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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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29/32

3月

三月に入った日の朝。

七海が、いつもと違う顔で、基地に来た。

何が違うかというと帳簿が二冊あった。

「……なんで二冊あるの」

「今年分と、去年分です」

「去年分も持ってきたのか」

「持ってきました」

七海が、テーブルに、二冊を並べた。丁寧に、そろえて。

「青柳さん。三月です」

「そうだな」

「確定申告の時期です」

「……そうだな」

「今年こそ、話し合いましょう」

俺は、コーヒーを一口飲んだ。

熱かった。

「追々で——」

「今年で、何度目の追々ですか」

「……三回目くらい」

「三回目です。年に一回来るので、三年分です」

「三年か」

「三年です」

七海が、帳簿を開いた。

「この三年間の収入をざっくり計算したところ」

「聞きたくない数字が出そうだな」

「出ます」

「じゃあ教えないでくれ」

「教えます」

七海が、数字を言った。

俺は、コーヒーを吹きそうになった。

「……そんなに?」

「そんなにです。これ全部、無申告です」

「……追徴課税とか、そういうのがくるやつか」

「くるやつです」

 

そこへ、澪が上がってきた。

エナドリを手に持ったまま、モニターを指差した。

「りおん。聞いてたけど」

「うん」

「あたし、帳簿のデータ、全部整理できる」

「え」七海が、振り返った。「澪さん」

「三年分のデータ、全部ある。金の動きを全部きれいにまとめて、いつ誰からいくら来たか、一覧にできる」

「澪さん」

「一日あればできると思う。あたし、こういうの得意だから」

「澪さん」

七海の声が、少し、違う色になった。

「……それは、少し、待ってください」

「なんで」澪が、首を傾げた。「効率悪くない?あたしがやれば早いのに」

「効率の問題じゃないです」

「じゃあなんの問題?」

七海が、少し間を置いた。

「……今は、少し、待ってください」

澪が、俺を見た。

俺も、七海を見た。

七海の言いたいことが、なんとなくわかった。

澪がデータを整理する、ということは、これまでの無申告の収入が、きれいに証拠として残る、ということだ。

それは、便利な反面、別の意味もある。

「……あたしがやると、マズいの?」

「マズい、とは言っていません。ただ……専門家に相談してからにしましょう」

「専門家」

「税理士さんです。ちゃんとした人に頼まないと整理すればいいというものでもないので」

澪が、しばらく考えた。

「……そういうもの?」

「そういうものです」

「わかった。じゃあ待つ」

あっさり引いた。

七海が、ほっとした顔をした。

 

「青柳さん」

七海が、また俺を向いた。

「というわけで、今年こそ、税理士さんに相談してください。私が探します。信頼できる方を」

「……追々で」

「三月は毎年来ます」

「わかってる」

「毎年言ってます」

「わかってる」

「わかってるんですよね?」

「わかってる」

七海が、深呼吸した。

「……今月中に、一度だけ、話を聞きに行きましょう。それだけでいいです。契約とか、申告とか、そこまで今すぐしなくていいから。話だけ」

「……話だけか」

「話だけです」

俺は、少し、考えた。

話を聞くだけなら、まあ、いいか。

「わかった。話だけなら」

七海の顔が、三年間で初めて見る顔になった。

ほっとした、というより、信じられないという顔だった。

「……本当ですか」

「本当だ」

「本当に?」

「本当に。話を聞くだけなら」

七海が、帳簿を、そっと閉じた。

「……ありがとうございます」

声が、かすかに震えていた。

 

その後。

俺は、ソファに沈んで、ぼんやり考えた。

税理士か。話を聞くだけなら、まあ、いい。

でも、話を聞いたら、多分、いろいろ出てくる。

出てきたら、多分、びっくりする数字が出てくる。

びっくりする数字が出てきたら——。

そこで、頭が止まった。

考えても、どうにもならない部分は、今は考えないことにした。

「聞こえてます」と、澪。

「聞こえてたのか」

「ずっと聞こえてる」

「どのへんから」

「全部」

「全部かよ」

「基地、狭いので」

「そうだな」

俺は、また、別のことを考え始めた。

蕗田先生の本、澪が買うって言ってたな。そういえば澪が本を買うって珍しいな。どこで買うんだろ。ネットか。いや、七海が紙で読めって言ってたから……本屋か。澪が本屋に行くのか。一人で行けるのかな。行けるか、別に。でも時間の概念がないから、何時に行くんだろ——。

「……青柳さん。今、何を考えていましたか」

「澪が本屋に行く時間のことを」

七海が、帳簿を再び開いた。

「税理士の話をしてください」

「さっき、話は聞くって言っただろ」

「今すぐじゃなくていいので、せめて、今月中という認識だけ、持っていてください」

「持ってる」

「本当に?」

「本当に。……たぶん」

七海のこめかみが、動いた。

「たぶん、は、やめてください」

「持ってる」

「……ありがとうございます」

 

三月が、また来た。

爆弾は、また少し、育った。

でも今年は——少しだけ、進んだ気がした。

話を聞くだけ。

それだけでも、去年よりは、いい。

……たぶん。

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