攻略記録その7 五千人来ても、スライムは増えません
《おすすめクエスト》
《スライムを5匹倒そう!》
グレンは、目の前に浮かぶ案内を睨んでいた。
「……ミーナ殿」
「はい」
「念のため確認する」
「どうぞ」
「救出部隊は五千人だな」
「そう聞きました」
「全員がリスタ初来訪だった場合」
「はい」
「全員に、この案内が出る」
「たぶん」
グレンが少し嫌そうな顔をした。
「たぶん?」
「初回来訪判定が個人単位なのは分かりました。でも五千人同時なんて試したことありません」
「そうか」
「普通、試しません」
もっともだった。
グレンは計算する。
五匹。
掛ける。
五千人。
「二万五千匹」
「はい」
「それに我々五人」
「二十五匹追加ですね」
「二万五千二十五匹」
二人は窓の外を見る。
草原。
平和。
ところどころ、
スライムが一匹ずつ跳ねている。
ぷるん。
ぷるん。
どう見ても、
二万五千匹はいない。
グレンが尋ねた。
「リスタ周辺にスライムは何匹いる」
「数えたことありません」
「なぜだ」
「スライムを国勢調査に入れる人はいませんよ」
「では増やせ」
「今日中に!?」
そこへ伝令兵が口を挟んだ。
「グレン隊長」
「なんだ」
「救出部隊ですが」
「うむ」
「すでに出発しています」
グレンの眉が動いた。
「いつ」
「昨日の夕刻です」
「なぜそんなに早い」
「隊長以下五名が消息不明。しかも宣戦布告中の敵都市」
伝令兵は真顔だった。
「遅れる理由がありますか?」
グレンは何も言えなかった。
こちらから見れば、
宿屋で寝て、
薬草を摘んで、
初心者クエストを受けていただけである。
ヴァルハラから見れば、
精鋭五名が敵都市へ入ったまま一日以上帰ってこない。
救出部隊が出るのは、
むしろ当然だった。
「止められるか」
「早馬を出しましたが」
「が?」
「向こうも早馬を使っています」
「救出部隊が早馬で来るな!」
「隊長を救出するためです!」
「俺はスライムを探しているだけだ!」
伝令兵は黙った。
「……本当に何をしているんです?」
「俺が聞きたい」
その時。
遠くから、
鐘が鳴った。
カァン。
カァン。
カァン。
ミーナの顔色が変わる。
「東門です」
グレンも気づいた。
地面が、
わずかに揺れている。
一人や十人ではない。
もっと多い。
大勢の足音。
やがて。
見張り台から、
警備兵の絶叫が聞こえた。
「ヴァルハラ軍――!」
グレンが窓へ走る。
「何人だ!」
「たくさんです!」
「数字で言え!」
「数えるのを諦めました!」
「五千だ!」
グレンは頭を抱えた。
来た。
初心者の街に。
終盤の軍隊が。
五千人。
――――
リスタ東門。
町民たちは、
完全に道の両側へ避難していた。
街道の先。
黒い軍勢。
先頭が見える。
その後ろ。
さらに兵。
その後ろも兵。
まだ兵。
黒。
黒。
黒。
ところどころ、
槍。
大剣。
杖。
巨大盾。
魔力を帯びた鎧。
魔王軍との全面戦争を想定した、
ヴァルハラ救出部隊。
五千名。
リスタ警備隊長バッツが呟く。
「……昨日は五人だったよな」
ポポル町長が隣で頷く。
「増えたねえ」
「増えたで済ませないでください」
「四千九百九十五人増えたねえ」
「引き算の問題じゃない!」
軍勢の先頭。
赤い外套を羽織った男が手を挙げた。
全軍が止まる。
リスタ側から、
どよめきが起きた。
見事な統率だった。
一人の命令で、
五千人がぴたりと動きを止める。
男が声を張る。
「終焉都市ヴァルハラ救出部隊、副司令ドラン!」
その声だけで、
リスタの窓がびりびり震えた。
「我らは交戦のために来たのではない!」
バッツが小声で言う。
