神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました
青柳りおん、26歳、独身。
好きなものは金、酒、メシ、それから遊び。嫌いなものは早起きと、財布の中身が寂しくなる瞬間。
夢は「働かずに一生遊んで暮らす」こと。要するに、どこにでもいるダメな大人である。
……と、自分でも思ってたんだが。
正直、今は、それどころじゃない。
先月、三年勤めたブラック企業を、心も体も限界で、辞めた。以来、絵に描いたような、無職だ。
雀の涙の退職金と、わずかな貯金は、ものすごい勢いで、溶けていってる。
このマンションも、勤めてた頃から住んでる部屋。来月の家賃を払ったら、もう、後がない。
遊んで暮らす夢の前に、まず、明日のメシと、家賃が、やばい。
その日も俺は、昼過ぎにようやく起きて、ソファに沈みながらスマホをいじっていた。前の晩の、ヤケ酒がまったく抜けておらず、頭の奥がズキズキと脈打っている。
「あー……二日酔いだりぃ。神様、誰か俺に一生分の金くれねえかなー……」
完全に、独り言のつもりだった。
だが、返事があった。
「いいですよ」
「は?」
声のした方を見て、俺は固まった。
いつの間にか、部屋のど真ん中に女が立っていた。
いや……女、なのか?
白い着物みたいなのを羽織って、足元がうっすら透けている。その背後で、俺の観葉植物が普通に透けて見えていた。
「ちょ、待て待て待て。誰だお前。どっから入った。つーか足、ねえじゃん」
「神様、ですよ」
「カミサマ?」
「ええ。さっき呼んでくれましたよね。『神様、金くれ』って」
自称・神様は、ふんわりと微笑んだ。声も物腰も、春の昼寝みたいにのんびりしている。
怒っている気配は、まるでない。
「もう。お足がないだの、お前だの……口が悪いですねえ、あなた」
「いや幽霊みてえに湧いて出たらビビるだろ普通」
「ふふ。暇でしてねえ。たまーに人間に力を授けて、どうなるか眺めるのが趣味なんです。今日は、あなたが当たりですよ」
「宝くじみてえに言うな」
「それで、何がご希望ですか? お金そのものは……つまらないので、ナシで。すぐ飽きちゃいますしね。代わりに……そうですねえ」
神様は、ぴっと俺を指差した。指先から、淡くてあたたかい光がこぼれる。
「『回復』と『鑑定』、差し上げます」
「かい、ふく」
「治す力。それから、見抜く力です。組み合わせ次第で、お金くらい唸るほど稼げますよ。やり方は……ご自分で、考えてみてくださいね。それでは」
「いやちょっと待——」
言い終わる前に、神様はふっと、ロウソクの火みたいに消えた。
あとには観葉植物だけが、何事もなかったような顔で残っていた。
「……夢か?」
頬をつねる。痛い。二日酔いの頭もちゃんと痛い。夢じゃない。
……で、何だっけ。回復と、鑑定。よし、まずは……あ、そういや昨日の唐揚げ、冷蔵庫に残ってたな。あとで食お。いや待て、今その話じゃない。
「……あっ、やっば。ADHD出てた。集中、集中」
ひとつ深呼吸して、意識を引き戻す。
我ながら、頭ん中の交通整理だけは昔っから苦手だ。そのくせ、いざ「損か得か」って話になると、急にスイッチが入ったみたいに回り出すんだから、不思議なもんだけど。
俺はおもむろに、自分の右手を顔の前に持ち上げた。
「回復と、鑑定……まあ、試すだけタダか」
とりあえず、軽い方からいこう。自分の右手を、じっと見つめて念じる。
——鑑定。
すると、視界の端に、半透明の文字がふわりと浮かび上がった。
【青柳りおん/26歳・男】
体調:二日酔い(軽度)、睡眠不足、肝臓やや疲れ気味
性格:遊び好き、楽しいこと最優先、面倒くさがり。ただし情には厚い
所持金:14,200円
直近の悩み:来月の家賃
「……うっわ。所持金まで出んのかよ。しかも当たってる。家賃、マジでやべえんだよ実際……」
