攻略記録その22 ラスボスに、お茶を出されました
「……誰だ?」
魔王が言った。
「こっちが聞きたいです」
ミーナが答えた。
魔王城。
最深部。
巨大な玉座。
黒い炎。
禍々しい柱。
床には赤黒い魔法陣。
どう考えても。
最後に来る場所だった。
そこへ。
レベル7前後の元初心者三十四人。
グレン。
ミーナ。
全員。
突然転送された。
《緊急退避完了》
《安全判定》
《敵対イベント未開始》
原因。
これ。
ミーナが表示を指さす。
「私たち」
「うむ」
「本来ここへ来る時期じゃないんです」
魔王。
「見れば分かる」
三十四人。
木剣。
革鎧。
布袋。
一人。
パンを持っている。
魔王。
「なぜパンを」
「昼ご飯です」
「そうか」
魔王城最深部で。
普通の会話が始まった。
――――
グレンが。
剣を抜く。
「魔王!」
空気。
張り詰める。
「ここで会った以上――」
《現在、戦闘イベントは発生しません》
グレン。
「……」
魔王。
「……」
もう一度。
グレン。
剣を構える。
「覚悟!」
《現在、戦闘イベントは発生しません》
「戦わせろ!」
ミーナ。
「レベル7が三十四人いるから戦わせないで!」
グレン。
「俺がいる!」
「あなた一人でラスボス始めないでください!」
魔王。
玉座から立つ。
三十四人。
一斉に。
身構える。
魔王。
歩く。
グレン。
構える。
魔王。
横を通る。
扉。
開ける。
「客間を用意させよう」
沈黙。
「……客間?」
少年。
聞く。
魔王。
「客なのだろう?」
ミーナ。
「たぶん不法侵入です」
「では牢へ?」
「客間でお願いします!」
判断。
速かった。
――――
魔王城。
客間。
三十四人。
椅子。
座る。
テーブル。
お茶。
菓子。
魔族の給仕。
「どうぞ」
少年。
「ありがとうございます」
魔族。
「砂糖は?」
「二つ」
「承知しました」
ミーナ。
頭を抱える。
「何でこんな普通なの……」
グレン。
警戒。
「毒かもしれん」
少年。
カップ。
止める。
魔族。
「毒耐性をお持ちで?」
「レベル7です」
「では入れておりません」
「普段は入れるんですか!?」
魔族。
「敵には」
「正直!」
少年。
恐る恐る。
飲む。
「おいしい」
《初めて魔王城のお茶を飲みました》
ミーナ。
「あ」
《図鑑に登録されました》
「今それいる!?」
《魔王城名産・黒月茶》
少年。
「名産あるんだ」
魔王。
「ある」
「売ってるんですか?」
「一階売店で」
ミーナ。
「売店あるの!?」
――――
「しかし」
魔王。
三十四人を見る。
「貴様らは何者だ」
少年。
「冒険者です」
「見えん」
「今日ヴァルハラに着きました」
「なぜその日にここへ?」
「安全な場所へ逃がされました」
魔王。
黙る。
「ここが?」
「はい」
「安全?」
「敵対イベントが始まってないので」
魔王。
長い沈黙。
「……我が城だぞ」
「私もそう思います」
ミーナ。
全力で同意。
――――
魔王。
側近を見る。
「確認せよ」
「はっ」
側近。
巨大な水晶。
触れる。
《魔王決戦進行状況》
《勇者一行》
《未到達》
《四天王》
《三名生存》
《封印の神器》
《2/7》
《王都決戦》
《未発生》
《魔王城正門》
《未開放》
《最終決戦》
《開始条件未達成》
魔王。
三十四人を見る。
「何一つ終わっておらん」
少年。
「すみません」
「なぜ貴様が謝る」
「早く来すぎたので」
「早いにもほどがある」
魔王に。
進行度を怒られた。
――――
「じゃあ」
少女が手を挙げる。
「私たち、帰れますか?」
魔王。
「帰ればよい」
「出口どこですか?」
側近。
「正門」
「正門?」
「一階」
「ここ何階ですか?」
「地下十八階相当」
三十四人。
黙る。
「転移門は?」
側近。
「勇者一行が最終決戦到達時に開放される」
「未到達です」
「うむ」
「エレベーター」
「ない」
「階段?」
「ある」
少年。
「敵は?」
側近。
「いる」
「レベルは?」
「最低で76」
三十四人。
一斉に。
「無理!」
魔王。