「五千人連れて?」
「グレン防衛隊長以下、五名の安否確認ならびに救出のため参った!」
ミーナが手を挙げた。
「あの」
ドランが見る。
「何だ!」
「全員無事です」
沈黙。
ドランが止まる。
後ろの五千人も止まる。
「…………」
「…………」
ドランが聞き返した。
「無事?」
「はい」
「拘束は」
「してません」
「負傷」
「してません」
「拷問」
「してません!」
「食事は」
「しました」
「宿泊は」
「しました」
「何をしている」
ミーナは少し考えた。
「チュートリアルです」
ドランの眉間に、
深い皺が寄った。
「……何だそれは」
その時。
「ドラン!」
町の奥からグレンが走ってきた。
ドランの顔が変わる。
「隊長!」
五千人の兵士たちから、
安堵の声が漏れた。
「ご無事でしたか!」
「ああ!」
「よかった……!」
ドランは馬から降りる。
グレンへ駆け寄る。
上下を見る。
怪我なし。
鎧も無事。
装備も無事。
「隊長」
「ああ」
「本当に、何をなさっていたのです?」
グレンは答えなかった。
腰袋から、
十五ゴールドを出した。
「……何です、それ」
「昨日からの成果だ」
「少なっ」
グレンが睨んだ。
ドランは黙った。
「帰るぞ」
グレンが言った。
「はっ!」
ドランが振り返る。
「全軍、帰還――!」
カァン。
鐘が鳴った。
全員が止まった。
ミーナが、
ゆっくり空を見上げた。
「……ああ」
グレンの顔が引きつる。
「まさか」
カァン。
二回目。
グレンは東門を見る。
ヴァルハラ兵。
五千人。
全員。
リスタの入街線を、
越えていた。
ぽん。
ぽん。
ぽん。
ぽん。
ぽん。
光が、
軍勢の上に次々と浮かび始めた。
一枚。
十枚。
百枚。
千枚。
五千枚。
《ようこそ!》
《はじまりの街リスタへ!》
ドランが剣を抜いた。
「敵襲!」
「違う!」
グレンが叫んだ。
「それは攻撃ではない!」
「では何です!」
「俺も昨日同じことを言った!」
五千人の兵士たちがざわつく。
《初めてリスタを訪れた方へ!》
《冒険の基本を覚えましょう!》
ドランが文字を見る。
「隊長」
「なんだ」
「我々を」
「ああ」
「初心者扱いしています」
「ああ」
「焼き払ってよろしいでしょうか」
「術式をか?」
「街を」
「やめろ!」
ミーナが叫ぶ。
「短気な人多すぎません!?」
グレンは五千人を見た。
「この中に、以前リスタへ来たことがある者!」
誰も手を挙げない。
「一人も!?」
後ろの方から声が上がった。
「隊長!」
「いたか!」
「私はリスタ産の干し肉なら食べたことがあります!」
「来訪歴を聞いている!」
「ありません!」
「黙っていろ!」
最悪だった。
五千人。
全員。
初回来訪。
グレンはミーナを見る。
ミーナもグレンを見る。
「……全員ですね」
「ああ」
五千人分の案内板が、
同時に次の文字へ切り替わった。
《まずは武器を装備してみましょう!》
軍勢全体が、
沈黙した。
すでに装備している。
全員。
完全武装。
ぱああああああっ。
五千人分の光が、
一斉に輝いた。
《すごい! できました!》
五千人から、
殺気が立ち上った。
ミーナが一歩下がる。
「褒め方が悪い」
グレンが頷く。
「俺もそう思う」
――――
そこからは、
奇妙な行軍になった。
《道具屋へ行ってみましょう!》
五千人が道具屋へ向かう。
「入るな!」
グレンが止めた。
「店が潰れる!」
《宿屋へ行ってみましょう!》
五千人が宿屋へ向かう。
「泊まるな!」
「しかし隊長、案内が」
「五千人で泊まったら町が朝になる前に潰れる!」
《冒険者ギルドへ行ってみましょう!》
