3 中谷さんが繋ぐ
「あーあ、女性を泣かしちゃ紳士失格だよ?嵐君」
「え、あ、いや、な、なな、中谷さん?」
後藤さんに紳士失格と言われ、嵐君は慌てる。そして、しばらくオタオタしてからその手を──私の頭の上に置いた。私は思わず目を見開く。自分が何故そんな行動を取ったのか、嵐君は分かっていないようだった。私はというと何となく察していた。
嵐君の脳の何処かに残っているはずの、私と過ごした面倒くさい日々の記憶。それがそうさせたんだろう、と。頭の上に置かれた嵐君の手、私はその手を取って、ぐいっと引っ張った。身体のバランスを崩した嵐君が絵本を取り落とし、私を押し倒す形で倒れてくる。
何やってるのかなぁ、私は。きっと、嵐君はまた顔を赤らめるだけだろうに。
「……何やってんの、中谷さん」
「……え?」
「だから、何やってんの。中谷さんのえっち」
私、夢でも見てる?嵐君が淡々と私の行動にツッコミを入れる。後藤さんも飲んでいた紅茶のペットボトルを取り落とす。その紅茶のペットボトルが変に飛んで、徹君の大事なところを直撃した。徹君も起きる。
「……嵐、君?」
「誰がお別れしてやるもんか」
「何のこと?」
「こっちの話」
私が今、話しているのは……全健忘を起こす前の嵐君?えーっと、病理外健忘の人ってまるっと記憶が戻ったらずっとそのまんまなんだっけ。また忘れるんだっけ。いくつかタイプがあったはずだ。どうしよう、無駄に頭に詰め込んだ昔の知識が氾濫して正解がどれだか分からなくなってきた。でも、今、私の前に居るのは……。




