ガード君の受難
国税の話が出てから、基地の空気が、少し、張り詰めていた。
澪がデータ整理を続けている。七海が矢島さんと連絡を取り合っている。
俺は、やることが、ない。
「俺、何かできることあるか」
「ありません」と、七海。
「じゃあ、邪魔しないでいます」
「それが一番です」
「……辛辣だな」
「事実を言っています」
俺は、地上のボロ屋で、することなく過ごしていた。
夜中。
モニターを見ていた七海が、首を傾げた。
「……青柳さん」
「ん」
「ガードくんが、変な動きをしています」
見ると、ガードくんが、敷地の南東の隅で、ぐるぐると同じ場所を回っていた。
「なんだ、あれ」
「澪さん、見てますか」
澪が、サブモニターを確認した。
「……センサーが何かに反応してる」
「何に?」
「確認します」
ドローン(ピヨちゃん)を飛ばして、上空から確認した。
ガードくんが巡回している場所を、ピヨちゃんが照らした。
そこには——何もなかった。
「……何もいないじゃないか」
「いた形跡がある。虫か何か」
「虫?」
「大きめの虫が通ったんだと思う。センサーが、人間と誤認した」
七海が、こめかみを押さえた。「……虫を、人間と」
「センサーの感度、上げすぎてた。あたしのミス」
「ガードくんは、ずっと虫を追いかけていたんですか」
「……追いかけるというか、侵入者を発見したと思って、巡回ルートを変えてた。虫が移動するたびに」
「虫が、移動するたびに」
「うん」
七海が、深呼吸した。
「……何時間ですか」
「三時間」
「三時間、虫を警戒していたんですね、ガードくんは」
「うん」
「……ガードくんに謝りたい」
「謝らなくていい。直すから」
澪が、タブレットを操作した。
ガードくんが、一瞬、止まった。
それから、また歩き始めた。
今度は、ちゃんとした巡回ルートを、真面目に歩いていた。
「……直りましたね」
「うん。感度を調整した。人間のサイズ以下は無視するように」
「ありがとうございます」
「でも」澪が、少し、考えた。「感度を下げると今度は、小さい人間を見逃す可能性がある」
「小さい人間というのは」
「子供とか」
七海が、また、こめかみを押さえた。
「……うちに子供が侵入しようとする状況は、あまり考えていませんでしたが」
「ゼロではない」
「……ゼロに近いですよね」
「近い」
「では、今の設定で」
「うん」
俺は、それを聞きながら、なんか、ほっとしていた。
国税とか、申告とか、そういう話が続いていたから。
ガードくんが虫を三時間追いかけていた、というどうでもいい話が、今夜は、ちょうどよかった。
「澪」
「ん」
「ガードくん、三時間、真剣だったんだろうな」
「そうだと思う。センサーが反応してたから、ちゃんと追いかけてた」
「なんか、えらいな」
「機械だよ」
「機械でも、えらい」
澪が、モニターを見た。ガードくんが、夜の敷地を、真面目に歩いていた。
「……まあ、えらいか」
七海が、珍しく、ふっと笑った。
「頑張れ、ガードくん」
「頑張れ」と、澪。
俺も、心の中で言った。
頑張れ、ガードくん。
たとえ虫を人間と間違えても、また、ちゃんと歩いてるんだから。
……なんか、今の俺みたいだ、と、少し、思った。
間違えて、でも、また、歩く。
そういうことだ。
新しい小説書き始めました。
並行してですが、頑張っていきますのでよろしくお願いします!
そっちも読んでもらえるとうれしいです!
鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました
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