1 薬を窓から投げ捨てる女
「宮田さん、宮田さん」
「あ、嵐君!今、大変なことになってるのよー!」
「具体的には?」
「中谷さんが薬を投げ捨てちゃったらしいの!」
……変わっている、じゃ済まされない行動だ。さっき院長にちゃんと薬は飲んでいる、と言っていたが疑わしくなってきた。もし飲んでいないのだとして、看護師さんの目の前で飲む薬をどうやって飲まずに済ませていたのかは謎だ。しかし、投げ捨てた、とは一体。
「中谷さん、隔離ッスかね」
「どうかなー。軽度の患者さんは知らないだろうけど、こういうことってよくあるのよー」
「え、マジですか」
自慢ではないが、俺は何だかんだ言いつつ毎日、何十錠という薬を飲むことを欠かしたことはない。効いているのか、効いていないのか、実はそんなことは問題ではないのだ。きちんと患者としての義務を果たし、治療を受け、いつの日か退院したい、それが俺の夢であり現実的な目標だから。いくら記憶障害に薬が効かなくても、無駄だとは思いたくない。
それが本音だった。だから、致死量に見える薬をザラザラ飲む。どんなに増薬されても。辛くても。
で、中谷さんはどうなるのか。ていうか、投げ捨てた薬って見つかるような状態なんだろうか。中谷さんの病室の中から声がし始める。あった、だの、違うお菓子だ、だの、色々な声だ。
「あ、中谷さんだ」
徹君が徐々に拡大していった人混みに紛れて病室から抜け出してきた中谷さんを発見し、そのまま見送った。どこに逃げるつもりなのか。下手したら、隔離に拘束だぞ。だが、中谷さんは廊下の開いた窓に向かって腕を振るっただけだった。
いや、今、窓の外に薬が飛んでいった。それを見ていたのは、俺と後藤さんと徹君だけ。