五千人が向きを変える。
リスタの住民たちは、
道端に立って眺めていた。
一人の子供が呟く。
「行列だ」
母親が答える。
「見ちゃ駄目よ」
「なんで?」
「すごく偉い人たちらしいから」
「みんな黄色い矢印ついてるよ?」
母親は答えられなかった。
五千人の精鋭。
頭上。
黄色い矢印。
軍事行動というより、
巨大な修学旅行だった。
「右列、詰めろ!」
ドランが叫ぶ。
「前との間隔を空けるな!」
ミーナが目を丸くする。
「チュートリアルを軍隊式に攻略し始めた……」
「早く終わらせたいだけだ」
「RTAみたいになってきましたね」
「何だそれは」
「最短攻略です」
「最初からそう言え」
五千人は恐ろしく効率的だった。
道具屋。
一人ずつ話しかける。
「薬草一枚!」
「次!」
「薬草一枚!」
「次!」
老婆が、
ものすごい勢いで薬草を渡す。
百人。
二百人。
三百人。
やがて。
籠が空になった。
老婆が言った。
「売り切れ」
軍隊が止まった。
《薬草を一つ買ってみましょう!》
四千七百人近くの案内が、
そこで止まった。
グレンが頭を抱えた。
「また薬草か!」
ミーナも頭を抱えた。
「昨日買い占めたばかりなのに!」
ドランが尋ねる。
「隊長」
「なんだ」
「補給隊に薬草があります」
「駄目だ」
「なぜ」
「この店で買わないと進まん」
「同じ薬草ですが」
「俺も同じことを言った!」
グレンには、
昨日の自分が見えた。
成長とは、
過去の自分を他人の中に見ることなのかもしれない。
たぶん違う。
――――
結局。
ポポル町長の判断で、
町内の各商店から薬草をかき集めた。
薬草。
薬草。
薬草。
昨日、
ヴァルハラ価格を聞いて町民が抱え込んだ分まで、
「国家非常事態だから」
という理由で一時供出された。
町民は不満そうだった。
「これ一枚二千四百で売れるんだけど」
「八ゴールドで返すから!」
「差額は?」
「今それ言わないで!」
そして。
夕方。
ようやく五千人の道具屋案内が終わった。
グレンが思った。
魔王軍との会戦より時間がかかっている。
だが。
本当の地獄は、
その後だった。
冒険者ギルド前。
五千人の前に、
同じ案内が浮かぶ。
《討伐依頼に挑戦してみましょう!》
《おすすめクエスト》
《スライムを5匹倒そう!》
全員が黙った。
グレンも黙った。
ミーナも黙った。
ドランだけが状況を知らない。
「隊長」
「なんだ」
「簡単では?」
グレンが振り返る。
「何が」
「スライム五匹です」
「そうだな」
「五千人おります」
「ああ」
「一人五匹でも」
ドランが計算を始めた。
途中で止まった。
「……二万五千?」
「気づいたか」
「リスタ周辺に?」
「いない」
「増援を」
「何の増援だ」
「スライムを」
「敵を増援するな!」
五千人の兵士が、
一斉に草原を見る。
ぷるん。
一匹。
いた。
その瞬間。
五千人の視線が、
一匹へ集中した。
スライムが止まる。
ぷる。
ゆっくり後ろへ下がる。
五千人。
一歩。
スライム。
一跳ね。
五千人。
一歩。
スライムは、
逃げた。
「追え!」
誰かが叫んだ。
「追うなあああああ!!」
ミーナの絶叫が、
草原に響いた。
――――
「初心者優先です!」
ミーナが草原の中央に立った。
「聞いてください!」
ヴァルハラ兵五千人が、
ミーナを見る。
怖い。
ものすごく怖い。
だが。
ここで引けば、
リスタ周辺のスライムが絶滅する。
「この草原は、もともと初心者冒険者の訓練場所です!」
ざわ。
「皆さんが全部倒したら、明日から新人さんが何と戦うんですか!」
兵士たちが顔を見合わせる。
言われてみれば、
