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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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信じない人

新年が明けて、少し経った頃。

アポなしで、男が来た。

三十代半ばくらい。スーツじゃない。ジャケットにジーンズ。肩にカメラのバッグを下げていた。

「青柳さん、ですか」

「そうですが」

「週刊誌の記者です。若返りビジネスの取材を……」

俺は、すぐ鑑定をかけた。

 

早川慎二はやかわ しんじ/36歳・男】

表向きの目的:「若返り詐欺師」の記事を書く取材

腹の中:この手の話は詐欺に決まってると思っている。信じていない

本当の状況:三ヶ月前から、視野の端が欠けている。眼科に行ったが「経過観察」と言われた。怖くて、誰にも言っていない

本当の願い:ここが本物なら、自分の目を診てほしい。でも、信じていないから、言えない

 

……なるほど。

俺は、ちょっとだけ、おかしくなった。

信じていないのに来た。取材という名目を作って、でも本当は自分のために来た。

人間って、面白いな。

「どうぞ、入ってください」

「え、いいんですか」

「どうせ何を見せても信じないんでしょうから、別に構いません」

早川が、少し、戸惑った顔をした。

 

応接に通して、向かいに座った。

早川は、手帳を開いた。記者らしく質問を準備してある。

「若返りビジネスを始めたのは、いつ頃ですか」

「二年少し前ですね」

「原理は何ですか」

「細胞を最高の状態に戻す、というイメージです」

「……科学的な根拠は」

「ないです」

「ないんですか」

「俺が神様から貰った力なんで、科学的な説明はできないです」

早川が、手を止めた。こいつが想定していた答えじゃないという顔だった。

詐欺師なら、もっともらしい説明をする。信者を集めたいなら、権威ある言葉を使う。

「……ふざけてますか」

「至って本気ですよ」

「神様、というのは」

「会いましたよ。部屋に出てきて、チートをくれて、ロウソクの火みたいに消えました」

早川が、ペンを置いた。

俺の顔を、まじまじと見た。

こいつは今、「こいつ、頭がおかしいのか」と「でも嘘をついてる顔じゃない」の間で揺れている。

鑑定に出ていた。そのまんまだった。

 

「一個だけ、お願いがあるんですが」

「なんですか」

「取材は後でいくらでも受けます。その前に、ちょっと診させてもらえますか」

早川が、固まった。

「……なんで」

「三ヶ月前から、視野の端が欠けてるでしょう」

部屋の空気が、ぴたりと止まった。

早川の顔から、血の気が、引いた。

「……なんで、それを」

「見ればわかります。眼科で経過観察と言われて、怖くて誰にも言えないでいる」

早川は、答えなかった。

否定もしなかった。

それが、答えだった。

 

「手を貸してもらえますか。診るだけなので、痛くはないです」

早川は、ゆっくりと手を差し出した。

さっきまでの「詐欺師を暴きに来た記者」の顔は、もうなかった。

三十代の男が、少し、子供みたいな顔をしていた。

怖かったんだろうなと思った。

三ヶ月、一人で抱えていたんだろうなと思った。

俺は、そういう人間に、どうしても弱い。

 

目のことを治すのは、慎重にやった。

千鶴さんの声帯の時と同じで、細かい作業だ。

欠けている視野の原因を探って、神経の圧迫を丁寧に解く。光が、ゆっくり、眼の奥に広がって、引いた。

「……今、どうですか」

早川が、目を開けて、部屋を見回した。

それから、左端を、右端を、見た。

「……全部、見える」

低い声だった。

「ちゃんと端まで、見えます」

「よかったです」

「……これ、本当に治ったんですか」

「たぶん」

「たぶん」

「後で眼科で確認してください。俺の保証より、そっちの方が確かです」

早川が、しばらく黙っていた。

手帳が、閉じたまま、膝の上にあった。

「……記事、書けないですね」

「書いてもいいですよ」

「詐欺師の記事を書きに来て、自分が治してもらった記者の話なんて、掲載できません」

「まあ、そうですね」

早川が、少し、笑った。

疲れたようなでも少し軽くなったようなそういう笑い方だった。

「……お代は」

「いりません」

「なんで」

「あなたは取材に来たんで、患者さんじゃないんで。……次に何か困ったことがあったら、ちゃんと来てください。その時はちゃんともらいます」

早川が、立ち上がった。

「一個だけ聞いていいですか」

「どうぞ」

「本当に、神様から貰ったんですか。その力」

「本当に」

早川は、少し考えてから、言った。

「……信じます」

「信じなくていいですよ、別に」

「信じます」

 

早川が帰ったあと。

俺は、ソファに沈んで、ぼんやりした。

七海が、お茶を持ってきた。

「今日も、ゼロですね」

「うん」

「いいんですか」

「信じてない人から金はとりにくいだろ」

「でも、治しましたよね」

「そっちは、まあ……ついでだ」

七海が、ため息をついた。でも、怒った感じじゃなかった。

そういえば、と、そこで俺の頭が、別の方向に飛んだ。

ガードくん、昨日の夜、また転んだって澪が言ってたな。起き上がったけど。地面の段差の検知精度の問題らしい。そのうち澪が直すだろうけど、俺に何かできることあるかな……いや、できることないな。澪の領域だし……。

「……青柳さん」

「すみません。ガードくんのことを、急に考えてました」

七海が、こめかみを押さえた。

「今は、今日の話をしてます」

「そうだな。……まあ、いい一日だったと思います」

「収入、ゼロですが」

「それはそれで、いい一日だった」

七海は、それ以上、言わなかった。

お茶を一口飲んで、帳簿に戻った。

その横顔が、少しだけ、やわらかかった。


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