というか、性格までバラされるのは普通に気まずい。「情には厚い」のところだけはちょっと嬉しかったが、それは黙っておく。誰にも言ってないし。
次。回復。
俺は二日酔いの頭に手を当てて、念じてみた。
「治れー……」
瞬間、ぬるい光がじんわり広がって……スッ、と頭の痛みが引いた。
いや、頭だけじゃない。重かった体が軽い。だるさが嘘みたいに消えて、寝起きとは思えないくらい頭が冴えている。
「……うそだろ。完全に抜けた。二日酔いが、ゼロ。これ……二日酔いどころか、寝不足まで治ってね?」
俺はソファから跳ね起きた。
待て。落ち着け、りおん。整理しろ。
治す力。見抜く力。神様は言った。「組み合わせ次第で金くらい唸るほど稼げる」と。
俺はもう一度、自分の右手をまじまじと見た。
念じる。今度は……力を、ぐっと強めるイメージで。
「若返れ……いや、なんつーの、細胞? とにかく、元気になれ」
ふわっと、手の甲が淡く光った。
産毛の先から、目に見えないくらい細かい粉みたいなものが、ぽろぽろと剥がれ落ちていく。古い角質——死んだ細胞だ。
それと入れ替わるように、内側から新しい肌が押し上がってくる感覚があった。
光が、すっと収まる。
俺の右手は、さっきと同じ「26歳の手」のはずなのに、明らかに質感が違っていた。毛穴がきゅっと引き締まって、表面はしっとりと均一。血色がよくて、内側からふっくら張っている。
試しに、左の指で甲をぐっと押してみた。
——ぽいんっ。
跳ね返ってきた。押した分だけ、弾力でちゃんと押し返してくる。
「いや弾むのかよ。プルッ……プルプルじゃねえか。赤ちゃんか。赤ちゃんの手か、これは」
別に、子供の手になったわけじゃない。サイズも骨格も、ちゃんと俺の手のままだ。
ただ、細胞のひとつひとつが、生まれたてみたいに作り直されている。死んだ細胞は除去されて、生きてる細胞はフルパワー。
「年齢を巻き戻す」っていうより、「細胞を、最高の状態に甦らせる」——そういう力らしい。
「…………なるほどな。若返らせるっつーより、これ、細胞を活性化させてんのか」
俺はその手を、しばらく無言で握ったり開いたりした。
頭の中で、何かがカチッとはまる音がした。
二日酔いが治る。寝不足が消える。死んだ細胞を除去して、肌を生まれたてに甦らせる。
しかも鑑定で、相手のどこがどう悪いか、ぜんぶ見える。
つまり、だ。
「これ……世の中の『金払ってでも若返りてえ』『どこ悪いか知りてえ』って層、まるごと相手にできるんじゃね?」
さっきまで唐揚げに向いてた頭の回路が、一気に金の計算へ切り替わる。我ながら、こういう時だけは速い。
エステ、美容医療、健康診断、アンチエイジング。世間が何兆円もぶっ込んでる市場。だが連中はもれなく「痛い・高い・時間かかる・たまに失敗する」を抱えてる。
対して俺は、痛みゼロ、傷ゼロ、ダウンタイムゼロ、失敗ゼロ。おまけに鑑定で、「どこをどう治せば一番効くか」が最初から丸見え。原価なんて、ほぼ俺の体力だけだ。
……要するに、負ける要素が見当たらねえ。
俺は立ち上がって、誰もいない部屋に向かって高らかに宣言した。
「神様、ありがとな。俺、これで……働かずに、一生遊んで暮らすわ」
……まあ、タイトルの通り、そうは、うまくいかないんだけど。
それは、もうちょっと、先の話だ。
「回復チートで無双 → でも税金を払ってなくて逮捕」という、ゆるくて楽しい成り上がりコメディを目指して書いています。主人公りおんと、塩対応の秘書・七海のかけあいを気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです。
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※本作はカクヨムにも掲載しています。




