2 ヘアピンdeアームカット
「看護師さんコースだなー、これは」
「やっぱり……。あーあ、病室の鍵を外からガチャリンコかなぁ」
「ていうか、どうやって切ったんだよ、これ」
俺がそう尋ねると、中谷さんはワンピースのポケットからとある物を取り出した。それは、一本のヘアピン。まさか。それでこんな裂傷を作った、と?痛い、想像するだけで痛い。
「ヘアピンでも切れるんだよん」
「だよん、じゃねぇよ」
「あ、これ没収になると困るから嵐君、預かってて」
「なんで俺だよ」
中谷さんの一言に一つずつツッコミを入れるが、自傷行為に使えるヘアピンなんか匿えるか。看護師さんに渡すように中谷さんに言いたかったが、遠い記憶が俺にそれを言わせなかった。
頭の中で声がする。遠く、でも、懐かしい柔らかな声。
頭の中に映像が映し出される。顔は見えないが、透き通って見えるくらい儚げな女性の姿。
「……嵐君?顔色悪いよ?」
「……やっとだ」
「え?」
「やっと、朧気だけど記憶の欠片を掴んだ……!」
今までこんなことは一回も無かったはずだ。俺の聴いた声は「自傷癖のある人から無闇に道具を取り上げちゃ駄目よ。他の危険な自傷が始まることもあるわ」と、遠かったがそう言っていた。
視えた姿は、顔さえ視えていれば誰なのか特定出来る、そのレベルだったけど。俺も看護師さんに用事が出来た。とっとと中谷さんを引っ張ってナースステーションに行くか。ヘアピンは……俺が預かる。




