表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボス前の街が、はじまりの街に宣戦布告した結果――レベル93の将軍が木の棒でスライムと戦う羽目になった  作者: 出水克幸
戦争・チュートリアル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/19

攻略記録その6 レベル78、薬草三枚を集める

《最初のクエストをクリアしてみよう!》


《薬草を三枚集めよう!》


《報酬 15G》


グレンは腰袋から薬草を三枚取り出した。


昨日、道具屋で買ったものだ。


「ある」


《自分で採取した薬草を納品してください》


「…………」


もう三枚出した。


「六枚ある」


《自分で採取した薬草を納品してください》


十枚。


「十枚」


《自分で採取した薬草を納品してください》


二十枚。


「二十枚だ」


《自分で採取した薬草を納品してください》


グレンは薬草を袋へ戻した。


「数の問題ではないらしい」


「最初からそう書いてあります」


ミーナが言った。


「自分で採取した薬草です」


「同じ薬草だろう」


「同じです」


「性能も?」


「同じです」


「回復量も?」


「同じです」


「ではなぜ駄目なんだ」


ミーナは少し考えた。


そして言った。


「クエスト受注前に手に入れたからじゃないですか?」


グレンが眉を寄せる。


「何が違う」


「フラグが立ってません」


「……フラグ?」


「今のなしで」


ミーナは目を逸らした。


グレンは気にしないことにした。


この街に来てから、


気にしてはいけない言葉が増えている。


「つまり」


グレンは整理した。


「昨日買った九十九枚は使えない」


「はい」


「今日、自分で三枚取ってくる」


「はい」


「報酬十五ゴールド」


「はい」


「俺の一時間当たりの軍務手当より安い」


「初心者クエストに経済合理性を求めないでください」


「では、どこに生えている」


ミーナが外を指した。


「本来なら、その辺です」


二人が見る。


道端。


空。


花壇。


空。


町外れ。


空。


昨日まで雑草のように生えていた薬草だけが、


見事に消えていた。


理由はもちろん、


ヴァルハラでは一枚二千四百ゴールドで売れると町中に知られてしまったからである。


グレンが言った。


「ないな」


「ないですね」


「どうする」


ミーナは答えた。


「町の外へ行きましょう」


ぽん。


《薬草が採れる場所へ行ってみよう!》


黄色い矢印が、


東門を指した。


グレンの部下の一人が呟く。


「親切ですね」


グレンは答えた。


「昨日までは、俺もそう思っていた」


今は違う。


親切すぎるものは、


時として逃げ道を塞ぐ。


――――


五人のヴァルハラ精鋭兵が、


草原を歩いていた。


先頭。


レベル七十八。


竜討伐経験四回。


大剣使い。


グレン。


その後ろ。


レベル六十九。


重装兵。


さらに、


レベル六十七。


槍兵。


レベル六十四。


斧戦士。


レベル六十三。


剣士。


最後尾。


レベル三。


冒険者ギルド受付主任。


ミーナ。


そして全員の頭上。


《薬草 0/3》


浮いていた。


道ですれ違った新人冒険者が、


二度見した。


「あの人たち……」


「見るな」


「でもレベル高そうなのに薬草採ってる」


「事情があるんだろ」


「何の?」


「聞くな」


優しさが痛かった。


グレンが歩きながら尋ねる。


「ミーナ殿」


「はい」


「この依頼は誰でも受けるのか」


「新人さんなら、だいたい一度は」


「何のために」


「採取を覚えてもらうためですね。薬草の見分け方とか」


「なるほど」


そこは理解できる。


新人教育としてなら合理的だ。


「昔は、間違えて毒草を持って帰ってくる人もいましたから」


「それは危険だな」


「食べて確認した人もいました」


「なぜ食べた」


「初心者なので」


便利な言葉だった。


何でも説明できる。


「だから最初の依頼で、安全な薬草の見分け方を覚えてもらうんです」


