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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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18/32

もう一度だけ(前編)

鷹司さんからの紹介が、また届いた。

今度は「スポーツ界の人間」とだけ書いてあった。

「……誰ですか」

七海が資料を確認しながら言った。

「藤堂陸。元サッカー日本代表。三年前に引退」

「藤堂陸」

澪が、モニターから顔を上げた。

珍しい。こいつが人の名前に反応するのは、めったにない。

「知ってんの、澪」

「うん。好きだった」

「サッカー、見るんだ」

「見てた。小学生の頃。あの人の動き、変なんだよね。他の選手と全然違う軌道でボールが来る」

「変なの?」

「いい意味で。すごく変」

七海が、小さくため息をついた。「……澪さんの褒め言葉は、独特ですね」

 

やってきた藤堂は、背が高く、静かな男だった。

ただ、右膝にサポーターを巻いたまま、わずかに足を引きずっている。

「鷹司さんから聞いています。……どんな怪我でも治せると」

「だいたいは。見てみないとわかりません。診せてもらえますか」

藤堂は少し迷ってから、頷いた。

俺は鑑定をかける。

 

藤堂陸とうどう りく/31歳・男】

体の状態:右膝の前十字靭帯と半月板に重篤な損傷。手術歴あり、回復が不完全

本当の経緯:三年前の試合中、相手選手から故意のタックルを受けた。偶発的な事故ではない

表向きの引退理由:「膝の怪我による」(事実だが、経緯は伏せている)

なぜ黙っているか:証明が難しい。チームに迷惑をかけたくない。もう終わったことだと思っている

願い:息子に、ボールを蹴るところを一度だけ見せたい。息子はまだ2歳で、父親が選手だったことを知らない

 

……一度だけ、か。

俺は右膝に手をかざしながら、黙って治し始めた。

損傷した靭帯と半月板を、細胞のレベルから作り直していく。

光が静かに広がって、引いた。

「立ってみてください」

藤堂が立ち上がった。右膝に体重をかけた。

「……痛くない」

「ですね。……ついでにもう少しやっていいですか」

「え?」

「膝だけ治しても、三年のブランクで全身が鈍ってる。せっかくなんで、まとめてやります」

「まとめて、って……」

「痛いことはしません。ちょっと待ってて」

七海が横で静かに目を細めた。「……青柳さん、また仕事の範囲、広げてますね」

「ついでだ、ついで」

俺は両手を広げて、藤堂の体全体に意識を向けた。

三年分のブランクで眠ったままの筋繊維。固まった可動域。鈍った神経の反応。それを全部、現役時代の最高の状態に引き戻すイメージで——いや、それ以上に。細胞ひとつひとつを、生まれたての状態に。

光が、全身に広がった。

数秒後、すっと引いた。

藤堂は、きょとんとしたまま、自分の手を開いたり閉じたりしていた。

「……なんか」

「なんか?」

「体が、変です」

「悪い方向に?」

「……違います。なんか、軽い。すごく軽い。膝だけじゃなくて、全部」

「現役の頃より、たぶん、いい状態になってます」

「は?」

「三年前より動けると思います。試してみないとわかりませんが」

藤堂は、しばらく呆然としていた。

それから、ぽつりと言った。

「……ありがとうございます」

かすれた声だった。

 

「一個だけ聞いていいですか」

俺は言った。

「はい」

「なんで、一度だけなんですか」

藤堂が、顔を上げた。

「……は?」

「息子に見せたいっていう気持ちはわかります。でも、その膝でまた現役やれますよ。31歳ならまだ全然いける。なんで一回で終わりにするんですか」

藤堂は、しばらく黙っていた。

「……引退した選手が戻るのは、簡単じゃないんですよ」

「そういう話じゃなくて。あなたは本当は、やりたくないんですか」

「……」

「やりたいなら、やればいいじゃないですか。体は今、どこも悪くないんだから」

七海が横で、こめかみを押さえた。「青柳さん。それは余計なお世話では」

「余計なお世話だけど、気になる」

藤堂は、視線を落とした。

「……三年、離れてたんですよ。今さら戻れるかどうか」

「それはやってみないとわからない」

「リハビリも、チームを探すことも」

「全部、後でどうにでもなる話でしょ」

藤堂が、静かに俺を見た。

「……なんで、そこまで言うんですか。仕事は終わったでしょう」

「あなたのこと好きな人、いるじゃないですか。うちに一人」

澪が、ぴくりとした。

「変な動きのボールが見たい人が」

澪は何も言わなかった。ただ、視線をモニターに戻した。

耳が、少しだけ赤かった。

 

藤堂は、帰り際にもう一度だけ振り返った。

「……考えます」

それだけ言って、出ていった。

 

「青柳さん」七海が言った。「治療費です。おいくらにしますか」

「一千万でいいです」

「……いつもより、だいぶ安いですが」

「今回は、それで」

七海は何も聞かなかった。

ただ、帳簿に書き込みながら、小さく言った。

「……続きがあるかもしれないですもんね」

 

その夜。

澪がモニターの前で、何かを調べていた。

「何見てんの」

「……三年前の試合映像」

俺は何も言わなかった。

「りおんが鑑定で見た話、聞いてた」澪は画面を見たまま言った。「あたしのほうで、できることがあるかもしれない」

「……そうか」

「でも、使うかどうかは藤堂さんが決めること」

「わかってる」

澪は、それ以上何も言わなかった。

静かに、フレームを一枚ずつ、送っていた。


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