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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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4/32

タダより高いものはない

噂が広がるのは、あっという間だった。

火付け役は、あのおばちゃん。商店街で魚屋をやってる、クミさんだ。

 

ナベさんの若返った顔を見たクミさんは、その日のうちに、商店街じゅうに言いふらした。

曰く、「わたなべのナベちゃんが、急に10歳若返った」。

曰く、「やったのは、あの青柳んとこのドラ息子らしい」。

曰く、「手をかざすだけで治るんだって。魔法みたいに」。

……ドラ息子は、余計だ。

 

翌日から、俺のスマホが鳴り止まなくなった。

知らない番号。知らないLINE。ぜんぶ、「紹介で」。

「シミを消してほしい」

「白髪をなんとかして」

「五十肩が、もう何年も」

「老眼で、新聞が読めなくて」

「うちのポチも、最近、足腰が……」

いや、ポチは専門外だ。たぶん。試したこと、ねえし。

 

最初のうちは、ノリでタダでやった。

シミが消えたおばさんは、鏡の前で十分くらい固まってたし。

白髪が黒くなったおっさんは、握手を求めてきた。

みんな、想像の何倍も、喜んだ。

……ただ、その日の、三人目。

ちょっと、勝手が違った。

 

来たのは、腰の曲がった、小柄なおじいさんだった。

歳は、80手前くらいか。

ぶ厚い眼鏡の奥で、目が、白く濁りかけている。

「すまんねえ。噂を聞いて……わしの、目を、なんとか、できんかと思って」

鑑定を、かける。

 

田村作造たむら さくぞう/78歳・男】

体調:両目に白内障(進行)、ほかは年相応

性格:穏やか、我慢強い、ちょっと寂しがり

本当の願い:亡くなった妻の写真を、もう一度、はっきり見たい

 

……あー。

なんか、見ちゃいけないもん、見た気がする。

おじいさんは、震える手で、財布から、すり切れた一枚の写真を取り出した。

「去年、婆さんが、逝ってねえ。……この写真しか、残っとらんのに、最近、ぼやけて、よう見えんのよ」

俺は、何も言わずに、おじいさんの目元に、そっと手をかざした。

念じる。濁った水晶体を、澄んだ、若い頃のものに。

光が、引いていく。

 

おじいさんが、眼鏡を、ゆっくり外した。

そして、写真を、顔の前に、近づけた。

……固まった。

しばらく、ひと言も、しゃべらなかった。

やがて、皺だらけの頬を、つうっと、涙が伝った。

「……見える。婆さんが、笑っとる。……ああ、こんな顔、しとったなあ」

 

俺は、なんも、言えなかった。

金がどうとか、ビジネスがどうとか、さっきまで頭の大半を占めてたことが、全部、すうっと、どっかに行った。

ただ、胸の奥が、変な感じに、あったかかった。

こんな感覚、いつぶりだろう。思い出せないくらい、久しぶりだ。

 

おじいさんは、何度も何度も頭を下げて、帰っていった。

ドアが閉まって、店に一人になって、俺はしばらく、ぼーっとしてた。

 

……いや。

待て待て。流されんな、俺。

情に厚いのは、まあ、認める。さっきのは、ちょっと、来た。

でも、それとこれとは、話が別だ。

全員にこのノリでタダ働きしてたら、俺が干上がる。働かずに遊んで暮らす夢は、いったいどこへ行った。

俺は、頬を両手でぱちんと叩いて、頭を切り替えた。

 

冷静に考える。

俺がいまタダで配ってるのは、世界中の美容クリニックが、何十万も取ってるサービスだ。

しかも、向こうより上等で、痛くなくて、一生モノ。

それを、無料。

……バカか、俺は。

 

よし、値段をつけよう。

でも、いくらだ。

ペンとノート(また登場した)を前に、腕を組む。

原価は、ほぼゼロ。減るのは俺の体力だけ。ってことは、いくらに設定しようが、まるっと儲けになる。

だったら馬鹿高くしてもいいんだが……いきなりぼったくると、客が逃げる。

最初は入りやすい値段にして、リピーターと口コミを取りにいく。値上げは、行列ができてからでいい。

……我ながら、この手の計算だけは、ほんとによく回る。

 

俺は、ざっくり“メニュー”を組んでみた。

【お試し若返りコース】

シミ・シワ・白髪・薄毛など、見た目のお悩み……1回 9,800円

【お悩み回復コース】

老眼・関節痛・五十肩など、体の不調……1回 19,800円

【応相談コース】

その他、重めのやつ……要見積もり

 

末尾を「800」にしたのは、なんとなく、安く見えるからだ。スーパーのチラシで学んだ、庶民の知恵である。

 

ただ、ひとつだけ。

値段表を眺めながら、自分の中で、こっそりルールを決めた。

ふんぞり返った金持ちや、見栄っ張りからは、きっちり、いただく。むしろ、ガッポリもらう。

でも、さっきのじいさんみたいに、本当に困ってる相手から、足元を見て、ぼったくるのだけは、やめておく。

そういうのは、なんつーか、品がない。

……柄にもなく、そんなことを思った。

たぶん、あのじいさんの涙のせいだ。明日には、忘れてるかもしれんけど。

 

翌日、俺は初めて、人から金を受け取った。

一万円札が、二枚。

受け取った瞬間の、あの、ずしっとくる感覚。

……やべえ。これは、クセになるやつだ。

俺は、その二枚を、机の引き出しに、ぽいっと放り込んだ。

領収書も、帳簿も、なんもなし。

……まあ、いいだろ。たかが、小遣いみたいなもんだ。

(この「まあいいだろ」が、ずっと先で、とんでもないことになる。けど、今の俺は、まだ知らない)

 

問題は、別のところにあった。

予約だ。

ひっきりなしに鳴るスマホ。ダブルブッキング。日時の聞き間違い。

正直、施術そのものより、その“管理”のほうが、よっぽど疲れる。

なにせ俺は、ADHD全開で、平気で予定をすっ飛ばす男だ。手帳をつけても、その手帳をどこに置いたか忘れる。

「……これ、一人じゃ、無理だわ」

誰か、いる。

俺の代わりに、ぜんぶ仕切ってくれる、しっかり者が。

——そう思った時にはもう、俺はスマホで、求人サイトを開いていた。

 

その夜。

引き出しを開けると、一日でそこそこの厚みになった札束が、入っていた。

夢にまで見た、不労所得。……いや、ちょっとは労働してるけど。

ニヤニヤ、できると思った。

 

でも、不思議と、思い描いてたほどには、ニヤつけなかった。

頭のどこかに、まだ、あのじいさんの「見える」っていう、震えた声が、残ってる。

俺がもらったこの力は、たぶん、最初に思ってたより、ずっとデカい。

遊んで暮らすのにも、人を救うのにも、人を騙すのにも、使える。

どう使うかは、ぜんぶ、俺次第ってことだ。

「……神様も、面倒なもん、寄越したよなあ」

俺は、引き出しを、ぱたんと閉めた。

まあ、難しいことは、明日の俺が考える。今日の俺は、もう、眠い。

 

とりあえず、明後日。

面接の予定を、ひとつ、入れた。

どんな物好きが、来るのやら。

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