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兄が私を認めるまで  作者: 神埼未来
四歳児編
28/28

いとこと私


約一月ぶりです。



 叔父と初めて会ったあの日から数日後、宰相である叔父の休みの日に父と母と兄と私の四人―――と護衛のみなさんと共に、叔父の家であるフィルティシア公爵家に来ていた。


「ようこそいらっしゃいました、兄上、義姉上、フォルティス殿下、ライキアーナ殿下」


 屋敷で出迎えてくれたのは、叔父とその妻である叔母、そしていとこである少女だ。


「紹介しますね、殿下。こちらが妻のシェリアライアです。シェリーとお呼びください」


 するとすぐに、叔父が叔母をそばに呼び寄せて紹介をしてくれる。それが終わると次はいとこをそばに寄せた。


「そしてこの子が娘のルシャリナ。ルーシャとお呼びください」

「ルーシャ?」

「はじめまして、でんか。ルシャリナです。ルーシャと呼んでください」

「えっと、ライキアーナです。ライカってよんでください」


 彼女が私たちのいとこか。ちっちゃいなー。まあ、私よりは大きいけどさ。でもま、仲良くなれそう。

 が! ルーシャ! 兄を色っぽい目で見るな!! なんか怖い!


「あの………、お名前をうかがってもよろしいですか?」


 わあ! ルーシャの目が完全に恋する乙女だ。兄、逃げて! 自己紹介とかいいから逃げて!!


「あ………、フォルティス・シエラ・ゴルティアです。小さな姫君」


 って、何で兄もそんな甘い台詞吐いてんの!!


