確定
矢島さんからメールが来た。
「追徴税額が確定しました」
数字が書いてあった。
俺はそれを三回読んだ。
三回読んでも、桁は変わらなかった。
「七海」
「はい」
「見てくれるか、これ」
七海が画面を覗き込んだ。
一秒。
二秒。
三秒。
「……青柳さん」
「うん」
「払えますか」
「……払える。たぶん」
「たぶん」
「……ぎりぎりだと思うけど」
七海が帳簿を開いた。
電卓を出した。
数字を打ち始めた。
俺は結果が出るまで、お茶を飲んでいた。
七海が電卓を置いた。
「……本税と加算税と延滞税。全部合わせると」
「いくら」
「約二十七億です」
にじゅうしちおく。
俺はお茶をそっと置いた。
「……払えるか?」
「今の資産で一括は難しいです」
「やっぱり」
「分割なら可能です。ただ」
「ただ?」
「しばらく派手に使えません」
「どのくらい」
「一年から一年半は、締めた方がいいです」
「ミンティーを売るか」
「売らなくていいです。そこまでの差はないです」
「……よかった」
「でも基地の改修や新しい設備は、後回しにしてください」
「ガードくんのアップグレードは」
「後回しです」
「澪が聞いたら、落ち込むな」
「落ち込まないと思います、あの人は」
「そうか」
澪に話した。
澪はモニターから顔を上げて、一言だけ言った。
「わかった」
「それだけか」
「それだけ。……お金より面白いことがあればいいから」
「ガードくんのアップグレードは、しばらく後になる」
「じゃあソフトウェアで補う。できることは、まだある」
「……ほんと頼もしいなお前」
「知ってる」
夜。
三人でテーブルを囲んだ。
矢島さんからの分割払い案を、七海が印刷してきた。
「毎月これくらいずつ払います」
「……しばらく質素にするか」
「質素というほどでは。ただ」
「ただ?」
「先月みたいな衝動買いは、控えてください」
「先月って何を買おうとしたっけ」
「二軒目の物件です。海の見える、ボロ屋」
「あー……あれ、ビビッと来たんだよな」
「来ないでください、しばらくは」
「ビビッは来る時は来るんだよ。俺の意思と関係なく」
「意思で止めてください。二十七億の途中です」
「そうだな」
澪がエナドリを飲みながら言った。
「あたし、給料減らしていい」
「減らさない」
「でも」
「減らさない。お前の働きにちゃんと値段をつけてる。変えない」
澪が少し黙った。
「……ありがとう」
「こちらこそ。三日でデータ整理してくれなかったら、もっと大変だった」
「あれは面白かったから」
「そうか」
七海が書類を片付けながら、ぽつりと言った。
「……来年からちゃんとしようと思います」
「うん」
「最初から。記録も、申告も、全部」
「そうしよう」
「矢島さんにも毎月報告します」
「いつ決めたんだ」
「さっき、電話で」
「早いな」
「……一緒にやった方が、うまくいくと思って」
俺はそれを聞いて少し笑った。
「……なあ、七海」
「はい」
「こんなに面倒かけて、よく続けてくれてるな」
七海が手を止めた。
「続けます」
「なんで」
「……面白いので」
俺はそれを聞いて少し驚いた。
七海が「面白い」と言うのを、初めて聞いた気がした。
「珍しいなそういうこと言うの」
「言いますよ、たまに」
「言わないだろ」
「……言います。この仕事は、面白いです」
七海がまた書類に向かった。
その横顔が、いつもより少し柔らかかった。
夜遅く。
ソファに沈んで、ぼんやりした。
三年分が、削られる。
しんどい。
でも——削られた分はまた稼げばいい。
チートは、まだある。
七海も澪もいる。
矢島さんもついた。
最初の頃より、ずっと持ってるものが多い。
14,200円だった頃に比べたら、だいぶ遠くに来た。
……今月の澪の給料は、ちゃんとある。それだけは確かだ。
俺は少し笑った。
「……青柳さん、何を考えていましたか」
七海が通りがかりに言った。
「最初の頃のこと」
「どんなことを」
「14,200円しかなかったこと」
七海が少し考えた。
「……今より、ずっと少ないですね」
「ずっと少ない。でも、なんか似てる」
「どういう点が」
「スッカラカン寸前ってとこが」
七海がため息をついた。
でも、怒った感じじゃなかった。
「……来年はちゃんとしましょう」
「うん」
「本当に」
「本当に」
「……信じます」
「信じてくれるのか」
「信じます。ただ、矢島さんに毎月報告させます」
「そうだな。よろしくお願いします」
七海が地下に戻った。
澪はもうどこかで寝ていた。
俺はしばらく天井を見ていた。
次のステージが、始まる気がした。




