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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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38/40

嫌いな人

その男の顔を見た瞬間、俺の中で、何かが止まった。

桐山慶一(きりやま けいいち)。

三年前まで、俺が働いていたブラック企業の、直属の上司だった。

理不尽に怒鳴られた回数は、数えていない。

サービス残業を、当たり前みたいに強いた男だ。

「……青柳、か」

桐山も、俺の顔を見て、固まった。

「……お前が、噂の若返り師、なのか」

「……縁があるんですね、いろいろと」

俺は、平静を装った。

内心は、そうでもなかったけど。

 

とりあえず、鑑定をかけた。

 

【桐山慶一(きりやま けいいち)/51歳・男】

体の状態:糖尿病が進行しており、足の神経障害が始まっている。放置すれば悪化する

性格:自分本位、プライドが高い。ただし、今は追い詰められている

現在の状況:会社を三年前に辞めさせられた。再就職がうまくいっていない

本当の悩み:二十四歳の息子と、七年間、口を利いていない。体よりそちらが重い

いちばん恐れていること:息子に一度も謝れないまま、体が動かなくなること

 

俺は、しばらく書類を見るふりをしながら、整理した。

治せる。

でも、治したいかどうか、正直、わからなかった。

「どうしてここへ」

「友人に紹介された。……若返りとか、体を治すとか、そういう先生がいると」

「俺だとは知らなかった」

「知っていたら、来なかった」

「そうですか」

桐山が、少し、顎を引いた。

「……お前に頼むのは、癪だ。だが、他に頼めるところもなくて」

「足のことですよね」

「わかるのか」

「見えます」

桐山が、また黙った。

しばらく誰も、何も言わなかった。

七海が、お茶を持ってきた。

桐山が、七海を見て、俺を見た。

「……部下か」

「うちのスタッフです」

「そうか」

また、沈黙。

「……治してもらえるのか」

「わかりません」

「わからない?」

「迷っています」

桐山が、初めて、驚いた顔をした。

「……なぜ」

俺は、正直に言うことにした。

「あんたに昔、だいぶ、やられましたから」

桐山が、口を開いて、閉じた。

何も言わなかった。

「残業も、怒鳴られたことも、まあ、三年経ったので、根に持つ気はないですが。気持ち的に、すぐに『はい治します』とはならない」

「……そうか」

「ただ」

俺は、鑑定の結果を、もう一度、思い出した。

息子と七年間、話していない。

「……息子さんのこと」

桐山の肩が、ぴくりと動いた。

「見えます。七年間、話していないこと」

「……余計なことを」

「余計なことですね。でも、見えたので、言います」

桐山が、俺から視線を外した。

窓の方を向いた。

「……お前に、何がわかる」

「わかりません。でも、体が動かなくなる前に、話したいと思ってる。それは、見えます」

しばらく沈黙が続いた。

「……治してくれるのか、くれないのか」

俺は、少し考えた。

「治します」

「……なぜ、急に」

「息子さんに謝る機会が、あった方がいいと思って」

桐山が、何も言わなかった。

 

施術は、淡々とやった。

足の神経障害は、早い段階で来てよかった。もう少し遅ければ、手がつけにくくなっていた。

光が引いた。

「足の感覚を確かめてみてください」

桐山が、足を踏みしめた。

「……しびれが、ない」

「今の段階では、ここまでできます。ただ、生活を変えないとまた同じことになります。医者に行って、ちゃんと管理してください」

「……わかった」

桐山が、立ち上がった。

「……お代は」

「普通にいただきます」

「五十万円です」と、七海が言った。

桐山は、黙って財布から出した。

多いとも、少ないとも、言わなかった。

受け取りながら、俺は、一つだけ言った。

「桐山さん」

「なんだ」

「息子さんに電話してみたらどうですか。体が動くうちに」

桐山は、しばらく俺を見た。

それから、ふっと視線を外した。

「……お前に言われるとは、思わなかった」

「俺もです」

桐山が、出ていった。

 

七海が、俺を見た。

「……治したんですね」

「うん」

「嫌いな人でも」

「嫌いというか……まあ、息子さんがいたので」

「情に流れましたね」

「流れた」

「青柳さんらしいです」

「よくない癖だろ」

「そうは思いません」

七海が、帳簿に記録を始めた。

その手が、いつもより、少し、丁寧だった気がした。

 

澪が、地下から上がってきた。

「さっきの人、感じよくなかった」

「……見てたのか」

「モニターで」

「俺の元上司だ」

「……なのに治したの」

「息子と仲直りしてほしいから」

澪が、少し、考えた。

「……りおんって、変なとこで優しいね」

「そうか」

「うん。あたしには、わかんない感覚だけど」

「俺も、わからないうちに決めてた」

澪が、エナドリを開けた。

「……でも、よかったと思う」

「そうか」

「うん」

それだけだった。

でも、澪がそう言うと、なんか、正解だった気がした。






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