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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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21/32

ジュース

朝。

というか、何時かはわからない。

地下2階の管制ルームに降りたら、澪がモニターの前で、突っ伏していた。

「……澪、起きろ。澪」

肩を揺すると澪が顔を上げた。いつもと様子が違った。

顔色が、悪い。目の焦点が、合っていない。

「……りおん?」

「具合悪いのか」

「……べつに」

「嘘つけ。鑑定かけるぞ」

 

【水瀬澪/22歳・女】

体の状態:低血糖、脱水、睡眠不足が重なって限界に近い

最後に食べたもの:38時間前

最後に寝たのは:52時間前

 

「……何時間飯食ってないと思ってんだ」

「数えてなかった」

「38時間だ」

「そんなに?」

「そんなに」

澪は、ぼんやりと自分の手を見た。「……道理で、なんか変だと思った」

「変どころじゃない」

俺は澪の肩に手を当てて、回復をかけた。低血糖と脱水は治せない——栄養と水分は外から入れるしかない。でも、消耗しきった細胞を起こすことはできる。

「ちょっとだけ、楽になる。でも今すぐ何か食べろ」

「……うん」

「動けるか」

「たぶん」

「たぶんじゃなくて」

澪が、ゆっくり立ち上がった。よろけた。

俺が支えた。

澪は、少しの間、俺の腕に体重を預けたまま、動かなかった。

「……ありがとう」

いつもより、声が小さかった。

 

七海が冷蔵庫から出してきたゼリー飲料と、ジュースを、澪に渡した。

澪は、ソファに座って、ゆっくりジュースを飲んだ。

三人で、しばらく黙っていた。

七海が、静かに言った。

「……いつもこうなんですか。昔から」

「昔から」

「誰も、止めてくれなかったんですか」

澪は、ジュースのパックを見たまま、少し考えた。

「……いなかった。止めてくれる人」

「ご家族は」

「親、いるけど」

澪が、短く言った。

「転勤が多い人たちで。あたし、小学校から高校まで、七回引っ越してる」

「七回」

「うん。毎回、転校して、また転校して。……なんか、途中から、人と仲良くなるのが面倒になった。どうせすぐ引っ越すし」

「それで」

「コンピューターの方が、楽だった。場所関係ないから。どこにいても、同じものがある」

七海が、何も言わなかった。

「高校、最後の転校先に馴染めなくて、行かなくなった。そしたら親とも、うまくいかなくなって。卒業してから、ずっと一人でいた」

澪は、ストローを、指でくるくると回した。

「居場所って、別に、なくてもいいかなって思ってた。面倒だから。でも、なんか……ずっとどこかで、うっすら、変な感じはしてた」

「変な感じ」

「うん。ここにいていいのかなみたいな。でも、どこに行けばいいかも、わからなくて」

俺は、何も言わなかった。

言えることが、なかった。

「そしたら、りおんのサーバー、見つけて」

澪が、少しだけ、口の端を上げた。

「ボロいのに中がすごくて。……あたしみたいだなって思った」

「ボロいのはサーバーだけど」

「りおんも、わりとボロい」

「おい」

七海が、珍しく、小さく笑った。

 

「澪」

「ん」

「ここにいていいのかなって、今も思う?」

澪は、少し考えた。

「……たまに思う。でも」

「でも?」

「ここにいると変な感じが、しない」

「そうか」

「うん」

澪は、ジュースを飲み切って、パックを、ぺしゃんこにした。

「……ご飯、食べたら、仕事する」

「今日は休め」

「でも」

「いいから。ピヨちゃんは逃げない」

澪が、少しだけ、目を細めた。「……そうだね」

 

その日、澪は珍しく、昼過ぎまで寝た。

管制ルームの、自分のブランケットにくるまって。

七海が、そっと毛布をかけ直した。

俺は、それを見ながら、思った。

こいつが最初にここに来た時、荷物がノートパソコンと充電器だけだった。

それ以外に、持ってくるものが、なかったんじゃなくて。

持っていくものが、なかったんだろうな。

居場所が、なかったから。

 

でも今は、ブランケットがある。

毛布をかけてくれる人がいる。

寝すぎたら起こしてくれる人も、たぶん、いる。

 

寝顔を見ていたら、なんか、嬉しくなった。

うまく言葉にはできないけど。

こいつがここにいて、よかった。

心から、そう思った。


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