グレンは頷いた。


「悪くない制度だ」


「でしょう?」


初めて、


リスタの初心者制度に素直な評価が出た。


その直後。


黄色い矢印が急に右を向いた。


グレンも右へ曲がる。


矢印が左を向く。


左へ。


また右。


「……何だ?」


ミーナが草むらを見る。


「あ」


小さな光が瞬いていた。


草の間。


薬草が一本だけ、


きらきら光っている。


グレンが眉を寄せた。


「昨日、この辺りを通った」


「はい」


「こんな光はなかった」


「クエスト受けてなかったからでしょうね」


「何がだ」


「見えるようになるフラ――」


ミーナは止まった。


「……仕様です」


「今、言い直したな」


「仕様です」


押し切った。


グレンは薬草へ近づいた。


普通の薬草だ。


昨日買ったものと、


何も違わない。


摘む。


ぽん。


《薬草を採取しました!》


《薬草 1/3》


グレンは手に持った薬草を見る。


「…………」


「一個進みましたね」


「俺の九十九枚と何が違う」


「今拾ったという事実です」


「薬効ではなく?」


「進行度の問題です」


「何が進んでいるんだ」


「クエストです」


グレンは黙った。


世界には、


強さでは解決できない問題がある。


今日、


その種類が一つ増えた。


――――


二本目はすぐに見つかった。


《薬草 2/3》


三本目も、


少し歩いたところに生えていた。


「これで終わりだ」


グレンが摘む。


《薬草 3/3》


ぱぱーん。


《必要な薬草が集まりました!》


《冒険者ギルドへ戻りましょう!》


グレンが天を仰いだ。


「終わった」


「まだ納品があります」


「知っている」


だが。


その横で、


部下四人が動かなかった。


グレンが振り返る。


「どうした」


重装兵が、


自分の頭上を指した。


《薬草 0/3》


槍兵。


《薬草 0/3》


斧戦士。


《薬草 0/3》


剣士。


《薬草 0/3》


五人。


沈黙。


グレンがミーナを見る。


「……なぜだ」


「個別受注だからじゃないですか?」


「同じ隊だぞ」


「同じ隊でも、クエストは五人分です」


「俺が三枚集めた」


「グレンさんの分ですね」


「部下も一緒にいた」


「いましたね」


「見ていた」


「見てましたね」


「なぜ数えない」


ミーナは一言で答えた。


「採取したの、グレンさんなので」


グレンの部下四人が、


一斉に草原を見た。


必要数。


十二枚。


「隊長」


「言うな」


「あと十二枚です」


「分かっている」


《薬草が採れる場所を探してみよう!》


四人の頭上に、


黄色い矢印が現れた。


グレンは目を閉じた。


「……部隊行動とは何だったのだ」


ミーナが小さく呟いた。


「共有設定じゃないんですね」


「何を共有する」


「今のなしで」


――――


問題は、


ここからだった。


薬草が、


ない。


「おかしいですね」


ミーナが辺りを見る。


「初心者草原なので、もっとあるはずなんですけど」


グレンは原因を知っていた。


昨日。


ヴァルハラ価格を聞いたリスタ住民が、


薬草という薬草を引き抜いた。


その影響は、


町の中だけではなかった。


草原にも来ていた。


遠く。


農家の男が、


大きな袋を背負って走っている。


「まだあったぞー!」


別方向。


商人。


「そっちも抜けー!」


主婦。


「根ごと持って帰れば増やせる!」


ミーナの顔が引きつった。


「町の外まで来てる……!」


グレンが腕を組む。


「行動が早いな」


「感心しないでください! 初心者クエストの資源ですよ!」


「あの者たちはクエスト中ではないのか」


「金策中です!」


「金策?」


「……お金稼ぎです」


また一つ、


ミーナの口から妙な言葉が出た。


その時。


少し離れた場所で、


きらり。


薬草が光った。


「あった!」


斧戦士が駆ける。


その反対側から、


少年冒険者も走ってきた。


レベル一。


木の棒。


布の服。


頭上。


《薬草 2/3》


斧戦士、


レベル六十四。


