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神様にもらった回復チートで荒稼ぎしてたら、普通に脱税で捕まりました  作者: ももの樹


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12/32

住み込み天才の生態

澪が、うちに来て、三日。

地下2階は、すでに半分、澪の巣に、なっていた。

七海の、きっちり整頓された管制ルーム。その一角に、いつのまにか、モニターが、三枚、増えている。机の下からは、得体のしれないケーブルが、何本も這い出して、隣の島まで、侵食していた。

そして、その中心で。

澪が、パーカーのフードをかぶったまま、椅子の上で、体育座りをして、キーボードを、叩いていた。

足元の、エナジードリンクの空き缶は、もう、五本。

「……澪。お前、いつから、そこにいんの」

「わかんない」

「飯は」

「食べた、気がする」

「気がする、って」

「昨日か……一昨日」

「アウトだろ、それ」

七海が、無言で、コンビニのおにぎりを、澪の前に、置いた。鮭。

澪は、それを、片手で、もそもそ食べながら、もう片方の手で、キーボードを、打ち続けた。

「……青柳さん」七海が、こめかみを押さえて、言った。「この子、人間として、ギリギリです」

「天才って、だいたいそうだろ」

「天才の前に、生き物として、心配なんですけど」

 

ちなみに澪は、入居初日に。

俺たちが寝てる間に、例の「甘い三カ所」を、勝手に、直していた。

「直していいって、言ってないんだけど」と、七海。

「言われる前に、直したくなった」

「順番が、逆です」

「でも、もう、誰も入れない。あたし以外」

七海が、自分の組ませた守りを、検証した。そして——しばらく無言になった。

「……どうだ。七海」

「……完璧です。腹が立つくらい」

「素直に、褒めれば、いいのに」

「褒めてます。腹を立てながら」

澪が、ぼそっと言った。

「ツンデレ」

「違います」

「照れてる」

「照れてません」

「耳、赤い」

「……地下は、空調が、強いんです」

俺は、笑いをこらえるのに必死だった。こいつら、放っておいても、勝手に、漫才を、始める。

 

そういや、と、俺は、思い出した。

「澪。お前、初めて会った時、エレベーターの認証が0.4秒どうとか、言ってなかったか」

「直した。初日に」

「もう直したのかよ」

「0.4秒、気持ち悪かったから。今は、0.0秒」

「0.0って、なんだよ」

「気持ちいい」

説明に、なってない。でも、本人が、満足げなので、いいことにした。

 

問題は、その次だった。

澪は、基地の“面白いシステム”を、好きなだけいじっていい——という条件で、うちに来た。

で。三日目にして、もう、ドローンに、手を出していた。

「青柳さん。見てください」

七海が、モニターを、指差す。

そこには——夜の敷地を、巡回しているはずの、ドローンが。

なぜか、空中で、くるくると宙返りを、繰り返していた。

「……何やってんだ、あれ」

「澪に、聞いてください」

澪は、悪びれもせず、言った。

「踊らせてる」

「なんで」

「巡回ルート、最適化してたら、余った時間が、できた。暇そうだったから」

「ドローンに、暇は、ねえだろ」

「あと、名前つけた。あのドローン、ピヨちゃん」

「ピヨちゃん」

「うん。上から見てると、ヒヨコっぽい」

七海が、頭を、抱えた。

「……億単位の、防衛設備に。ピヨちゃん」

「いいじゃねえか。愛着、わくし」

「わきません。宙返り、してます。さっきから、ずっと宙返り、してます」

「曲芸は、止める」澪が、ぽちっと、キーを押した。「でも、巡回の精度、二割上がった。あたしが、組み直した」

七海が、検証して……また、無言に、なった。

「……二割。本当に、上がってます」

「でしょ」

「宙返りさせる必要、ありました?」

「ない。でも、楽しい」

 

「あ。それと」澪が、ぽつりと付け足した。「地上、歩くやつ、欲しい。ロボット。あたしが、組む」

「お、いいなそれ。ガードくんとか、名前——」

「却下です」

すかさず、七海。

「ドローンで、もう、お腹いっぱいです。それに——その手の警備ロボットを、一から作るとなると。先立つものが、ぜんぜん、足りません」

「えー。金、ねえの?」

「9話で、30億、地面の下に、埋めましたよね。覚えてます?」

「…………埋めたな」

「ロボットは、稼いでから。……というか、まず、ドローンの名前を、ピヨちゃんで、確定させないでください」

「ガードくんは、ロボットができた時の、予約席な」澪が、真顔で、メモに書いた。

「予約、しないでください」

 

