ガードくん、誕生
「ロボット、作っていい?」
澪が言ったのは、何でもない昼下がりのことだった。
「ガードくんのこと?」
「うん」
「いいけど」
「りおん」
七海の声が、低くなった。
「予算は。部品代は。スペックは。設置場所は」
「七海に聞いて」と、澪。
「先に私に聞いてください」と、七海。
「りおんがOK言ったら、七海も大丈夫かなって」
「大丈夫じゃないです」
「え」
「予算を決めてから動いてください。この基地は、思いつきで何億も消えていく場所なので」
澪が、俺を見た。
「予算って、いくらまでならいい?」
「七海に聞いて」
「りおんも私に投げないでください」
結局、七海が仕切った。
部品代の上限、機能の条件、スケジュール。
条件は二つだけ。
「武装はなし。見回りと通報だけ」
「わかった」
「あと、ちゃんと動くこと」
「それは、当たり前じゃない?」
「当たり前じゃないから確認してます」
澪は、少し考えてから、頷いた。
「……やってみる」
こうして、ガードくんの制作が始まった。
二週間、澪は地下にこもった。
部品が届くたびにでかい段ボールが地下を埋めていった。
七海が「通路が塞がっています」と言うたびに澪が「あとで片付ける」と答えて、片付けなかった。
俺は、正直、気になって仕方なかった。
三日目。
「どんな感じ?」
「まだ骨格」
「何日かかる?」
「わかんない」
「だいたいで」
「わかんない」
五日目。
「もう動く?」
「まだ配線」
「すごいな配線だけで五日」
「うるさい」
八日目。
「完成した?」
「プログラム中。来ないで」
「来ていいって言うまで来ない」
「じゃあ一生来ないで」
「それは困る」
「冗談。あと二日」
十日目の夜。
澪から「できた」と一言だけ、メッセージが来た。
俺と七海で地下に降りると管制ルームの中央に、それはいた。
「……でかい」
思ったより、でかかった。
七海の目が、少しだけ、遠くなった。
「……何センチありますか」
「百二十」
「百二十」
「思ったより大きくなった」
「思ったより、ですか」
「うん。作ってたら、ついいろいろ追加して」
「追加」
「カメラの画角が足りなかったから、カメラ増やして、そしたらバッテリーも増やして、そしたら重くなったから足を太くして」
七海が、深呼吸した。
「……動かせますか」
「できる」
澪が、タブレットを操作した。
ガードくんが、ゆっくりと動いた。
重心をとりながら、一歩。もう一歩。
「……ちゃんと歩く」俺は、思わず声が出た。「すげえ、歩いてる」
「当たり前」
「いや、でも、本当に歩いてるじゃん。澪が作ったやつが」
「あたしが作ったんだから、歩く」
「でも感動するだろ、これ」
澪が、少しだけ、照れたような顔をした。
その夜。
ガードくんは、敷地の初パトロールに出た。
管制ルームのモニターで、三人で見守った。
ガードくんが、真っ暗な敷地を、一歩一歩、歩いていく。
途中。
小石に足を引っかけて、盛大に転んだ。
「……あ」
澪が、タブレットを操作した。ガードくんが、よろよろと立ち上がった。
また歩き始めた。
「……大丈夫か、ガードくん」
「センサーは壊れてない。転倒検知と自律起動、ちゃんと動いてる」
「転ぶこと前提で設計してんの?」
「転ぶことはある。でも、起き上がれれば問題ない」
なんか、それはそれで、頼もしい気がした。
しばらく三人でモニターを見ていた。
ガードくんが、ゆっくりと敷地を回っている。
でかくて、不格好で、たまに揺れる。
でも、ちゃんと動いている。
七海が、ぽつりと言った。
「……ガードくん、ですね」
「そう」
「認めました?」
「……機能してるので」
俺は笑った。
澪は、モニターから目を離さないまま、小さく、でもはっきりと笑った。
ガードくんが、また転んだ。
また、起き上がった。
「……頑張れ、ガードくん」
俺が言うと、七海も、澪も、何も言わなかった。
でも、誰も、画面から目を離さなかった。




