」

「入ってきますね」

「何に、使おっかな」

「……まず、税金の心配を、してください」

塩、だった。

でも、その前に。

俺には、ひとつ、やっておきたいことが、あった。

 

スマホを、取り出して、七海に、振込先を、聞いた。

「……は? 急に、なんですか」

「いいから。口座番号、教えて」

七海が、不思議そうな顔をしながらも、番号を教えてくれた。

俺は、その場で、指を動かして。

3,000万円を——七海の口座へ、振り込んだ。

 

通知が届いた瞬間。

七海の手の中で、スマホが、震えた。

彼女は、その画面を、見た。

見て——固まった。

「……青柳さん。これ」

「給料とは、別。ボーナス、みたいなもんだよ」

「こんな、額じゃ」

「お前さ」

俺は、ソファに深く、もたれたまま、言った。

「採用した日に、鑑定、かけたじゃん。お前のこと」

「……ええ」

「家族のために、金が要るって。早急に、って。……俺、ずっと、覚えてたんだよ。でも、あの頃は、持ってなかったから」

 

七海が、黙った。

 

「今は、持ってる。だから、渡す。それだけだ」

「……でも、これは」

「受け取れとか、受け取るなとか、言わない。お前が決めろ」

 

しばらく。

七海は、画面を、見つめていた。

 

それから——静かに、深く、頭を、下げた。

「……ありがとうございます」

声が、かすかに、震えていた。

塩対応の、完璧な秘書が。

それだけを、言った。

 

俺は、照れくさくて、わざと、ぞんざいに、答えた。

「お前が倒れたら、俺が困る。そんだけだよ」

 

窓の外。

商店街が、夕暮れに、染まっていく。

 

俺の頭は、もう、まったく別の方向で、わくわく、しはじめていた。

——こんだけ、稼げるなら。

いっちょ、すげえもん、作れるんじゃねえか、って。

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