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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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3/32

記念すべき1人目

行き当たりばったりは、得意だ。

というか、それしか取り柄がない。

俺は商店街の外れにある、小さな焼き鳥屋の暖簾をくぐった。

「焼き鳥 わたなべ」。

学生の頃から通ってる、俺の第二の実家みたいな店だ。

 

まだ仕込みの時間で、客は誰もいない。

カウンターの向こうで、大将がひとり、黙々と串を打っていた。

「おう、りおん。まだ昼間だぞ。飲みに来るにゃ早すぎだろ」

渡辺健三わたなべ けんぞう。今年で58になる、この店の主だ。

みんなからは「ナベさん」と呼ばれてる。

無口で、無愛想で、でも煮込みは町内一うまい。俺にとっちゃ、親父みたいな存在でもある。

「いや、今日は飲みに来たんじゃなくて……ちょっと、相談っつーか、頼みがあって」

「あ? 金なら貸さねえぞ」

「逆。むしろ、こっちが何かしてやろうかって話」

ナベさんは串を打つ手を止めて、胡乱な目で俺を見た。

「……お前、なんか悪いもんでも食ったか」

 

「真面目に聞いてくれ。実は俺、昨日から……人を若返らせる力が、使えるようになって」

言った瞬間、空気が固まった。

「……帰れ」

「待って待って早い。判断早いって」

まあ、そうなる。普通は信じない。俺だって逆の立場なら、塩撒いて追い返す。

でも、こういう時のために、俺には“営業ツール”がある。

俺はナベさんの顔を、じっと見据えた。

念じる。

——鑑定。

 

【渡辺健三/58歳・男】

体調:右膝の軟骨がかなり摩耗(本人は黙って我慢中)、血圧高め、慢性的な腰の張り

性格:照れ屋、面倒見がいい、頑固

最近の悩み:来年に控えた、一人娘の結婚式の費用

秘密:奥さんに内緒のへそくり、32万円(仏壇の裏)

 

「うっわ。出る出る。全部出るな、これ」

思わず、声が漏れた。

ナベさんが眉をひそめる。

「なんだよ、気色悪い」

よし。いっちょ、信じてもらうか。

「ナベさん。あんた、右膝、けっこう前から痛いだろ。階段降りる時、本当はかなりキてるはずだ。それを、誰にも言わずに我慢してる」

ナベさんの手が、ぴたりと止まった。

「血圧も高めだし、腰も張ってる。健康診断、去年からシレッと逃げてるだろ」

「な……なんで、それを」

よし、効いてる。畳みかけよう。

……いや、待て。

次のは、言わないほうがいい。

仏壇の裏のへそくり32万円とか、ここでバラしたら、たぶん本気で塩を撒かれる。

俺は、そっと口を閉じた。賢明な判断だ。我ながら、引き際だけは弁えてる。

「お前……どこで、それを聞いた」

「だから言ったろ。力が使えるようになったんだって。膝、治してやるよ。タダで。お試しだ」

「タダ……?」

「その代わり、もし本当に治ったら、知り合いに俺のこと、ちょっと宣伝してくれ。それでチャラ」

 

ナベさんは、しばらく俺の顔と自分の膝を見比べて、それから、観念したみたいに、小さく頷いた。

俺はカウンターを回り込んで、ナベさんの右膝に、そっと手を当てる。

念じる。

今度は、力を“治す”方向に。すり減った軟骨、くすぶった炎症、こわばった筋。鑑定で見えてる「悪いところ」を、ぜんぶ、元あった状態に戻していくイメージで。

 

手のひらが、じんわり温かくなる。

ナベさんの膝が、淡い光に包まれた。

数秒。

光が、すっと引いていく。

「……どうだ、ナベさん。立って、歩いてみ」

ナベさんは、半信半疑のまま、カウンターから出てきた。

右足に、そろそろと、体重をかける。

……かけて、固まった。

「……痛く、ねえ」

もう一歩。今度は、しっかり踏み込んだ。

「痛く、ねえぞ。何年も……階段で、いてててってなってたのが……ウソみてえに、なんともねえ」

ナベさんの声が、震えていた。

「ついでだ。顔も、ちょっと元気にしとくわ。サービス」

俺は、ナベさんの肩のあたりに手をかざして、もう一度、念じた。

くすんでた肌に、血色が戻る。

目の下のクマが、すうっと薄くなる。

深く刻まれてた眉間のシワが浅くなって、目元に、ハリが戻ってくる。

別人になった、ってわけじゃない。ナベさんは、ナベさんのままだ。

ただ、どう見ても、10歳は若返っていた。

 

ナベさんは、店の鏡を覗き込んで、絶句していた。

「……これ、俺か」

「あんたの顔だよ。元が、ちょっと元気になっただけ」

 

その時だった。

からり、と店の引き戸が開いた。

「ナベちゃん、まだやってない? あら……」

常連の、近所のおばちゃんだ。

入ってくるなり、ナベさんの顔を見て、目を丸くした。

「ナベちゃん……あんた、なんか、若くない? えっ、何したの。どこの美容外科よ、それ」

ナベさんと、俺の目が合う。

俺は、にやりと笑った。

——商売の、はじまりの音がした。

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