6 中谷さんの小さな図書館
心地いい。落ち着いた中谷さんが「瞳の奥の虎」を読んでくれている。確かにストーリーはめちゃくちゃだ。猛獣使いが虎と入れ替わって、うんちゃらかんちゃら。ラストは、猛獣使いと虎が一体化してしまう、というものだった。
読み終わった中谷さんに俺は、もう一回、とねだる。中谷さんは一番最初のページに戻り、また最初から読んでくれる。こんな時間がずっと続けばいいのになぁ。そんなことを思いつつ、中谷さんの声に耳を傾ける。
退屈とは違うけど、こういう時間は好きだ。
「……そして、猛獣使いの身体を使って虎は──」
その後も、俺は中谷さんにたくさんの絵本を読み聞かせてもらった。幼児向けの絵本もヤングアダルト向けの絵本も「瞳の奥の虎」も。俺は「瞳の奥の虎」が気に入っていた。めちゃくちゃなのに温かい、不思議な物語なのだ。
そんな日々が、一週間続いた。
俺は後藤さんにも徹君にも、近々やってくるであろう全健忘の話をした。しかし、俺は二人から驚くべき事実を聞かされた。二人とも、俺に過去二回起きた全健忘の時も一緒に居たのだという。俺と後藤さんと徹君はずっと223で一緒だった、と……。
後藤さんは「また自己紹介の時にゲイだって言って、君をフリーズさせてしまうねぇ」と笑い、徹君は「俺は暇があれば寝てるから具合悪いんだと勘違いされ直しだな」と笑った。
223の男三人とお隣りの中谷さんで過ごした一週間は長かったようで、短かった。
何だよ、これ、お別れみたいじゃんか。




