年末
十二月の終わり。
基地に、珍しくテレビの音が流れていた。
紅白歌合戦だ。
「誰がつけたんだ、これ」
「七海」と、澪。
「珍しいな」
「……今年最後なので」と、七海。なぜか少し照れていた。
俺は、ソファに沈んで、画面を眺めた。
豪華な衣装の歌手たちが、次々と出てくる。
「……あ」
七海が、画面を指差した。
立花千鶴さんが、ステージに立っていた。
白いドレス。背筋が真っ直ぐで、マイクを持つ手が、揺れていない。
そして——歌い始めた。
「……おお」
俺は、思わず、前に乗り出した。
よくわからないけど、すごいのはわかる。ホールに声が広がっていく感じが、テレビ越しでも伝わってくる。
七海が、静かに、目を細めた。
澪が、モニターから顔を上げて、画面を見た。
「……声、戻ってる」
「戻したんだよ、俺が」
「知ってる」
「知ってて言う?」
「確認した」
三人で、しばらく黙って見ていた。
千鶴さんが歌い終わって、会場が沸いた。
七海が、ちょっとだけ、鼻をすすった。
「空調が——」
「外だろ、今」
「……今年は、乾燥が激しいので」
「そうだな」
俺は、笑いをかみ殺した。
「りおん」
澪が、タブレットを差し出してきた。
スポーツニュースのページだった。
『藤堂陸、今季MVP受賞。復帰一年目での快挙』
「……取ったか」
「うん。得点王も」
「息子、喜んだだろうな」
「息子さんの動画も出てた。ボール蹴ってた」
「何歳?」
「三歳。ちょっとよろけてた」
俺は、その動画を思い浮かべながら、ひとりで、なんか嬉しくなった。
「よかったな」
「うん」
澪が、タブレットを引っ込めた。ついでに、エナドリを開けた。今日、何本目かは、もう数えていない。
「そういえば」
七海が、帳簿を開きながら、言った。
「今年も終わりますね」
「早いな」
「確定申告の時期が、近づいてきます」
「……追々で」
「追々が来ないまま、また一年が終わりました」
「そんなにか」
「そんなにです」
七海が、帳簿を、ぱたんと閉じた。
何も言わなかった。
その目だけが、「来年こそは」と言っていた。
俺は、視線を逸らした。
その夜。
俺は、今年を振り返ってみた。
御堂会長の奥さん。沢渡議員。藤堂。千鶴さん。七海のお父さん。澪。
いろいろあった。
そして、いろいろ、稼いだ。
「ちなみに今年の収入、いくらになった?」
「言いません」
「なんで」
「言ったら、使います」
「使わないって」
「絶対、使います」
否定できなかった。
深夜。
澪が、モニターの前で、なにかを見ていた。
「まだ起きてるのか」
「年越しの瞬間は、起きてたい」
「なんで。時間の概念ないんじゃなかった?」
「年越しは、ちょっと別」
「なにが違うんだ」
澪は、少し考えた。
「……わかんない。でも、去年は一人だったから」
「今年は?」
「……三人」
俺は、それ以上、何も言わなかった。
カウントダウンまで、あと少しだった。
——来年も、よろしく。
心の中で、そう思った。
言わなかったけど。
照れくさいから。