「ではここにいろ」
「ラスボスに保護された!」
――――
暇。
だった。
三十四人。
魔王城最深部。
敵対イベント。
なし。
戦闘。
なし。
帰れない。
午後。
少年。
立つ。
「探検していいですか?」
ミーナ。
「ダメ」
「この部屋だけ?」
「はい」
「暇です」
「我慢してください」
別の少年。
「トイレ」
ミーナ。
「それは行っていい」
魔族。
「廊下右、三つ目」
「ありがとうございます」
一分後。
少年。
戻る。
「宝箱ありました」
ミーナ。
「触った?」
「まだ」
「偉い!」
「開けていいですか?」
「ダメ!」
魔王。
「別に構わんぞ」
ミーナ。
「あなたが許可するんですか!?」
「我が城だ」
「それはそう!」
――――
廊下。
宝箱。
豪華。
金。
黒。
角。
少年。
目。
輝く。
「開けます」
ミーナ。
「待って」
魔王。
「開けよ」
グレン。
「罠の可能性が」
側近。
「あれはない」
「分かるんですか?」
「城の備品だからな」
少年。
蓋。
開ける。
《終焉の霊薬を入手しました》
グレン。
止まる。
「……何?」
側近。
止まる。
「……何?」
魔王。
立つ。
「……何?」
ミーナ。
「何ですかそれ」
グレン。
「死亡した者を一度だけ即座に完全蘇生する最高級薬だ」
少年。
瓶。
見る。
「売ったら?」
側近。
「二百万Gほど」
少年。
手。
震える。
「返します!」
魔王。
「待て」
「はい」
「なぜそこにある」
側近。
青ざめる。
「本来は」
「うむ」
「勇者一行が最終決戦直前に取得する救済用の宝箱です」
沈黙。
ミーナ。
「先に取っちゃった」
側近。
「取られました」
魔王。
「勇者が来た時は?」
側近。
「空です」
魔王。
「戻せ」
少年。
戻す。
《一度取得した宝箱へアイテムを戻すことはできません》
「戻せない!」
少年。
「ごめんなさい!」
勇者。
まだ。
来ていない。
最終決戦用蘇生薬。
初心者。
取得済み。
――――
「他の宝箱」
魔王。
側近へ言う。
「全部確認しろ」
側近。
「はっ!」
遅かった。
「こっちにもあります!」
少女。
「開けないで!」
ぱか。
《魔王耐性の護符を入手しました》
魔王。
「……」
側近。
「……」
少女。
「返します!」
《戻せません》
ミーナ。
「だから開けるなって!」
別。
「これは?」
「触るな!」
《勇者の最終装備を入手しました》
「誰!?」
少年。
「僕です」
「何で!」
「箱じゃなくて壁に立てかけてあったので」
「もっと悪い!」
勇者。
まだ。
神器。
二つ。
初心者。
最終装備。
一つ。
取得。
進行順。
崩壊。
――――
魔王。
玉座。
頭を抱える。
「勇者が来た時どうする」
ミーナ。
「同じ物もう一個用意できません?」
側近。
「伝説級です」
「コピー」
「できません」
「店」
「売ってません」
少年。
「貸します?」
魔王。
「勇者に?」
「はい」
「貴様から?」
「はい」
魔王。
「屈辱だな」
「敵なのにそこ気にするんですね」
――――
さらに。
探索。
禁止になった。
《魔王城内探索禁止》
張り紙。
十分後。
少年。
「ミーナさん」
「何です?」
「この扉」
「触らない」
「何もしてません」
「偉い」
「でも」
「はい」
「開いてます」
扉。
少し。
開いている。
「見ない」
「でも光ってます」
「見ない!」
少女。
横から。
覗く。
「あ、玉」
側近。
「待て!」
遅い。
《イベントアイテムを発見しました》
《闇の核》
魔王。
立ち上がる。
「それは触るな!」
全員。
止まる。
「何ですか?」
魔王。
「我の第二形態移行用だ」
沈黙。
ミーナ。
「そんなの廊下に置かないで!」
「本来ここまで来られん!」
「それはそう!」
――――
少年。
闇の核。
見る。
《調べますか?》
「調べない」
ミーナ。
「偉い!」
《調べませんでした》
少年。
「わざわざ表示するんですね」
「無視!」
三秒。
別の少年。
《調べますか?》
「はい」
「お前ええええ!」
《闇の核を調べました》
光。