その通りだった。
グレンも前へ出る。
「全員、聞け!」
一瞬で静かになる。
「初心者の獲物を奪うな!」
「はっ!」
五千人が同時に返事をした。
新人冒険者たちが、
遠くからその光景を見ていた。
昨日まで。
スライムを倒すだけで必死だった。
今日。
レベル六十や七十の兵士たちが、
自分たちにスライムを譲っている。
世界は急におかしくなった。
その時。
草むらから、
三匹のスライムが出てきた。
新人冒険者が剣を抜く。
同時に。
ヴァルハラ兵の一人も、
反射的に剣へ手を伸ばした。
グレンが睨む。
兵士は、
そっと手を離した。
「……どうぞ」
新人が戸惑う。
「いいんですか?」
「ああ」
「でも、そっちも依頼が」
兵士は空を見た。
「俺は待つ」
「いつまで?」
兵士は答えなかった。
二万五千匹。
遠い。
あまりにも遠い。
――――
問題は、
それだけではなかった。
夕方。
草原の一角。
スライムが一匹出てきた。
「出たぞ!」
ヴァルハラ兵が集まる。
「並べ!」
グレンが命令した。
「初心者の邪魔をしない場所だけ使う!」
兵士たちは、
一列になった。
百人。
二百人。
さらに続く。
先頭の兵士が剣を抜く。
ぷるん。
一撃。
《スライム 1/5》
「次!」
二番目。
だが。
スライムはいない。
全員で待つ。
一分。
二分。
三分。
五分。
ぷるん。
出た。
二番目が倒す。
《スライム 1/5》
「次!」
三番目。
待つ。
ぷるん。
倒す。
そして。
列の最後尾。
五千人目。
彼は、
先頭が見えなかった。
「あとどのくらいです?」
前の兵士が答えた。
「分からん」
「今日中に順番来ます?」
「一回目すら怪しい」
五千人目は、
空を見上げた。
魔王軍と戦うために鍛えてきた。
竜と戦う覚悟もある。
死ぬ覚悟もある。
しかし。
スライム一匹の順番待ちをする覚悟は、
なかった。
ミーナがその列を見た。
「完全にリポップ待ちですね」
グレンが聞く。
「何待ちだ」
「次に出てくるの待ちです」
「最初からそう言え」
「でもこれ、かなりまずいですよ」
「分かっている」
「違います」
ミーナは、
少し離れた場所を指さした。
そこにも列。
さらに向こうにも。
列。
ヴァルハラ兵たちは、
草原中のスライム出現場所を探し出し、
それぞれ順番待ちを始めていた。
高レベル集団による、
初心者狩場の完全占有。
ミーナが言った。
「これ、私が一番嫌いなやつです」
「何がだ」
「初心者が来た時、狩る敵が一匹もいないやつです」
ちょうど。
レベル一の少年が、
木の棒を持ってやってきた。
《スライムを5匹倒そう!》
周囲を見る。
右。
ヴァルハラ兵の列。
左。
ヴァルハラ兵の列。
前。
ヴァルハラ兵。
少年は、
そっと木の棒をしまった。
「明日にしよう……」
ミーナの眉が動いた。
「駄目です」
グレンが尋ねる。
「何が」
「今の」
「ああ」
「この街では、あの子のためにスライムがいるんです」
グレンは少年を見る。
そして。
五千人の兵士を見る。
目的が逆転している。
救出部隊が、
初心者の冒険を邪魔している。
「全軍!」
グレンの声が響いた。
「スライムから離れろ!」
兵士たちが振り返る。
「しかし隊長!」
「依頼は!」
「チュートリアルが進みません!」
グレンは叫んだ。
「初心者のための仕組みで、初心者を締め出してどうする!」
全員が黙った。
ミーナがグレンを見る。
少し驚いた。
昨日なら、
グレン自身も効率だけを考えていただろう。
けれど。
薬草採取で、
レベル一の少年へ一本を譲った。
初心者狩場を高レベルが占有する光景も見た。
ほんの少しだけ。
