表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/32

運動会

その日の来客は、ちょっと毛色が違った。

黒塗りの車が二台。降りてきた男たちが、全員、いかつい。

真ん中の一人が、ゆっくりと玄関を開けた。

六十五歳くらい。がっしりした体格に、仕立てのいいスーツ。背中に、なんとなく空気がある。

俺は鑑定をかけながら、横の七海を見た。

七海は、平静を装っていた。ただ、帳簿を持つ手が、わずかに白くなっていた。

澪が、インカムで地下から言った。

「りおん。ヤクザだ」

「知ってる」

「モニターで見てる」

「そうか」

「どうする」

「診る」

「……りおんって、割と度胸あるね」

「鑑定かけてるから大丈夫だ」

 

神崎勝義かんざき かつよし/65歳・男】

組関係:某組の組長(現役)

腹の中:悪意なし。今日は純粋に客として来ている

体の状態:右膝の変形性関節症。かなり進行している。痛み止めで誤魔化してきた年数が長い

本当の願い:来月、孫の運動会がある。それだけは、見に行きたい

 

……孫の運動会か。

俺は、ちょっとだけ、口の端が上がるのを抑えた。

「神崎さん、ですね。どうぞ、座ってください」

「……驚かないのか」

「何に」

「俺を見て、普通、もう少し顔色が変わる」

「鑑定かけてみたら、悪い人じゃなかったので」

神崎が、じっと俺を見た。

それから、ゆっくり、ソファに腰を下ろした。

「……右膝のことで来た」

「わかってます。かなり進んでますね」

「痛み止めを飲んでも、最近は足を引きずる。来月、孫の——」

「運動会、ですよね」

神崎が、少しだけ、目を細めた。

「……本当に、見えるんだな」

「見えます」

「恥ずかしいな」

「全然」

「任侠の世界で、孫の運動会が見たいとか」

「別に恥ずかしくないでしょう」

神崎は、しばらく何も言わなかった。

「……孫が、かけっこが好きで。でも、俺は、去年も一昨年も、行けなかった。仕事で、と言ったが」

「本当は膝で?」

「本当は膝だ。情けない話だ」

俺は、思った。

情けなくないだろ、と。

六十五年、いろいろ背負ってきた人間が、孫のかけっこを見たくて、こんなところまで来ている。

それの何が情けないんだ。

 

「治ります。やってみましょう」

神崎の右膝に手を当てた。

変形した関節を整えて、すり減った軟骨を戻して、長年の炎症を取る。

光が、じんわり広がった。

神崎は、黙っていた。

光が、すっと引いた。

「立ってみてください」

神崎が、ゆっくり立ち上がった。

右膝に、体重をかけた。

「……痛くない」

もう一歩。

「痛くない。……全然、痛くない」

声が、少し、変わった。

神崎が、部屋の端まで、歩いた。

戻ってきた。

また、歩いた。

「……何年ぶりだ、これ」

ごつい手が、膝に当てられた。

しばらくそのまま、動かなかった。

「……すまん」

「何がですか」

「ちょっと待ってくれ」

神崎は、窓の方を向いた。

背中しか見えなかった。

でも、肩が、かすかに動いていた。

俺は、七海を見た。七海は、視線を逸らした。

俺も、違う方を向いた。

そういう時間が、しばらく続いた。

 

「……お代は、いくらだ」

落ち着いた声で、神崎が言った。

「五十万円です」と、七海が答えた。いつも通りの、塩の声で。

神崎が、財布を出した。

「足りなければ、いくらでも出す」

「足りています」

「……そうか」

神崎が、俺を見た。

「お前に、お礼をしたい。何か、してやれることはないか」

俺は、少し考えた。

「報酬以外は、いらないです」

「本当にか」

「運動会、楽しんできてください。それで十分です」

神崎は、俺を、しばらく見ていた。

それから、ふっと笑った。

今まで見せていなかった顔だった。

「……好きだな。そういうとこ」

「よく言われます」

「誰に」

「客に」

神崎が、また笑った。

帰り際、部下たちに先に出るよう促して、玄関で一度、振り返った。

「孫に、何か、土産を買っていく。何がいいと思う」

「何歳ですか」

「七歳」

「なんでもいいんじゃないですかね。爺ちゃんに会えること自体が、一番の土産だと思いますよ」

神崎が、何も言わなかった。

ただ、頷いて、出ていった。

 

静かになってから、七海が言った。

「……お疲れ様でした」

「お前も、よく平静でいられたな」

「いられてませんでした。帳簿が、なぜか、二ページ進んでいます」

「緊張すると帳簿が進むのか」

「無意識でした」

澪が、地下から上がってきた。

「……ヤクザって、あんなふうに泣くんだ」

「見てたのか」

「モニターで」

「プライバシーとかないのか」

「基地のモニターなので」

「まあ、そうだな」

俺は、ソファに沈んだ。

来月、神崎さんは、孫のかけっこを、見に行く。

ただ、それだけの話だ。

でも、なんか、悪くない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