「フォルティスさま………、私のおうじさま……」

「おやおや。フォルティスは早速ルーシャと仲良くなったみたいだね。ルーシャ、ライカとも仲良くしてあげてね?」

「もちろんです、おじさま!」


 さすがにそれを見かねたらしい父がルーシャに一声かけてくれるが、多分無駄。完全に恋する乙女と化したルーシャに何言っても止まらないと思う。

 ………………事実、ルーシャの目が微妙に怖い。ルーシャ、兄が恋しいのはわかったから、こっち睨むな。

 そう思っていると、不意にパシりと音が響く。何の音かと思っていると、それは、叔父がルーシャを軽くではあるが、叩いた音だった。


「ルーシャ。殿下を睨むな。不敬にあたる」

「へ?」

「フォルティス殿下とライキアーナ殿下のほうがルーシャよりも偉いんだ。そのような方を睨むなど、不敬以外に表現方法は無い」

「ふえっ」

シュバルツ殿下(・・・・・・・)。娘が申し訳ございません。如何せん、まだ幼子。どうかご容赦お願い致します」


 ……すごい、叔父が完全に臣下として父を見ている。臣下として、父に許しを請うている。

 そんな叔父の姿に、叔母もその横に寄り添い、頭を下げた。

 だが、父はまだ何も言わない。何かを、待っているのだろうか。


「フィルティシア公爵」

「はい、殿下」

「足りんぞ」

「分かっております。――――ルシャリナ」


 そうしていると、完全に主と臣下となった父と叔父が会話を進める。

 そのうちで、呼ばれたルーシャは体をびくりと震わせた。


「ルシャリナ。こっちへ来なさい」


 そんなルーシャに、叔父は自分の方へ来るよう言うが、体を震えさせているルーシャが動けない。


「ルシャリナ!!」


 そんなルーシャに、叔父は叱責のように大きな声を上げる。そうしてようやく、ルーシャの足が動き始めた。

 そして、ルーシャが叔父の横につくとすぐに、叔父はルーシャを無理やり跪かせた。


「申し訳ございません、シュバルツ殿下。娘にはよく言い聞かせますので……」

「ふむ。………ライカ、どうする? ライカが決めなさい」

「え?」

「睨まれたのはライカだ。ライカが許さないと言えば、ルーシャを罪に問うし、許すのならば、今は何もしない」


 ……………………………。

 ねえ、父。それを私のような子供に決めさせるのはどうかと思うんだけど。


「ねえ、ライカ。ライカはルシャリナと仲良くしたい? それとも、もう嫌?」

「なかよくしたい………」

「じゃあ、許せばいいんじゃない? 次があったら、知らないけどね」


 母、こあい。なんていうか、久しぶりに母の本気の恐怖を見た気がする。


「で、どうする? ミルシアの言うとおり、許すか?」

「うん」


 何というか、母も怖いし、ルーシャも今日あったばっかりでそんなのも、嫌だし。

 そして、私のその答えを聞いた父は、満足そうにうなずく。そしてその表情をきついものに戻して、叔父とルーシャの方へ向きなおす。


「フィルティシア公爵。ライカも言っているし、今回は許す。が、次はないぞ」

「ありがとうございます。ルシャリナ、お前も礼を言いなさい」

「あ、ありがとうございます、でんか」


 ………うん、父も叔父も怖いからか、ルーシャの反応が微妙だ。とりあえず、言ってみる的な感じ。

 でも、ルーシャが完全に怯えてる。怯えきってる。さっきからちらちらと兄や私の方を見てる。逆に怖い。


「ルシャリナ。今後は殿下らに不敬を働かないように」

「はい……」


 そんなルーシャに叔父が念を入れるものだから余計怖い。反射的に兄に隠れていた。


「おい、何なんだ」

「だって、ルーシャがこあい」

「だからって、僕に隠れるな。義母上のところにでも行け」

「かあさまも怖い」

「………義母上、こいつが何かに怯えているようですよ」

「あら、どうしたのライカ。ほら、おいで?」


 って、兄! 何故に母を呼ぶ。母、呼ばないで。怖いから!


「や」

「ライカ?」


 だ、だからそんな怖い目でこっち見ないで! 母、怖いから!


「やーっ!」

「どうしたの、ライカ。ほら、おいで?」

「や! にいさまがいい!!」


 母が怖いから!!


「義母上、構いませんからお願いします」


 って、何で私を母に引き渡そうとするの、兄!? ぎゃあっ、嫌だぁっ!!


「やだあっ!」

「あ、こら。離れろっ!」

「やだぁっ!」


 とにかく必死に兄にしがみつく。離されないよう必死にしがみつく。兄が必死で足を揺らして私をはがそうとするが、子供の根性馬鹿にすんな!


「やにゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やだじゃないだろう! いいから義母上のところへ行けっ!」

「やらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あ、あの…………ライキアーナ殿下?」

「ぎにゃあああああああああ!」


 ………あ。しまった、ついルーシャから声をかけられた瞬間に叫んでしまった。そのせいでルーシャが若干逃げてる。


「ああほら、ライカ。ルーシャが怯えているよ? ルーシャとお友達になりたいのだろう? なら、お話しなさい」


 そのせいで、父がにこやかにほほ笑みながらルーシャとお話するよう促してきた。


「ルーシャ、殿下とお話しておいで。不敬は働かないようにね」

「はい」


 うう、ルーシャが完全に怯えてて怖い。完全に兄に隠れようとするのだが、兄はとことん逃げている。


「にっさまひどいっ!」

「ひどくない。お前が一番彼女と年が近いんだ。仲良くすればいい」

「にいさまもいっしょがいー!」

「やかましい。ほら、行って来い」


 ぎゃー! 兄、背中押すなぁっ!!


「ぴぎゃーっ!!!」


 結論、涙腺決壊。猛ダッシュで兄から逃げて、母に飛びついた。そして号泣し倒した。


「かあしゃま、にいしゃまがいじめるー!」

「よしよし、フォルトったらひどいわねぇ」

「ひどい~、ひどい~」


 うわーん! 兄ひどいー!

 ―――でも、大好きだーい!!



ルシャリナはいつの日か、

ライバルになる…………かもしれない。

ならないかもしれない。


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