——これが、澪だった。

やることは、世界最高水準。なのに動機が、ぜんぶ「面白いから」。

たちが悪いのは、その「面白いから」で動いた結果が、毎回、ちゃんと役に立っちまうことだ。

 

午後。

俺は、地上のボロ屋で、届いた荷物を、開けていた。

取引先……いや、最近は、いろんなとこから、付け届けが来る。果物だの、酒だの、菓子折りだの。

その中の、ひとつ。

立派な桐の箱に入った、高そうな置き時計。差出人は——見覚えのない名前だった。

なんとなく嫌な予感がして。俺は、その時計を、鑑定した。

 

【贈答品/鑑定】

種別:高級置き時計(市販品)

状態:内部に、小型の発信機が、一つ。後から仕込まれたもの

目的:設置場所の、音声を、外部へ送信

差出人:偽名。背後に、別の人物

 

「……うっわ。盗聴器、入ってるわ、これ」

声に出すと、地下から、ぬっと澪が、上がってきた。さっきまで寝てたのか、寝てなかったのか、わからない顔で。

「盗聴器? 見せて」

俺が箱を渡すと、澪は、時計を、ためつすがめつ、して。

「……ほんとだ。発信機。安物じゃない。でも、電波、出てる。出てるってことは——」

澪の目が、すっと光った。

興味のあるものにだけ、灯る、あの光だ。

「たどれる。発信先」

「お、いけんの?」

「いける。りおんが“仕込まれてる”って当てて、あたしが“どこに送ってるか”を追う。……役割、きれいに分かれてるね」

俺は、にやっとした。

人の中も、データの中も、見抜く俺の鑑定。

そして、システムの奥まで、技術で読む、澪のハッキング。

——なるほど。こいつは、確かに、噛み合う。

「七海。これ、たぶん、黒田みたいな手合いか、その残党だ。澪と追ってみるわ」

「……いいでしょう。ただし」

「ただし?」

「やりすぎ、ないこと。仕返しに、ドローンで、追い回したり、しないように」

「ピヨちゃんで?」澪が、真顔で。「いい案」

「却下です。……ロボットができる前で、本当に、よかった」

 

その盗聴器の件は——まあ、追々、片付けた。

たどってみりゃ、案の定、しょぼい同業者の、しょぼい嫌がらせ。鑑定で弱みを握って、二度とやらないよう、きっちり、釘を刺しておいた。

たいした話じゃ、ない。

ただ、その日。俺は、ひとつ、確信した。

うちのチームは——たぶん、もう、そうそう、崩せない。

死なない俺。守りを固める七海。すべてを技術で読む、澪。

鑑定で、悪意は弾ける。仕込みは、見抜ける。攻めてくる奴がいても、根っこまで、たどれる。

「……無敵じゃね、うち」

「フラグですよ、それ」と、七海。

「フラグって、なんだよ」

「“無敵”って言った人が、無敵だったためしが、ないんです」

「縁起でも、ねえな」

 

その夜。

鷹司さんから、連絡が、来た。

『例の件、整いました。一人、紹介したい。

……ただ、少し、込み入った事情の、ある御方でね。

会って、君の目で、見てやってくれると助かる』

俺は、その文面を、二度、読んだ。

込み入った事情。鷹司さんが、わざわざ、そう書くってことは——ただの金持ちの、わがままじゃ、ない。

「七海。澪。仕事だ」

「桁、いくつですか」と、七海。

「……たぶん、いつものより、ゼロが、多い」

「燃えますね」

「金に、燃えんなよ」

「燃えてません。段取りに、燃えてます」

澪が、エナジードリンクを、ぷしゅっと開けた。

「……面白いこと?」

「たぶんな」

「じゃあ、起きてる」

「お前、いつも起きてるだろ」

「じゃあ、もっと起きてる」

 

——鷹司ルート、上客・第一号。

それが、どんな“願い”を、抱えてやってくるのか。

この時の俺は、まだ、知らなかった。

ただ、ひとつだけ。

「込み入った事情」という言葉がなんだか、やけに引っかかっていた。

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