この街が何を守ろうとしているのか、
分かり始めていた。
「……隊長」
ドランが尋ねる。
「では我々はどうすれば」
グレンがミーナを見る。
「ミーナ殿」
「はい」
「他の方法はないのか」
「他?」
「この案内だ」
グレンは文字を指す。
《おすすめクエスト》
《スライムを5匹倒そう!》
ミーナが、
じっと見る。
一秒。
二秒。
三秒。
「あ」
グレンが嫌な予感を覚えた。
「何だ」
ミーナが文字を指す。
「これ」
「うむ」
「《おすすめ》ですよね」
「そうだな」
「《必須》じゃない」
沈黙。
グレンが固まった。
ドランも固まった。
五千人の兵士たちも、
順番に固まっていく。
ミーナは冒険者ギルドへ走った。
数分後。
一枚の依頼板を抱えて戻ってくる。
「ありました!」
「何が!」
「別の初心者用討伐訓練!」
紙を広げる。
《はじめての戦闘訓練!》
《訓練場の木人に攻撃を3回当てよう!》
グレンが文字を見る。
「…………」
ドランも見る。
「…………」
五千人の兵士も見る。
草原。
五千人。
何時間も、
スライムの順番待ち。
その必要。
なかった。
グレンが、
ゆっくりミーナを見る。
「なぜ」
「はい」
「最初に気づかなかった」
ミーナは胸を張った。
「おすすめされたので」
「お前が一番チュートリアルに従順ではないか!!」
グレンの絶叫が、
草原に響いた。
――――
夕方。
リスタ訓練場。
木人。
十二体。
その前。
ヴァルハラ兵。
五千人。
《木人に攻撃を3回当てよう!》
ドランが木人を見る。
「隊長」
「なんだ」
「三回でいいのですね」
「ああ」
「普通に?」
「普通にだ」
「壊しては」
「駄目だ」
「必殺技は」
「使うな」
「魔法は」
「使うな」
「では剣で」
「軽く三回だ」
ドランは頷く。
木剣を借りる。
構える。
一撃。
ぱし。
二撃。
ぱし。
三撃。
ぱし。
《訓練成功!》
ドランの表情が明るくなる。
「終わった!」
後ろから声がする。
「次、どうぞ」
ドランが振り返った。
列。
列。
列。
門の外まで続いている。
五千人。
木人。
十二体。
一人。
三回。
ドランの顔から、
喜びが消えた。
「……隊長」
「なんだ」
「何時間かかります?」
グレンは答えなかった。
ミーナが木人を数える。
十二体。
兵士。
五千人。
そのうち一人が、
すでに構えながら尋ねた。
「同時に殴れば早いのでは?」
ミーナが青ざめた。
「待って」
十二人が、
それぞれ木人の前へ立つ。
「せーの!」
「待ってください!」
ヴァルハラ精鋭十二名。
初心者訓練用木人十二体。
ぱし。
一発。
ぱし。
二発。
そして。
三発目。
兵士の一人が、
少しだけ力加減を間違えた。
ドゴォォォン!!
木人が、
空へ飛んだ。
全員が見上げる。
木人は回転しながら、
町の城壁を越えていった。
沈黙。
兵士が、
ゆっくり手を下ろした。
「…………」
ミーナが言った。
「今の」
「はい」
「初心者向け訓練場でやる火力じゃありません」
兵士は頭を下げた。
《対象がありません》
彼の案内板に、
文字が浮かぶ。
《木人に攻撃を3回当てよう!》
進行度。
《2/3》
兵士の顔が、
絶望に変わった。
「……あと一回」
木人は、
もうない。
ミーナが呟いた。
「こういう時に限って途中までカウントされてる……」
グレンが空を見上げた。
遠く。
飛ばされた木人が、
小さな点になっていた。
救出部隊五千人。
スライム二万五千匹問題。
回避。
新たな問題。
初心者訓練場。
木人。
残り十一体。
そして。
ヴァルハラ精鋭五千人は、
まだ誰も、
リスタから帰れていなかった。




