5 中谷さんの小さな図書館
院長も石見さんも中谷さんの病室から出たあとで、俺はいつもより距離を縮めて中谷さんの隣りに座った。中谷さんが横から俺に抱き付いてくる。ごめんね、を繰り返しながら。
「ごめん。ごめんね、嵐君……」
「何で中谷さんが謝るの。悪いのは俺の記憶障害だって」
「そうじゃないの、嵐君が一番泣きたいはずなのに私が、私がこんなっ……!」
……誓うよ、中谷さん。俺、全健忘を起こしてもまた戻ってくるから。必ず、今の俺に戻るから。でも、言葉で誓えるほど自信が無いから心の中で誓わせてくれ。俺は泣きじゃくる中谷さんの身体に腕を回した。
「なぁ、さっきの絵本、読んでくれよ」
「っく、ひっく……いくらでも読んであげる、いくらでも……っ」
「まずは中谷さんが泣き止むところからだなぁ」
俺もさっきまで大泣きしていたんだけど、今は不思議と明るい気持ちで笑顔になれていた。中谷さんはなかなか泣き止まない、そんな中谷さんの面倒を見るのはやっぱり俺じゃないといけない。そんなことを思って、中谷さんの身体を力強く引き寄せた。バランスを崩した中谷さんを抱き締め、しばらくそのままでいた。
「……嵐君?」
「なに?」
「……びっくりして涙、止まった」
中谷さんのその言葉を聞き、俺は吹き出して笑った。どうしてこんなにスッキリした気分で全健忘の瞬間に怯えているのやら。いや、違うな。俺は今、別に全健忘の瞬間に怯えてはいなかった。でもまぁ、そんなことはどうでもいいことにしよう。今は中谷さんに絵本を読んでもらうことが俺にとって一番大事なのだ。