《イベントフラグ》
《闇の核発見》
魔王。
青ざめる。
「まずい」
「何が!?」
城内。
鐘。
ゴオオオオン。
《魔王城隠しルートを開放しました》
「隠しルート!?」
壁。
動く。
秘密通路。
出現。
側近。
「それは!」
ミーナ。
「今度は何!?」
「真エンディング用の――」
「言わなくていい!」
少年。
「真エンディング!」
「聞くな!」
――――
秘密通路。
開いた。
閉じない。
《一度発見した隠し通路は常時表示されます》
魔王。
「閉じろ」
《常時表示されます》
「我の城だぞ!」
《常時表示されます》
魔王。
攻略律に負けた。
ミーナ。
「気持ちは分かります」
今日初めて。
魔王と。
心が通じた。
――――
「誰も入るな」
魔王。
命令。
「絶対だ」
三十四人。
「はい!」
十分。
持った。
問題。
魔族。
一人。
秘密通路から出てきた。
三十四人。
見る。
魔族。
止まる。
「……誰?」
少年。
「初心者です」
「なぜここに?」
「安全な場所へ逃がされました」
「ここが?」
「はい」
「……」
魔族。
側近を見る。
「何が起きてるんです?」
側近。
「我にも分からん」
魔王軍。
情報共有。
崩壊。
――――
夕方。
魔王。
決断。
「貴様らを外へ出す」
ミーナ。
「方法あるんですか!?」
「ある」
「最初から使って!」
「本来」
魔王。
「侵入者を城外へ強制転送する術だ」
ミーナ。
「それでお願いします!」
魔王。
魔法陣。
展開。
《強制排除対象を指定してください》
魔王。
三十四人。
ミーナ。
グレン。
指定。
《対象を確認》
《侵入者判定》
判定中。
《0名》
魔王。
「……」
ミーナ。
「……」
《現在の対象者は》
《客人として登録されています》
魔王。
「誰が登録した」
側近。
「陛下が客間へ」
「……」
ミーナ。
「最初に接待したせいですね」
魔王。
顔。
引きつる。
親切。
裏目。
――――
「客人登録を解除しろ!」
側近。
「解除には受付処理が」
「どこだ」
「一階」
「行けないから困っている!」
ラスボス。
詰んだ。
初心者と一緒に。
――――
「別の方法!」
グレン。
「窓は?」
全員。
見る。
最深部。
地下。
「ない」
「転移魔法」
「敵対者専用」
「敵対すれば?」
ミーナ。
止まる。
「……それ」
全員。
魔王を見る。
魔王。
三十四人を見る。
「我と敵対するか?」
少年。
「嫌です」
「即答」
「レベル7なので」
「賢明だ」
魔王に。
褒められた。
――――
その時。
少年。
玉座の横。
小さな赤い印。
見つける。
「これ何ですか?」
ミーナ。
「触らない!」
側近。
「それは決戦開始位置だ!」
「絶対触らない!」
少年。
手。
引っ込める。
偉い。
別の少女。
足。
踏んでいた。
沈黙。
《指定位置に到達しました》
「足でもダメ!?」
《最終決戦イベントの開始条件を確認します》
魔王。
立つ。
「待て」
《勇者一行》
《未到達》
「そう!」
《神器》
《不足》
「そう!」
《四天王》
《生存》
「そう!」
《開始条件》
《未達成》
全員。
安心。
《代替条件を検索します》
ミーナ。
「検索するな!」
《魔王本人》
《在席》
「いる!」
《挑戦者》
《在席》
「いるけど!」
《戦闘可能エリア》
《有効》
「やめて!」
《簡易決戦モードを開始します》
「簡易って何!?」
玉座。
消える。
客間のテーブル。
消える。
お茶。
消える。
黒い炎。
燃え上がる。
魔王。
黒い光。
包まれる。
《魔王》
《チュートリアル戦》
沈黙。
魔王。
「……チュートリアル?」
ミーナ。
笑いをこらえられない。
「ラスボスなのに!」
《初心者向け補正を適用します》
魔王。
《Lv100》
矢印。
《Lv10》
魔王。
「待て」
グレン。
「下がった」
魔王。
「待て!」
《使用技能を制限します》
《世界滅亡》
《使用不可》
《終焉の炎》
《使用不可》
《絶対消滅》
《使用不可》
《闇の波動》
《使用不可》
《殴る》
《使用可能》
魔王。