少年、


レベル一。


二人の視線が、


一本の薬草で交差した。


「…………」


「…………」


斧戦士が止まった。


少年も止まった。


斧戦士が言う。


「取れ」


「いいんですか?」


「ああ」


「でも、おじさんもクエスト中ですよね」


斧戦士の額に青筋が浮いた。


「誰がおじさんだ」


三十二歳だった。


「す、すみません!」


「……取れ」


少年が薬草を摘む。


ぱぱーん。


《薬草 3/3》


「やった!」


少年は嬉しそうに町へ走っていった。


斧戦士は無言で見送った。


ミーナが微笑む。


「優しいですね」


「俺が取ったら」


「はい」


「初心者の薬草を横から奪うレベル六十四になる」


「初心者エリアで一番嫌われるタイプですね」


斧戦士が振り返る。


「そんな分類があるのか」


「あります」


即答だった。


――――


その後。


五人は、


ある一か所にたどり着いた。


小さな岩。


一本の木。


その根元。


きらきら光る薬草。


「あるぞ」


重装兵が摘む。


《薬草 1/3》


少しすると。


同じ場所に、


また薬草が生えた。


「…………」


全員が見る。


重装兵が摘む。


《薬草 2/3》


待つ。


また生える。


《薬草 3/3》


グレンの目が細くなった。


「なるほど」


ミーナが嫌な予感を覚えた。


「何がです?」


「ここにいればいい」


「…………」


「定期的に生える」


「…………」


「全員分揃うまで待つ」


グレンたちは、


木の周囲に陣取った。


五分。


薬草。


一枚。


五分。


一枚。


五分。


一枚。


巨大な武器を持った精鋭兵四人が、


薬草一本の出現を、


無言で待つ。


ミーナはその光景を見た。


「あー……」


「何だ」


「これ、完全に初心者の採取場所を高レベルが占拠してる図ですね」


「必要だからやっている」


「理由まで典型的です」


「何がだ」


「いえ」


そこへ。


三人組の新人冒険者がやってきた。


全員、


頭上に《薬草 0/3》。


グレンたちを見る。


止まる。


回れ右。


「待て!」


グレンが呼び止める。


三人が震えながら振り返った。


「は、はい!」


「なぜ帰る」


「いや……」


少年が言いにくそうに答えた。


「ここ、使ってるみたいなので」


グレンは自分たちを見る。


黒鎧五人。


巨大武器。


薬草出現地点を完全包囲。


確かに。


初心者が近づける雰囲気ではない。


「…………」


グレンは立ち上がった。


「撤収する」


部下が驚く。


「しかし、まだ八枚――」


「初心者の依頼を奪ってまで達成する任務ではない」


「ではどうします」


グレンが草原を見る。


「探す」


ミーナが少しだけ感心した。


ヴァルハラの兵士は、


恐ろしい。


だが、


弱い者から資源を奪うほど落ちてはいないらしい。


「それがいいです」


ミーナは頷いた。


そして小声で付け加えた。


「初心者狩場のマナーは大事ですから」


「何のマナーだ」


「気にしないでください」


――――


結局。


十二枚集めるのに、


昼までかかった。


魔王軍の砦なら、


もっと早く落とせる。


グレンは本気でそう思った。


五人は冒険者ギルドへ戻る。


受付には、


昨日から案内役をしているミーナが回り込み、


いつもの制服姿で座った。


グレンが尋ねる。


「なぜお前が受付側にいる」


「勤務中なので」


「さっきまで草原にいた」


「受付主任ですから」


「人手不足なのか?」


「初心者の街を舐めないでください。いつも人手不足です」


妙に現実的だった。


五人が、


三枚ずつ薬草を出す。


「依頼品だ」


ミーナが確認する。


「はい。確かに」


ぱあっ。


《クエスト達成!》


《薬草を三枚集めよう!》


《報酬 15G》


ちゃりん。


グレンは、


十五ゴールドを受け取った。


「…………」


朝から半日。


薬草探索。


採取場所の譲り合い。


十二枚追加。


報酬。


十五ゴールド。


部下が言った。


「隊長」


「何だ」


