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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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6/32

一目惚れは軽自動車から

七海が来てから、俺の生活は、一変した。

いい意味で、半分。残りの半分は……まあ、地獄だ。

 

初日から、容赦が、なかった。

まず、床を埋めてた段ボールが、消えた。

予約は、ノートとアプリで、二重に管理。聞き間違いも、ダブルブッキングも、ゼロになった。

一日の動き、客の入れ方、休憩のタイミング。ぜんぶ、七海が、きっちり、組んでくれる。

現場を回す段取りに関して、こいつは、まさに天才だった。

そして——例の、引き出し。

現金を放り込むのは、その日のうちに禁止された。

「お金が動いたら、最低限、いくら入ったか、ノートに書いてください。これくらいは、私のほうでも、つけておきます」

「うへぇ……めんどくせ」

「青柳さん」

「はい」

「その『めんどくせ』が、いつか、人を、破滅させるんです」

……なんか、妙に、実感のこもった言い方だった。

こいつ、前の職場で、何を見てきたんだ。

もっとも——その七海ですら、税金まわりの小難しいやつは、専門外。

俺たちは二人とも、「とりあえず、ざっくり記録だけ」で、止まっていた。

そのへんの”ちゃんと”は、いつか、誰か詳しい人に。……追々で、いいだろ、と。

 

業務が整うと、不思議なもんで、商売のほうも、ちゃんと回り出した。

とはいえ、派手なもんじゃない。

客は、相変わらず、ナベさんやクミさん経由の、商店街の口コミがほとんどだ。

ただ、若返ったばあちゃんを見た娘が来て、その娘の友達が来て……って感じで、輪が、じわじわ、外へ、広がっていく。

バズったわけでも、行列ができたわけでも、ない。

地味に、でも確実に、客は、増えていった。

 

そうして、迎えた、月末。

七海が、きっちりつけた帳簿を、俺の前に、すっと置いた。

「今月、手元に残る利益です。経費を引いた、本当の儲け」

数字を見て、俺は、しみじみ、した。

会社員時代の給料より、ちょっといい。くらい。

大金持ち、には、程遠い。

でも——汗もかかず、痛い思いもせず、これだけ残る。

それは、俺の二十六年の人生で、初めての、感覚だった。

「……俺、生まれて初めて、金が、ちゃんと手元にあるわ」

「では、貯金、しましょうね」

「やだ」

「は?」

「使う。せっかく稼いだんだから」

貯金なんて、つまらない。

金は、天下の回りもの。使ってこそ、なんぼだ。

……まあ、この考え方が、後で、ちょっと効いてくるんだけど。

 

その日の、仕事終わり。

俺は、ひとり、商店街を、ぶらついていた。

なんか、買うか。記念に。デカいやつを。

そう思って、歩いてた、その足が——ふと、止まった。

 

中古車屋の、店先。

そこにいた。

 

ちょっと色褪せた、ミントグリーンの、軽自動車。

年式は、古い。傷も、ちょいちょいある。

でも。

その、まるい目みたいなヘッドライトと、気の抜けたみたいな色を見た瞬間、俺の胸が、ぎゅっと鳴った。

「……こいつだ」

一目惚れ、だった。

理屈じゃ、ない。ビビッと、来ちまった。

「店員さん。これ、これ、ください。今日。今すぐ」

「えっ、あ、はい。試乗とか、されなくて……?」

「いらない。決めた。こいつと帰る」

 

俺の悪い癖が、思いっきり、出ていた。

ビビッと来たら、即決。値段とか、燃費とか、そういう冷静なやつは、ぜんぶ、後回し。

ケチる気は、ない。むしろ、金は出す。

ただ——惚れたものに理由を、つけたくないだけだ。

幸い中古の軽だ。人生初の利益で、ちゃんと手が届いた。

 

翌日。

ミントグリーンの相棒に乗って、ご機嫌で出勤した俺を、七海が、玄関先で、待ち構えていた。

「……青柳さん。あれは」

「おう。昨日、買った。かわいいだろ。名前、つけようと思っててさ。ミントだから……ミンティー、とか」

「いくらでした」

「……まあ、諭吉さんが、何人か、旅立ったな」

「領収書は」

 

……出た。

その、四文字。

「車、買ったんですよね。仕事の移動に使うなら、それ、経費に、できる可能性があります」

「けいひ?」

七海が、こめかみを、軽く押さえた。

「経費。仕事のために使ったお金のことです。ざっくり言うと、売上から引けるので、その分だけ、払う税金が、安くなる。……まあ、正しい線引きとか、細かいやり方になると私も、自信ないですけどね」

「……へえ」

ん。待てよ。

俺の、こういう時だけよく回る頭が、変な方向に、動きだした。

「じゃあ、俺。いろいろ買えば買うほど、税金、安くなんの? それ、最高じゃん。今日から、爆買いするわ」

「なりません」

ぴしゃり、だった。

「仕事に関係ないものは、経費に、できません。あと、買えば買うほど、手元のお金は、普通に、減ります。当たり前です」

「あ、そっか」

「それと。その車の、領収書。……ちゃんともらってきましたか」

「……りょうしゅう、しょ」

「もらって、ないんですね」

七海が、深い深いため息を、ついた。

出来の悪い弟を見るような目だった。

「……記録は、その都度。あれだけ、言いましたよね」

「ごめんて」

 

でも、まあ。

その日。ミンティーの助手席に七海を乗せて、近所のうまい定食屋まで、走った時。

窓の外を、流れていく景色を見ながら。

七海が、ちょっとだけ、口元を、ゆるめてたのを。

俺は、見逃さなかった。

「なんだよ。やっぱ、かわいいだろ、こいつ」

「……べつに。色は、悪くないと思っただけです」

ふいと、そっぽを向く。

うん。なんだかんだ、こいつとは、うまくやっていけそうだ。

 

金は、ちょっとずつ、入るようになった。

そして、入った先から、俺は、気持ちよく使っていく。

車は、その、ほんの、第一歩。

 

……まあ、デカい金が動くのは、もうちょっと先の話。

今はとりあえず、ミンティーと、七海と。

ぼちぼち、楽しく、やっていくさ。

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