技一覧。
《殴る》
一つ。
三十四人。
見る。
魔王。
見る。
ミーナ。
吹き出す。
「殴るだけ!」
「笑うな!」
ラスボス。
初心者向けに。
技を全部没収された。
――――
少年。
木剣。
構える。
「戦うんですか?」
魔王。
「我に聞くな!」
《チュートリアル》
《魔王の攻撃を一度防いでみましょう!》
少年。
「……」
魔王。
「……」
ミーナ。
「お願いします」
魔王。
「なぜ我が初心者指導を」
「メンター制度の経験あります?」
「あるわけなかろう!」
魔王。
拳。
握る。
「行くぞ」
「はい!」
ものすごくゆっくり。
殴る。
少年。
盾。
構える。
ぽこん。
《攻撃を防ぎました!》
《よくできました!》
魔王。
震える。
「我は」
「はい」
「世界を滅ぼす者だぞ」
「今」
ミーナ。
「初心者に『よくできました』って言われる側ですね」
「殺すぞ」
《敵対行動は禁止されています》
「殺せない!」
――――
《次は攻撃してみましょう!》
少年。
木剣。
「すみません」
魔王。
「もう好きにしろ」
少年。
ぺち。
《魔王に3ダメージ!》
《弱点を狙ってみましょう!》
「弱点どこですか?」
魔王。
「教えると思うか?」
《弱点部位を表示します》
魔王の腹。
赤く光る。
「表示するなあああ!」
少年。
「お腹です」
「見るな!」
――――
チュートリアル。
進む。
《回避》
《回復薬》
《仲間への指示》
《状態異常》
魔王。
教材。
一時間。
少年たち。
学ぶ。
魔王。
死んだ目。
《チュートリアルを終了します》
光。
魔王。
Lv100。
戻る。
技能。
戻る。
黒い炎。
戻る。
三十四人。
拍手。
「ありがとうございました!」
魔王。
「二度と来るな」
ミーナ。
「帰れれば来ません!」
――――
そして。
チュートリアル完了。
《報酬を獲得しました》
全員。
「報酬?」
《魔王城帰還石》
ミーナ。
「帰還石!?」
《使用すると》
《最後に登録した安全拠点へ帰還します》
少年。
「使います!」
「待って!」
ミーナ。
「最後に登録した安全拠点ってどこ!?」
三十四人。
確認。
《登録拠点》
《魔王城・最深部》
沈黙。
「意味ない!」
魔王。
とうとう。
笑った。
「帰ってくるではないか」
「笑わないでください!」
少年。
「じゃあどうしたら……」
表示。
続き。
《未登録の拠点へ移動する場合》
《最寄りの登録可能地点を検索します》
ミーナ。
「嫌な予感」
《候補》
《終焉都市ヴァルハラ》
「それ!」
《移動しますか?》
「はい!」
三十四人。
一斉。
押す。
青い光。
魔王。
「待て」
ミーナ。
「何です?」
魔王。
少年が持つ袋。
見る。
「我の蘇生薬」
「あ」
「勇者の最終装備」
「あ」
「魔王耐性の護符」
「あ」
「返せ」
《転移を開始します》
「戻せません!」
光。
三十四人。
ミーナ。
グレン。
消える。
魔王。
玉座。
一人。
静寂。
側近。
「陛下」
「何だ」
「勇者一行が来た際」
「うむ」
「宝箱が三つ空です」
「……」
「弱点も」
「うむ」
「初心者三十四人に知られました」
「……」
「隠しルートも開きました」
「……」
「チュートリアル記録には」
「何だ」
「《魔王戦・経験済み》と」
魔王。
顔。
上げる。
「経験済み?」
「はい」
魔王。
「次に来た時は?」
側近。
表示。
見る。
《経験済みの冒険者は》
《戦闘演出をスキップできます》
沈黙。
魔王。
「……我の演出を?」
「はい」
「スキップ?」
「はい」
魔王城。
最深部。
魔王の絶叫。
「二度と来させるなあああああ!」
その頃。
ヴァルハラ中央広場。
三十四人。
無事。
転移。
少年。
手の中。
勇者の最終装備。
見る。
「ミーナさん」
「何です?」
「これ」
「はい」
「売れば宿に泊まれます?」
ミーナ。
数秒。
考える。
「絶対売らないでください」
ラスボス前の街へ来て。
二日目。
初心者たちは。
まだ自分の装備すら買えないのに。
勇者の最終装備だけ。
持っていた。