「赤字ですね」


「言うな」


ぱぱぱぱーん。


《経験値を3獲得しました!》


グレンが止まった。


「…………三?」


《経験値を3獲得しました!》


「俺の次のレベルまで、あと八十四万以上必要なのだが」


ミーナが笑顔で答える。


「千里の道も一歩からです」


「二十八万回以上必要だぞ!」


ギルド中に、


グレンの声が響いた。


新人冒険者たちが驚いて振り返る。


グレンは十五ゴールドを握り締め、


深呼吸した。


「よし」


「落ち着きました?」


「ああ」


「では」


ミーナが笑顔を作った。


「初クエスト達成、おめでとうございます!」


ぱあっ。


《初めての依頼を達成しました!》


《次は討伐依頼に挑戦してみましょう!》


グレンの顔から笑みが消えた。


《おすすめクエスト》


《スライムを5匹倒そう!》


五人が黙った。


ミーナも黙った。


そして。


全員が窓の外を見る。


草原。


先ほどまで、


何匹かいたスライム。


いない。


グレンたち五人が近づくたび、


すべて逃げていたからである。


「…………」


「…………」


グレンが聞いた。


「ミーナ殿」


「はい」


「スライムは」


「臆病です」


「俺たちを見ると?」


「逃げます」


「討伐数は?」


「五匹です」


グレンは目を閉じた。


ミーナが呟く。


「レベル差がありすぎて、敵に相手してもらえないパターンですね」


グレンが目を開ける。


「それは初心者より情けなくないか?」


ミーナは答えなかった。


その時だった。


ギルドの扉が開いた。


「グレン隊長!」


黒い制服の男が飛び込んでくる。


ヴァルハラ兵だった。


グレンが立ち上がる。


「貴様、なぜここに」


「ガルド市長からの緊急伝令です!」


男は息を整えた。


その頭上には、


黄色い矢印が――


ない。


グレンが気づいた。


「待て」


「はい?」


「貴様、なぜ初回案内が出ていない」


「ああ」


伝令兵は首を傾げた。


「十年前、駆け出しの頃に一度リスタへ来たことがありますので」


全員が止まった。


ミーナの目が細くなる。


「……なるほど」


「何がだ」


「初回来訪判定」


ミーナは伝令兵を見る。


「ちゃんと個人ごとの来訪履歴を見てるんですね」


グレンは知らなかった。


そんなことより重要なことがある。


「伝令。市長は何と」


「はっ!」


伝令兵は姿勢を正した。


「予定時刻を過ぎても隊長たちが帰還せず、連絡もないため――」


グレンの顔が引きつる。


「まさか」


「ガルド市長は」


一呼吸。


「リスタ側に拘束された可能性あり、と判断されました」


ミーナが言った。


「拘束はしてません」


グレンが頭上の案内板を見る。


《スライムを5匹倒そう!》


グレンは言った。


「いや」


「え?」


「ある意味、されている」


伝令兵が困惑する。


「何にです?」


グレンは答えなかった。


伝令兵が続ける。


「なお、市長は救出部隊の編成を開始しています」


「規模は」


「五千」


グレンの顔から、


血の気が引いた。


ミーナも固まった。


五千人。


そして。


その全員が、


リスタ初来訪だった場合。


ミーナは東門の方角を見る。


それから、


現在グレンの頭上に浮かんでいる案内を見る。


《スライムを5匹倒そう!》


「…………」


グレンが恐る恐る聞いた。


「ミーナ殿」


「はい」


「五千人来たら」


ミーナは計算した。


一人。


スライム五匹。


五千人。


「二万五千匹ですね」


沈黙。


リスタ周辺に、


そんな数のスライムはいない。


ミーナは額を押さえた。


「完全にクエスト設計ミスです」


「設計した時に敵軍五千人が来ることを想定する奴はいない!」


ヴァルハラ防衛隊長グレン。


レベル七十八。


初クエスト達成。


報酬十五ゴールド。


経験値三。


そして新たに判明した事実。


このままでは明日、


世界最強クラスの軍隊五千人が、


初心者用スライムの取り合いを始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