若返り、無料でやります(※詐欺ではありません)
翌朝。
俺は珍しく、目覚ましより早く目が覚めた。二日酔いも寝不足も、昨日まとめて治したからだ。体が軽い。頭も冴えてる。控えめに言って、絶好調。
「よっしゃ。今日から俺は、若返りビジネスでひと儲け……」
ノートとペンを用意して、ローテーブルの前にあぐらをかく。やる気は満タン。準備は万端。
……で、何すりゃいいんだ、これ。
ペン先がノートの上で止まったまま、たっぷり五分が経過した。
冷静に考えてみる。俺が持ってるのは、人を治して、細胞ごと甦らせるバグみたいな力。商品としては、たぶん世界最強。問題は……その商品を、どうやって客に届けるか、だ。
「店があるわけじゃねえ。看板もねえ。資格もねえ。実績は……当然ゼロ」
要するに俺は、世界一うまいラーメンを作れるのに、店も知名度もない料理人みたいなもんだ。味は保証できても、そもそも誰も、食いに来てくれない。
とりあえず、思いつく集客方法を、片っ端からノートに書き出してみる。
一、チラシをポスティング。
『あなたの肌、若返らせます』——いや、字面が完全に、怪しいエステか新手の宗教だ。ポストに入ってたら、俺でも一秒で捨てる。
二、SNSで宣伝。
これはアリかもしれない。タダだし、匿名でいける。
三、フリマアプリ、スキル販売サイト。
『若返り、承ります』——運営に秒で消されそう。つーか、ここまで書いて気づいたけど、全部に共通する欠陥がある。
「……どうやっても、『本物だ』って証明できねえんだよな」
そう。これが核心だ。
世の中、若返らせるなんて謳ってる商品は、星の数ほどある。その中で、見ず知らずの俺が「いや、俺のは本物なんで」と言ったところで、響くわけがない。怪しさで言えば、むしろ平均点より下だ。
ペンを置いて、腕を組む。と、ここで俺の悪い癖が出た。
……あ、そういや昨日の唐揚げ、まだ食ってねえな。あとプライムで観ようと思ってたやつ、何だっけ。あの、宇宙のドキュメンタリーの……
「……っと。ADHD、ADHD。戻ってこい、俺」
頬を軽く叩いて、飛んでった思考を引っ張り戻す。我ながら、ほんと油断するとすぐ別の島に泳いでいく。
でも、不思議なもんで、こうやって一回脱線して戻ってくると、逆に頭がスッキリして、要点だけ太く残ってたりする。今もそうだ。さっき自分で言った言葉が、やけに引っかかってる。
——『本物だって、証明できない』。
ここで、ふと気づいた。
俺、その証明する手段、すでに持ってんじゃねえか。
鑑定だ。
昨日、自分を鑑定したら、体調から所持金、来月の家賃の心配まで、丸見えだった。ってことは……初対面の相手にも、同じことができるってことだ。会ったばかりの他人の、本人しか知らない不調や、隠してる悩みを、ズバッと言い当てる。
「……それ、当てられたら。普通、信じるしかなくね?」
人が財布を開く時、一番でかいハードルは「こいつ、信用できんのか?」って疑いだ。怪しい若返り屋を信じさせるなんて、本来は無理ゲーに近い。
でも、向こうが必死に隠してる秘密を、こっちが先に言い当てちまえば……その壁は、たぶん一発で壊れる。
治す力が「商品」なら、見抜く力は「営業」だ。役割が、きれいに二つに分かれてる。
「神様……あの人、ほんわかしてるくせに、地味にバランス考えてくれてたのかもな」
よし、方針は決まった。あとは、最初の一人だ。
とはいえ、いきなり対面で「あなたの秘密、当てます」なんて始めたら、ただの不審者でしかない。まずは小手調べに、匿名でいっちょ試してみるか。
俺はスマホで捨てアカウントを作り、深く考えずに、こう投稿した。
『【無料モニター募集】お肌、若返らせます。シミ・シワ・白髪・薄毛、ぜんぶいけます。痛みなし、傷なし、整形でもなし。怪しくないです』
……投稿して、三十秒で気づいた。
「最後の一文が、一番怪しいわ」
案の定だった。反応は、ゼロ。たった一つだけついたリプは、見知らぬアカウントからの『詐欺乙』、四文字。
まあ、そうなる。文字だけじゃ、俺のヤバさは……いい意味のヤバさは、一ミリも伝わらない。
やっぱり、これは。
直接、会って。見せて。当てる。
それしか、ねえ。
俺はノートを閉じて、立ち上がった。財布とスマホをポケットに突っ込み、ついでに上着を羽織る。
「探しに行くか。記念すべき、一人目を」
どこに行けば、ちょうどいい“最初の客”が見つかるか。
——その当てだけは、なんとなく、あった。




