侵入者は、笑わない
一気に投稿したので6話と7話が同じ内容になってしまい間違えてしまいました。すいません。
7話目変更しました。
もしよろしければ読んでほしいです!
基地が完成して、しばらく。
鷹司さんからは、「近いうち、信用できる相手を紹介する」と、連絡が来ていた。
桁違いの上客を迎える準備は、整った。あとは、その第一号を、待つだけ。
商売は、順調。守りも、固い。
——そう、思っていた、ある夜のことだ。
その夜。俺は、地上のボロ屋のソファで、ぐうすか、寝ていた。
夢の中で、なぜか、巨大なクリームソーダと、追いかけっこを、していた。緑のやつが、やたら、速い。逃がすか。
と——枕元のスマホが、ぶるぶる、震えた。
「ん……なんだよぉ……ソーダ、待てって……」
寝ぼけた手で、画面を、引き寄せる。
通知が、一件。
『[警告]外部からの不審なアクセスを検知』
「……ふーん。不審なアクセス、ね」
ぽいと、スマホを置いて。俺は、また、目を、閉じた。
………………。
「不審なアクセスっ!?」
三秒後。跳ね起きた。
ADHDの俺は、たまに、ヤバさの理解が、ワンテンポ遅れて、到着する。今日の便は、三秒、遅延した。
パジャマのまま、エレベーターに、飛び込む。地下2階。
管制ルームでは、七海が、モニターを、にらんでいた。
こんな時間まで、起きてたのか。……いや、こいつが寝てるとこ、そういや、あんまり見たことねえな。
「……青柳さん。来てます」
「誰が。ソーダが」
「は?」
「いや、なんでもない。続けて」
「……寝ぼけてるなら、顔、洗ってきてください。話が、進みません」
「起きてる起きてる。バリッバリ起きてる」
念のため、自分に、回復を、かけた。寝ぼけが、すうっと抜ける。便利。
「で。何が、来てんの」
「わかりません。ただ——」
七海が、画面を、指で、なぞる。
「普通じゃ、ないです。これ」
俺は、モニターを、覗き込んだ。
ログが、ものすごい速さで、流れている。意味は、さっぱり、わからない。
でも、七海の、顔色が、いつもと違う。こいつが、こんな顔をするのは——本当に、まずい時だけだ。
「やばいの?」
「……技術的には、相当、やばいと思います。うちのセキュリティ、一流の業者に、大金を積んで、組ませたものですよ。それを、こんなにあっさり……」
「待て。お前、これ、わかんの?」
「いいえ。半分も、追えてません」
「即答だなおい」
「私は、段取りと、管理の人間です。中の細かい技術は、業者の領分。……だから、よけいにこわいんです。何をされてるのか、こっちが、わからない」
なるほど。守りは、金で、最高のを、買った。でも——いざ破られた時に、何が起きてるか読める人間は、この基地に、一人も、いない。
……って。それ、けっこう、致命的じゃね?
「七海。うち、頭脳が、足りてねえな」
「今、気づかないでください。基地、建て終わってます」
ま、それは、後で考えるとして。
俺は、目を、細めた。
そして——鑑定を、飛ばした。サーバーの向こう。このアクセスの、根っこにいる、人間へ。
【水瀬澪/22歳・女】
腹の中:悪意、ゼロ。害意、ゼロ。ただの——好奇心
いちばん強い感情:「このサーバー、めちゃくちゃ面白い」
いちばん思ってること:「もうちょっと見ていい?」
「……七海。こいつ、悪い奴じゃないわ」
「は?」
「鑑定した。面白いから入ってきた、ってだけ。データ抜く気も、壊す気も、ゼロ。完全に、観光気分」
「観光って……うち、観光地じゃ、ないんですけど」
「不法侵入の、観光客だな」
「字面が、地獄です」
——と。
そこで、ふと、思いついた。
人を鑑定するみたいに。この、流れてる“データそのもの”を、鑑定したら、どうなる?
