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隣りの中谷さん  作者: はしたか みつる
ヘアピンdeアームカット

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1 ヘアピンdeアームカット

 中谷さんが薬を投げ捨てた、という騒ぎから数日後。あれからきちんと服薬している様子の中谷さんは、入院環境にも慣れてきたのか出会った直後の頃のような突拍子も無い言動は減って安定しているように見えた。


 いや、そう見えていただけだったらしい。



 「嵐くーん」


 「……ん?」



 それは昼過ぎ。


 静かに全員が昼寝をしていた223の扉の外から、中谷さんの声が聞こえた。気がした。



 「嵐くーん!」


 「……んー」



 どうやら幻聴とか空耳ではなかったらしい。何でいつもみたいに勝手に入って来ないのか不思議に思いつつ、俺は欠伸をしながら223の扉を開けた。すると、そこには左腕を右手で押さえた中谷さんの姿。



 「……ふぁ……。どうしたの、中谷さん」


 「いやね、実はね、聞きたいことがあって」


 「なに?」


 「……自傷行為しちゃった時って、看護師さんに言わなきゃ駄目?」



 自傷行為。その単語で俺の眠気でボケていた頭は一気に覚醒した。左腕を押さえている、ということはそこに傷がある?俺、グロテスク耐性ないから生傷とか勘弁なんだけど、一応、見てから判断しようかと思った。


 俺が言うか言わないか判断するのは少しおかしいのだが、中谷さんも院長の患者。自傷行為をしてしまった、それも派手に、となると隔離になってもおかしくはない為、最悪、見なかった・聞かなかったことにする。



 「中谷さん、傷、見せて」


 「うん」



 ……立派な裂傷が華奢な腕に三本ほど。全然、縫うほどではない。だけど、適切な処置は必要だろう。消毒して薬を塗ってガーゼを当ててテープで止めて、仕上げに包帯だ。


 ていうか、何で俺がそんなにアームカットの処置についての知識を持っているのか、俺にも分からないのだが忘れた過去に何かあって、処置のことだけ覚えているのかもしれなかった。


 まぁ、看護師さんに言うしかないな、これは。当然、出血もしている。

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