表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/32

初めて聞いた

七海が、税理士事務所のアポを取ってきた。

「来週の水曜、午後二時です」

「……早いな」

「三月中と言いましたよね」

「言った」

「ではなぜ驚くんですか」

「覚悟ができてなかった」

「覚悟のいることはしていません。話を聞くだけです」

「……そうだな」

「そうです」

七海が、服装の確認をした。スーツはないので、せめてきれいなジャケットを、という話になった。

澪に相談すると「何着てもいいんじゃない」と言った。

参考にならなかった。

 

事務所は、都心のビルの中にあった。

ミンティーで向かおうとしたら、七海に「今日はタクシーで行きましょう」と止められた。

「なんで」

「心証の問題です」

「誰が見てるんだ」

「誰も見ていませんが」

「じゃあいいだろ」

「良くないです」

タクシーで行った。

 

矢島誠やじま まこと、四十二歳。

想像より、若かった。

眼鏡で、すっきりした顔で、声が落ち着いていた。

「はじめまして。七海さんからお話は伺っています」

「……はじめまして。青柳です」

「どうぞ、座ってください」

応接室に通されて、三人で座った。

矢島さんが、書類を取り出した。

「七海さんから送っていただいたデータを元に、ざっくりとした試算をしてみました」

「……試算」

「だいたいこのくらいになります」

数字が、書いてあった。

俺は、それを見た。

見て、固まった。

「……これ、税金だけですか」

「本税と、延滞税と、無申告加算税を合わせた概算です。あくまでざっくりですが」

「……ざっくりで、これ」

「はい」

「もっと細かく計算したら、増える可能性がありますか」

「場合によっては」

「……増えるんですか」

「場合によっては」

俺は、書類を、そっとテーブルに置いた。

「七海」

「はい」

「これ、払えるか」

「今はまだ……ぎりぎり、払える範囲ではあります。ただ」

「ただ?」

「これ以上、申告を先送りにすると」

「払えなくなる」

「……可能性が、出てきます」

俺は、しばらく書類を見ていた。

矢島さんが、静かに言った。

「青柳さん。今からでも、遅くないです」

「……そうなんですか」

「無申告が続くと、調査が入ることもあります。ただ、今の段階で自主的に申告して、しっかり納めれば、それ以上の問題にはなりにくい。手続きは大変ですが、出来ないことではないです」

「……どのくらい大変ですか」

「三年分をさかのぼって整理するので、時間はかかります。ただ、データがきちんと残っていれば、できます」

「データは……澪が整理できると言ってました」

「澪さん?」

「うちのスタッフです。コンピューターが得意で」

「では、データを整理していただいて、それを元に申告書を作る、という流れが取れます。一緒にやりましょう」

矢島さんが、穏やかに言った。

責めるでもなく諦めるでもなくただ、「やりましょう」と。

俺は、なんか、この人は信頼できる、と思った。

鑑定でもわかっていたが、喋り方でも、わかった。

 

「矢島さん」

「はい」

「一個だけ聞いていいですか」

「どうぞ」

「俺みたいな人、他にもいますか。三年間、全部、申告してないみたいな」

矢島さんが、少し、間を置いた。

「……いないわけではないです」

「そうか」

「ただ、金額の規模が、少し、特殊なケースではあります」

「……そうか」

「青柳さん、いったい何のお仕事を」

「若返りビジネスです」

「……若返り」

「細胞を最高の状態に戻すやつです」

「科学的には」

「神様から貰った力なので、説明はできないです」

矢島さんが、眼鏡の奥で、少し、瞬きをした。

七海が、静かに言った。「本当のことなんです」

矢島さんは、数秒、何も言わなかった。

それから、書類に視線を戻した。

「……わかりました。では、進めましょう」

プロだ、と思った。

 

帰り道。

タクシーの中で、俺はぼんやりしていた。

七海が言った。

「……いかがでしたか」

「いい人だな矢島さん」

「そうですね。私も、信頼できそうだと思いました」

「あの数字、見た?」

「見ました」

「怖くなかったか」

「……なりました。でも」

「でも?」

「今日、一歩、進んだので。それはよかったと思います」

俺は、窓の外を見た。

街が流れていく。

そういえば、と思った。

ガードくんの右後脚のモーター、最近、少し音が変わってないか。澪は気づいてるのかな。音が変わってたとして、何か問題があるのか、ないのか。ガードくんのモーターって何個あるんだろ——。

「……青柳さん」

「あっ、やっば。ADHD出てた。ガードくんのモーターのこと考えてた」

「今は税金の話をしています」

「わかってる。なんで急にガードくんになったのか、自分でもわからない」

「今は」

「今は税金の話をしてる」

「そうです」

「……怖いなやっぱり」

「でも、今日、話を聞きました」

「聞いた」

「次は、申告します」

「……する」

「本当に?」

「……する。たぶん」

七海が、また深呼吸した。

でも今日は、いつもより、少し、表情が明るかった。

三年越しの「追々で」が、少し、動いた日だった。

 

「そういえば」

基地に戻って、澪に報告した。

「矢島さんが、データの整理、お願いしたいって」

「やる」澪が、即答した。「面白いかは、わかんないけど、あたしにできることなら」

「面白くなかったらどうする」

「やる。りおんのことだから」

俺は、それを聞いて、なんか、胸の奥が、ちょっとあったかくなった。

面白くなくてもやる。

それが、澪なりの、言い方だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