試しに、モニターを流れるログに、意識を、向けてみる。
念じる。
【アクセスログ/解析】
種別:外部からの探索アクセス
性質:破壊・窃取の痕跡なし。閲覧・観察が目的
手口:既存の防御を、内側からすり抜けるタイプ。極めて高度
発信源の状態:単独。商用ツールではなく自作の道具を使用
「……お。出た」
「何が、出たんですか」
「ログ。鑑定したら、中身、見えたわ。破壊目的じゃない観察だけ、自作ツール、単独……だってさ」
七海が、ゆっくり、振り向いた。
「……今、なんて」
「だから、データも、鑑定、できた」
「人だけじゃ、なかったんですか。その力」
「みたいだな。今、知った」
「今っ……!?」
七海が、椅子から、ずり落ちかけた。
「とんでもない発見を……こんな緊急時に……寝ぐせ、直しながら、サラッと……」
「いやその寝ぐせ直し、地味に重要でな。気が散ると、鑑定、ブレんだよ」
「嘘です。絶対、今、適当言いました」
「ま、能力の話は、後で。それより——」
俺は、キーボードを、引き寄せた。
「ちょっと話しかけてみる」
「は?」
「侵入者と、世間話」
「正気ですか」
俺は、七海に教わった最低限のやり方で、ログに、直接、メッセージを、叩き込んだ。
『よう。楽しんでるか?』
一瞬、アクセスが、止まった。数秒の、沈黙。
それから——返信が、来た。
『楽しんでる。
このサーバー、変なの。
外から見たら、ただのゴミ箱みたいなのに中、すごいじゃん。』
「……不法侵入者に、普通、返信、しますか」
「向こうも、返してきてんじゃん」
「会話が、成立してるのが、いちばん、こわいんですよ」
『ゴミ箱に見せてんのは、わざとだ。
お前、名前は?』
『澪。
お前は?』
『りおん。ここの、持ち主。』
しばらく間。
『……ふーん。
怒らないの?』
『怒る理由が、ない。何も、してないだろ。』
また、間。今度は、少し、長かった。
『珍しい人間だね。
普通、こういう時、警察呼ぶか、ブチ切れるかの、どっちかなんだけど。』
「……正論です」七海が、ぼそっと。「私なら、両方、します。今すぐ」
「こわ」
『一個、聞いていいか。』
俺は、打った。
『なに。』
『うちに来る気ない?』
長い沈黙。アクセスログが、ぴたりと止まった。
……切られたか? と、思った瞬間。
『……条件による。』
俺は、思わず、口の端が、上がった。
「……七海。こいつ、採用したい」
「まだ、何も、決まってませんし。そもそも、現行犯ですけど」
「ビビッと来た」
七海が、深い深い、ため息を、ついた。
「……ミンティーを買った時と、まったく同じ目、してます」
「あれも、当たりだったろ?」
「軽自動車と、不法侵入者を、同じ“ビビッと”の棚に、並べないでください」
画面の向こうの、澪が、また、何か、打ってきた。
『りおん、っていうんだ。
へえ。
……そのサーバー作ったの、誰? 隣にいる人?』
俺は、ちらっと七海を、見た。七海が、「嫌な予感」って顔を、する。
『そう。うちの、超有能な秘書だ。』
——正確には、業者に“作らせた”人、だけどな。細けえことは、いい。今のこいつの仕切りが、すげえのは、本当だし。
『ふーん。
じゃあ、その人に、伝えといて。』
『なんて?』
少しの、間。
『——「いい仕事してる。でも、ここ、まだ甘い」って。
三カ所、見つけた。
直し方、教えてあげてもいいよ。会えたらね。』
七海の、こめかみが、ぴくりと動いた。
自分が業者を選んで、金を積んで、組ませた守り。それを、「甘い」と、たった一人に、遊び半分で言われたのが——相当、効いたらしい。
「……青柳さん」
「ん?」
「その子。会いましょう」
「お。さっきまで“現行犯”っつってたのに急に乗り気じゃん」
「ええ。ぜひ、お話を、聞きたいです。……どこが甘いのか、きっちり、三カ所、教えてもらわないと。気持ちよく眠れません」
塩対応の奥で、めらり、と、火が、点いていた。
「お前さ。守りのこと言われると急に、人格、変わるよな」
「プロですので」
「採用基準、“ビビッと”の俺と、どっこいどっこいだぞ、それ」
「一緒にしないでください」
俺は、笑いをかみ殺しながら、最後のメッセージを、打った。
『澪。会おうぜ。場所と時間、そっちで決めていい。』
返信は、すぐ、来た。
『いいよ。
……でも、ひとつだけ言っとく。』
『なんだ?』
『あたしを“見つけられた”の、お前が初めてだ。
それが、ちょっとだけ——面白い。』
そして、アクセスは、ふっと消えた。
潮が引くみたいにきれいに。何の、痕跡も、残さずに。
「……行っちゃいましたね」
「ああ」
俺は、モニターを、見つめたまま、つぶやいた。
「でも、また、会える。あいつ、そういう顔、してたわ」
「鑑定で、ですか」
「いや。なんとなく」
「……いちばん、あてにならないやつですね、それ」
——人だけじゃなく、データも、見抜ける。
そんなとんでもない発見をした、その夜。
俺は、もう一つ、確信していた。
近いうち、うちのチームに。とびきり、面白いのが、一人、増える。
そんな予感が、した。
……ちなみに。
そのあと七海が「三カ所、どこですか。気になって、寝られません」と、真顔で詰めてきたので。
俺は、「知るかよ、本人に聞け」と言って、ソファに、戻った。
緑のソーダの夢の、続きを、見るために。
——澪と会うのは、その、二日後だ。




