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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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15/32

もう一個、あった

御堂の件から、数日後。

七海が、めずらしく俺に、お願いをした。

「……青柳さん。今日、少し、早く、上がっていいですか」

「いいけど。珍しいな。どこ行くんだ」

「父の、見舞いに」

そう言って、ちょっとだけ、目を、伏せた。

 

七海の父親は、二年前、脳梗塞で倒れた。

一命は、取り留めた。でも、左半身に、麻痺が残って、ずっと寝たきりのままだ。

七海がこの仕事に飛びついたのも、桁外れの条件に目を剥いたのも、ぜんぶ——そこから、来ていた。

俺は、採用したあの日に、鑑定で、見抜いていた。でも、一度も、口に出したことは、なかった。

「……俺も、行っていいか」

七海が、ぴたりと止まった。

「……なぜ、ですか」

「なんとなく」

七海は、しばらく俺の顔を、見ていた。

それから、小さく、息を吐いた。

「……ミンティーで、行きますか」

「もちろん」

 

病院は、基地から、一時間ほどの距離だった。

受付で、七海が、手続きをしている間。

俺は、待合の椅子に、もたれて、ぼんやり、考えていた。

七海から、3000万を、受け取ったと連絡が来た日のことを。

「……ありがとうございます」って、かすれた声で、言ってた。

その金で、父親が倒れてから積み上がった借金が、消えた、らしい。

医療費、介護費、生活費。七海一人で家族を支えながら、足りない分は借りて、また借りて。二年間、そうやって、回してきた。

その借金と、残りの医療費と、弟の受験費用。ぜんぶ合わせたら、3000万は、ぎりぎり足りるくらいだった、と。後から、聞いた。

それは、よかった。それは、本当によかった。

でも——金で解決できる部分は、した。

まだ、もう一個、あった。

 

病室は、静かだった。

ベッドの上の、男性。

七海と、面影が、似ている。がっしりした体格が、今は、少し、縮んで見える。

「父さん。……来たよ」

七海の声が、ここだけ、やわらかかった。

「うちの、青柳さん。仕事でお世話になってる人」

「どうも。青柳です」

七海の父は、右手だけで、ゆっくり、会釈した。

左半身は、ほとんど、動かない。目は、しっかりしている。

俺は、いつものを、やる。

鑑定。

 

橘誠一たちばな せいいち/57歳・男】

体の状態:脳梗塞後遺症。左半身麻痺。言語は残存、理解力に問題なし

心の状態:娘に、迷惑をかけているとずっと、思っている

いちばん気になっていること:七海が、ちゃんと飯を食えているか

 

……娘が心配しているのに父親も娘の心配をしている。

なんだ、この親子。どっちも、そっちのことばっかりじゃねえか。

俺は、立ち上がって、橘さんの、ベッドの脇に、腰を下ろした。

「橘さん。俺、ちょっと変わった仕事をしてまして」

「……七海から、聞いとります。若返らせる、先生やと」

「まあ、そんなとこです。……一個、聞いていいですか。よくなりたいですか」

橘さんが、静かに、俺を、見た。

「……七海に」小さな声で、言った。「もう一回、立って、迎えに行ってやりたい」

七海が、息を、飲んだ。

俺は、頷いた。

「じゃあ、ちょっとだけ、手を、貸してください。痛いことは、しません」

 

橘さんの、左手に、そっと両手を、重ねる。

目を、閉じる。

死んだ神経に、もう一度、信号を。固まった血管に、流れを。眠ったままの筋肉に、目を覚ませと。

光が、足の先まで、じんわりと広がっていった。数秒後、すっと引いた。

 

橘さんが、ゆっくり、左手を、持ち上げた。

「……動く」

もう一度。今度は、しっかりと。

「動く。動くぞ……っ」

体を、起こそうとした。

七海が、慌てて、支えようとして。

でも、橘さんは自分でベッドから足を降ろして、立った。二年ぶりに自分の足で。

「……七海」

「……うん」

七海の声が、震えていた。

橘さんが、左腕を、広げた。

七海は、子供みたいにそこへ、飛び込んだ。

「ごめんな。……ずっと心配かけて」

「こっちの、台詞」

七海が、泣いているのを、俺は、ちゃんと見た。

でも、見なかったことにした。

窓の外の、景色が、やけにきれいだったから。

 

帰り道。

ミンティーの助手席で、七海は、ずっと窓の外を、見ていた。

「……青柳さん」

「ん」

「3000万のこと。あれは、お金の話でした」

「うん」

「今日のことは」

「今日のことは、なんでもない。ついでだ」

七海が、ちょっとだけ、笑った。

「……ついでにしては、大きすぎます」

「うちの仕事、だいたいそんなもんだろ」

しばらく、ミンティーの、エンジン音だけが、続いた。

「……ありがとうございます」

「お前が倒れたら、俺が困る。そんだけだよ」

「前にも、同じこと言ってましたよ」

「同じ気持ちだから、仕方ねえだろ」

七海は、それ以上、何も、言わなかった。

ただ、また、窓の外を、見ていた。

その横顔が、来た時より、少しだけ、軽そうだった。

 

翌日。

基地に戻ると、澪が、例のごとく、モニターの前にいた。

「七海、なんかいい顔してる」

「……そうですか」

「うん。昨日と、違う」

七海は、何も言わずに自分の席に、着いた。

モニターを、起動させながら、ぼそっと言った。

「……今日も、仕事です」

「お、やる気じゃん」

俺は、にやりとした。

「じゃあ、次、行くか。御堂さんから、新しい紹介の話、来てたんだろ」

「……ええ。政界の、方だそうです」

「どんな人だ」

「それが」七海が、少し、首を、傾けた。「体の悩みでは、ないと」

 

それが、沢渡議員の話に、繋がっていく。

でも、今日の俺には。

何か一個、肩の荷が、下りたような気がしていた。

金で解決できる部分は、した。

チートで解決できる部分も、した。

——あとは、七海が、ちゃんと笑えるようになったら。

それでじゅうぶんだ。


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