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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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専門外でした

「犬も、診ていただけますか」

その一言に、俺は少し、固まった。

来たのは、六十代くらいの、おっとりした女性だった。

膝の痛みを治してほしいという依頼で来た方だ。

鷹司ルートではなく商店街時代の古い口コミから繋がってきた、久しぶりのそういうお客さんだった。

膝は、治した。

問題は、その後だった。

足元に、小さな老犬がいた。

柴犬。毛が白くなっていて、目が少し濁っている。動きが、ゆっくりだった。

「この子も、最近、足腰が……若い頃はよく走り回ってたんですけど」

俺は、ちょっと困った。

人間は、散々やってきた。でも動物は、一度も、やったことがない。

そもそも、効くのかどうか、わからない。

「……一応、やってみます。ただ、動物は初めてなので、保証はできないです」

「それでも、見ていただけますか」

「試してみます」

 

地面に座って、老犬と目を合わせた。

向こうも、こちらを見た。

どんな気持ちで俺を見てるのか、全然わからない。

とりあえず、鑑定を試してみた。

 

【柴犬・ゆず/推定14歳・メス】

体の状態:関節炎(両後脚)、白内障(軽度)、全体的な老化による筋力低下

いちばん強い感情:飼い主のそばにいたい

本当の願い:もう少しだけ、一緒にいたい

 

……出た。

ちゃんと出た。

動物でも、鑑定、できるのか。今まで試したことなかったけど。

というか。

「もう少しだけ、一緒にいたい」か。

……弱い。これは、弱い。

こんなの見せられたら、やるしかないだろ。

 

ゆずの後脚に、そっと手を当てた。

人間と同じように細胞に意識を向ける。

炎症を取って、関節に潤いを。眠りかけた筋肉を、少しだけ、起こす。

光が、ゆっくり広がった。

老犬は、おとなしくしていた。

嫌がる素振りが、まったくなかった。

わかってるのか、わかってないのか。どっちかわからないけど、信頼してくれてる感じがした。

光が、引いた。

「ゆず、立ってみな」

女性が言うと、ゆずがゆっくり立ち上がった。

後脚に、体重をかけた。

一歩。

また一歩。

さっきより、ずっとしっかりしていた。

女性が、口を押さえた。

「……歩けてる。ちゃんと歩けてる」

「関節の炎症は取れたと思います。ただ、年齢は変わらないので、無理はさせないでください」

「はい。はいわかりました。……ありがとうございます。本当に」

ゆずが、俺の手を、ぺろりと舐めた。

なんか、それだけで、十分だった。

 

女性が帰ってから。

七海が、いつものように帳簿を出した。

「お代、どうしました」

「人間の膝の施術で、五万円でもらいました」

「犬分は」

「え」

「一匹分、追加でもらいましたか」

「……そんな発想なかった」

七海が、ため息をついた。

「次からは、ちゃんと聞いてください。うちの料金体系に、ペット料金の項目を作ります」

「そんな項目があっていいのか」

「なければ作るんです」

さすが七海だ、と思った。俺が気づかないところを、しっかり埋めていく。

 

地下に降りると澪が何か作業中だった。

女性が帰る時、ゆずを見ていたのを、俺は覚えていた。

「犬、好きか?」

「……好きかどうかわかんない。でも」

「でも?」

「ゆずが歩いた時、なんか、よかった」

「そうだな」

澪が、キーボードを叩きながら、ぽつりと言った。

「基地に、いてもいいかな。犬」

「七海に聞いて」

「りおんに聞いた」

「……俺はいいけど」

「じゃあいい」

「七海に聞いてって言った」

 

夕方。

俺は、なんとなく思った。

そういえば、俺、何か飼いたいな。ずっと一人暮らしだったし、余裕もなかったし。でも今なら、基地も広いし、ペット料金も作るらしいし——。

「……青柳さん」

七海が、目の前に立っていた。

「なんですか、その顔は」

「え、どんな顔」

「何か良くないことを考えている顔です」

「……犬、飼っていいですか」

「却下です」

「なんで」

「誰が世話をしますか。青柳さんは予定を忘れ、澪さんは時間の概念がなく、私は段取りの人間です。餌をやる担当が、誰もいません」

「……俺がやる」

「毎日、決まった時間に、忘れずに?」

「…………」

「でしょうね」

七海が、すっと立ち去った。

俺は、否定できなかった。

 

でも、まあ。

ゆずが帰り際に舐めてくれた手を、ぼんやり見ながら、思った。

犬は、いいな。

いつかは、飼いたいな。

……絶対に、七海に却下されるけど。


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