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隣りの中谷さん  作者: はしたか みつる
中谷さんが繋ぐ

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1 中谷さんが繋ぐ

 知り合ってそんなに長くないけど、私には大切な人が居た。ううん、居た、なんて過去形にしちゃいけない。彼は必ず戻ってくるんだから──。私の大切な人は雨宮 嵐君という。K型性精神疾患様症状の私と同じくらい珍しい、病理外健忘で精神科に入院している男の子だ。


 彼は私の病室、222の隣りの部屋、223に入院している。223にいる三人の男性のうち一人が嵐君。先日、三度目の全健忘が起きて「全て」を忘れた。自分の名前も、年齢も、性別すら。当然、自分に何が起きたか分からなくてパニックになり、しばらくは鎮静剤を注射されては寝て、起きてパニックになっては鎮静剤を注射されて寝て、の繰り返しだった。


 だけど、時間は何よりの薬になってくれた。嵐君が全健忘を起こして、一週間が経つ。



 「あーらし君!」


 「あ、中谷さん」



 彼は綺麗さっぱり、私のことも忘れた。それでも、こうして私がノックもせず223に出入りしても怒らないくらいには、また私に慣れてくれた。彼が全健忘を起こした直後、覚悟はしていたつもりだけど「あんた、誰……?」とか言われて、ちょっとショックだったなぁ。



 「やぁ、中谷さん。売店の新製品の紅茶でも飲んでいくかい?」



 そう、私に声を掛けてくれたのは後藤さん。223の隊長とかいうやつをやっているらしい。で、カーテン全開で爆睡しているのは徹君。223の副隊長とかいうやつをやっているらしい。男の人って好きだよね、そういうの。


 とか言ってる私は、中谷 智恵里。メタ発言をすると、主人公である嵐君が復活するまでの間、ヒロインである私がこの物語を繋いでいこうと思っている。嵐君に「なんちゅうメタ発言してるんだよっ」って怒られたい。私、Mとかではないけど。

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