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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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7/32

スーツのいい笑顔

ミンティーが来てから、半月ほど。

商売は、相変わらず、地味に、でも着実に、回っていた。

そんなある日の昼下がり。

その男は、アポも取らずにふらりとやってきた。

 

「やあ。こちらが、噂の”若返りの先生”のお店かな」

仕立てのいい、グレーのスーツ。値の張りそうな腕時計。

口元には、ずっと笑みが貼りついている。

ただ——その笑顔が、どうにも、いけ好かない。

目だけが、まるで、笑っていなかった。

 

「黒田と申します。同業、と言いますか……この近くで、美容クリニックを、やっておりまして」

差し出された名刺には、確かに、それらしい肩書きが、並んでいた。

「先生のお噂はね、私どもの界隈でも、ちょっとした、話題でしてね」

「はあ。どうも」

俺は、適当に、相槌を打った。

横で、七海が、すっと警戒の色を浮かべる。こいつのこういう勘は、たいてい当たる。

 

とりあえず、いつものを、やる。

鑑定。

 

黒田利一郎くろだ りいちろう/46歳・男】

表向き:美容クリニック経営者。スーツ、時計、すべて見栄

体調:胃が荒れている(ストレス性)、高血圧

性格:見栄っ張り、短気、すぐ人を見下す。プライドだけは高い

本当の状況:経営、火の車。患者が、激減している

減った理由:客が、まるごと「若返りの先生」に流れた(=俺のことだ)

腹の中:逆恨み。「あいつのせいで潰れる」。ゆすって金を取るか、店を畳ませる気

弱み①:自分のクリニックで、無資格のスタッフに、医療行為をさせている

弱み②:効果を盛った、誇大広告で、行政指導を一度受けている

弱み③:上記がバレるのを、何より、恐れている

 

……うわあ。

出るわ、出るわ。

要するにこいつ。俺に客を取られて、店が傾いて。その腹いせに来やがったわけだ。

しかも、自分の脛は、傷だらけのまま。

 

「いやあ、しかし。資格も、お持ちでないのに人様の体に、手を加えてらっしゃる。……これ、立派な医師法違反では?」

黒田は、笑顔のまま、すうっと声を低くした。

「無免許で、医療行為。バレたら、どうなるか。先生、ご存知ないわけじゃ、ないでしょう?」

そら、来た。

脅し、だ。

「私はね、別に、事を荒立てたいわけじゃ、ないんですよ。むしろ、穏便に、と思っている。……ええ。たとえば、月々、いくらか。“協力金”として、いただければ。私も、見て見ぬふりが、できる」

「……協力金」

「ええ。お互い大人ですから。ね?」

笑顔。どこまでも、笑顔。

その裏で、目だけが、ぎらついていた。

 

俺は、ふう、と、ひとつ、息を吐いた。

なるほどな。

こういう手合いか。

——だったら、こっちにも、考えがある。

 

「黒田さん、っつったっけ。あんたさ」

俺は、にっこり、笑い返してやった。

向こうに負けないくらいいい笑顔で。

「胃、痛いだろ。今も。ストレスで、キリキリ、きてんじゃねえの」

黒田の、笑みが、わずかに固まった。

「血圧も高え。短気だもんなあ、あんた。すぐ、カッとなるだろ」

「……何の、話を」

「あんたのクリニック。患者、ごっそり減ってるよな。火の車だ。……まあ、その減った客、だいたいうちに来てんだけど」

黒田の、こめかみが、ぴくりと動いた。

図星だ。

 

「で、本題。あんた、人の無免許がどうこう、言ってたけどさ」

俺は、一歩、踏み込んだ。

「あんたんとこ。資格のねえスタッフに、医療行為、やらせてるだろ」

 

黒田の顔から、すうっと血の気が、引いた。

 

「しかも、効果を盛った、誇大広告。それで、行政指導、一回、食らってる。違うか?」

「な……っ、なんで、それを」

「人の脛のことつつく前に。自分の脛、見たほうがいいんじゃねえの。傷だらけだぜ、あんた」

 

しん、と、なった。

黒田の額に、じわりと汗がにじむ。

さっきまでの、余裕の笑顔は、どこにも、なかった。

 

「……は、はったりだ。そんなもの、証拠が」

「証拠ねえ。じゃあ、こうしよう」

俺は、スマホを、ひらひら、させた。

別に、何も、入っちゃいない。ただの、ブラフだ。

でも——脛に傷がある奴ほど、こういうのに弱い。

「あんたのクリニックの”やってること”、どっかに、タレ込まれたら。困るの、どっちかな?」

「っ……」

「こっちは、せいぜい無資格の若返り屋だ。失うもん、そんなにねえ。でも、あんたは? クリニック、スタッフ、肩書き、その時計。……ぜんぶ、なくなるぜ」

 

黒田は、わなわなと震えていた。

口を、何度か、開きかけて。

結局、何も、言えなかった。

 

「協力金、だっけ。悪いけど、お断りだ。っつーか」

俺は、ドアを、指差した。

「二度と、来んな。次、来たら——今度は、本当に、タレ込むぞ」

 

黒田は、真っ赤な顔で、俺を、睨みつけた。

が、それ以上は、何も、できなかった。

捨て台詞の、ひとつも、吐けないまま。

逃げるように店を、出ていった。

ドアが、乱暴に、閉まる。

 

……ふう。

 

「……青柳さん」

ずっと黙っていた七海が、ぽつりと口を開いた。

「今の、ぜんぶ、鑑定、ですね」

「おう。丸見えだったわ。あいつの、腹ん中」

「証拠がある、みたいに言ってましたけど」

「あんなの、はったりだよ。スマホ、メモ帳しか入ってねえ」

七海が、めずらしくふっと口元を、ゆるめた。

「……えげつないですね」

「褒め言葉として、受け取っとくわ」

 

でも、と、七海が、表情を、引き締めた。

「あの手の人間は、これで、終わりとは、限りません。逆恨みを、こじらせて、また、来るかも」

「だろうな」

俺も、それは、わかっていた。

今日は、追い返した。けど、ああいうのは、湧いて出る。一人、潰したところで、また、別の黒田が、現れる。

 

「なあ、七海」

「はい」

「うちさ。そろそろ、ちゃんと守り、固めたほうが、いいかもな」

「守り、ですか」

「ああ。客は、鑑定で選べる。悪意のある奴は、弾ける。でも——場所が、ここだと。誰でも、ふらっと来れちまう。さっきの、黒田みたいに」

七海は、少し、考えて、頷いた。

「……一理、ありますね。商売の規模が、大きくなれば、なるほど。狙ってくる人間も、増える」

「だな」

 

その時の俺は、まだ、軽い気持ちで、言っていた。

「守り」なんて言っても、せいぜい鍵を増やすとか、その程度の、つもりだった。

——まさか、このあと地下三階建ての要塞を、掘ることになるとは。

この時は、まだ、知る由も、なかった。

 

ともあれ。

黒田の、いけ好かないあの笑顔を思い出して。

俺は、ひとつ、学んだ。

 

笑顔ってのは、便利だ。

人を、安心させることも、できるし。

——人を、追い詰めることも、できる。

 

俺は、自分が浮かべた”いい笑顔”の感触を、ちょっとだけ、気に入っていた。

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