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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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37/40

秘密は誰のもの

蕗田修一先生の担当編集者が来た。

名前は久野剛(くの たけし)。三十五歳。ぱりっとしたスーツ。いかにも「できる編集者」という雰囲気だった。

ただ、目の下にクマがあった。

「青柳先生でいらっしゃいますか。……実は、お願いがあって伺いました」

「先生はやめてください。どうぞ」

応接に通した。

鑑定をかけながら、話を聞いた。

 

【久野剛(くの たけし)/35歳・男】

職業:大手出版社の編集者。蕗田修一の担当を十年務めている

状態:睡眠不足、強いストレス。仕事への責任感が非常に強い

腹の中:悪意はゼロ。純粋に蕗田先生を心配している

本当の悩み:先生の体調が悪いという噂を聞いた。でも先生は何も言わない。真実を知りたい

 

心配からきてる人だ、と思った。

久野が、少し前のめりになって言った。

「蕗田先生の状態を、教えていただけないでしょうか。……先生を診ていただいたと伺いまして」

「何を聞きましたか」

「手が治ったと。ですが、他にも何か体に……という噂があって。先生は私には、何もおっしゃらなくて。もし深刻な状態なら、スケジュールも変えないといけない。それに私は先生のことが」

久野が、少し、口を結んだ。

「……心配なんです。十年、担当しています。先生の原稿を世に出すことが、私の仕事で。もし先生に何かあったら。最後の一冊を、ちゃんと出したいんです」

俺は、久野を、しばらく見た。

嘘は、ない。

本当に、心配している。

でも。

「久野さん」

「はい」

「俺は、お教えできないです」

久野が、わずかに眉をひそめた。

「……なぜですか。先生が心配で来ているのに」

「先生の体の状態は、先生のものです。先生が話していないなら、俺が代わりに話すことじゃない」

「でも——」

「久野さんが心配してるのは、鑑定でわかります。本当のことだと思います。でも、患者さんの情報を、本人の許可なく話すことは、できないです」

久野が、しばらく黙った。

「……規則、ですか」

「規則というより、当たり前のことかなと思っています」

久野が、また、黙った。

それから、立ち上がった。

「……わかりました。失礼しました」

久野が、頭を下げた。

「先生に……直接、聞いてみます。ずっと聞けずにいたので」

「そうしてください。先生、きっとちゃんと答えてくれると思います」

久野が、出ていった。

 

その夜。

スマホが鳴った。

蕗田修一先生からだった。

「青柳さん。久野が伺ったそうですね」

「……来ていただきました」

「そうですか。彼は、心配性で。……私が何も言わないから、勝手に動いてしまった。申し訳ない」

「いえ、久野さんは本当に先生のことを思って来てくれていました。悪意は、ひとつもなかったです」

「そうですか」蕗田先生が、少し、笑った声になった。「あなたには、そういうことも、見えるんですね」

「見えます」

「……では、聞いていいですか。私の状態は、今、どうですか」

「問題ないですよ。手の震えは戻っていません。体全体も、年齢の割には、いい状態です」

「そうですか。それはよかった」

少し、間があった。

「実は」先生が、言った。「本が、もうすぐ完成します」

「……本当ですか」

「もう少しで。……あなたに手を治していただいて、書けました。ありがとうございます」

「こちらこそ」

「発売されたら、送ります。読んでください」

「必ず」

また、間があった。

「……実は、もう一つ、あなたに診ていただきたいことが、あるんです」

「何でしょうか」

「……それは、直接伺った時に。近いうちにまた行きます」

「お待ちしています」

電話が、切れた。

俺は、スマホを置いて、しばらく天井を見た。

先生が診てほしいもの。

体のことじゃないかもしれないと思った。

根拠はない。

でも、なんとなくそんな気がした。

 

「どうでしたか」

七海が、お茶を持ってきた。

「蕗田先生から電話。本が完成しそうだって」

「……それはよかったです」七海が、少し、目を細めた。「澪さんに教えてあげましょう」

「あいつ、本、買いに行ったのか」

「行きました。昨日。一人で」

「……本当に行ったのか」

「帰ってきた時、袋を持っていました。ちゃんと紙の本で」

俺は、それを聞いて、なんか、嬉しくなった。

澪が本屋に行った。それだけで、なんか、いい一日だった。

「先生、また来てくれるって。診てほしいものがある、と」

「体ですか」

「たぶん、違う気がする」

「……何だと思いますか」

「わからない。でも、気になる」

七海が、お茶を一口飲んだ。

「……続きが、あるんですね」

「そうみたいだな」



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