3 中谷さんの小さな図書館
俺は中谷さんに言われて、ベッドの端に腰掛けた。中谷さんも隣りに腰掛ける。中谷さんが俺が見やすい位置に文庫本のような絵本を開き、そこにある物語を読み上げ始めた。中谷さんって、こんなに優しい声してたっけ。そう思うほど中谷さんの声は優しく、穏やかで……あの人みたいだ。
……あの人?
「っ……!?」
「嵐君!?」
急に胸を押さえた俺を見て、中谷さんが反射的にだろう、ナースコールを押した。対応してくれた声はまたも石見さん。今すぐそっちに行きます、そう言ってナースコールは切れた。
最近、記憶が蘇っては内容を忘れる、そんなことが増えた。俺が胸を押さえたのは、心が苦しいから。そろそろ限界だよ、と誰かの声がする。ヤバい、俺、幻聴が入るようになった……?
遠くから石見さんの足音や声がする。
「失礼しますっ!雨宮君、大丈夫ですか!?」
「石見、さん……声が、する」
「誰のですか……!?」
「分からない。でも、声が……っ」
そんなやり取りをする俺と石見さんを、中谷さんが少し離れたところから見ている。こんなことは初めてだ、たぶん。今日は院長の出勤日、この後は取り調べのような診察が待っているに違いない。
石見さんが俺の血圧を測っているうちに、声は聴こえなくなった。
「……中谷さん、驚かせてごめん」
「いいの、そんなこといいの、それより嵐君は大丈夫……?」
泣きそうな顔をしている中谷さんに、ウインクになっていないウインクをする。遠くからカツンカツンカツンッ!!と、院長の靴の音が聞こえ出した。相当、走ってるな。もういい年なんだから身体を労れよ、なんて思えるくらいには落ち着いた。
今さっきの声、何だったんだろう。




