攻略記録その19 初心者のステータス、百人で決めることになりました
「筋力です」
「いや体力だ」
「素早さ」
「魔力」
「運」
「初心者に運を振らせるな!」
朝。
はじまりの街リスタ。
冒険者組合の会議室。
一人の初心者を囲んで。
九十八人の高レベル冒険者が。
本気で揉めていた。
昨日。
攻略律は。
《一人の初心者に》
《複数のメンターを設定可能にしました》
《上限100名》
という。
誰も頼んでいない改善を行った。
結果。
初心者一人。
師匠百人。
そして今日。
最初の問題が発生した。
「……あの」
椅子に座った少年が。
恐る恐る手を挙げる。
「何でしょう!」
九十八人が一斉に振り向く。
「怖い!」
少年が肩を震わせた。
ミーナが机を叩く。
「一人ずつ喋ってください!」
少年。
「昨日、レベルが上がって」
「はい」
「ステータスポイントを五ポイントもらったんです」
九十八人。
目。
輝く。
嫌な光だった。
「まだ振ってない?」
「はい」
「よし」
「理想的だ」
「触るなよ」
「勝手に振るな」
「まず計算する」
少年。
「……僕のですよね?」
誰も答えなかった。
――――
黒板。
《未使用ステータスポイント》
《5》
その下。
メンターたちの提案。
《筋力5》
《体力5》
《素早さ5》
《魔力5》
《筋力3・体力2》
《素早さ3・運2》
《全部1》
《運5》
ミーナが最後を見る。
「運5を消してください」
「なぜ!」
盗賊系冒険者が立つ。
「高クリティカル型は強い!」
「初心者ですよ!」
「序盤こそクリティカルだ!」
「安定しないでしょう!」
「当たれば強い!」
「当たらなかったら?」
「次に期待」
「初心者にギャンブルさせない!」
今度は。
重装騎士。
「体力5」
「理由は?」
「死なない」
「シンプル!」
魔法使い。
「魔力5」
「理由は?」
「攻撃される前に倒す」
「真逆!」
剣士。
「筋力5」
「理由」
「殴れば解決する」
「全員自分の職業基準!」
百人の師匠。
百通りの正解。
初心者。
一歩も進まない。
――――
「では」
グレンが言った。
「少年本人に決めさせればよい」
室内。
静まり返る。
全員。
少年を見る。
「え?」
少年。
戸惑う。
「僕?」
ミーナ。
「当たり前でしょう!」
グレン。
「何になりたい?」
「えっと……」
「剣士か」
「魔法使いか」
「弓か」
「神官か」
「盾役か」
「採取職か」
「生産職か」
「商人もある」
「召喚は?」
「序盤は勧めるな」
「なんで?」
「維持費」
「ペット職は?」
「餌代」
「二刀流」
「必要技能が遅い」
「槍」
「初心者には間合いが」
「拳」
「装備安い」
少年。
口を開いたまま。
一言も言えない。
「……僕」
「はい!」
「まだ」
「はい!」
「何があるかも知らないです」
沈黙。
ミーナが。
ゆっくり。
百人を見る。
「初心者ってそういうものなんですよ」
全員。
少しだけ。
反省した。
三秒。
「じゃあ全職説明しよう」
「やめて!」
――――
全職説明。
始まった。
「剣士は」
「まず俺から」
「いやその説明古い」
「何が!」
「今は片手剣より両手剣」
「初心者なら片手だろ!」
「盾持てるから?」
「そうだ」
「火力落ちる」
「死ぬよりいい!」
弓使い。
「遠距離は安全」
魔法使い。
「弓は矢代がかかる」
弓使い。
「魔法は魔力切れるだろ!」
神官。
「回復できる職が一番安定」
戦士。
「火力が低い」
「パーティーで必要!」
「ソロは?」
「……」
少年。
説明を聞く。
一時間。
二時間。
三時間。
職業。
増える。
理解。
減る。
「……最初より分からなくなりました」
ミーナ。
「でしょうね」
――――
昼。
新しい紙が貼られた。
『初心者向けおすすめビルド』
一枚目。
『絶対に失敗しない剣士育成』
二枚目。
『剣士はもう古い! 最速魔法型』
三枚目。
『序盤最強・素早さ特化』
四枚目。
『初心者こそ体力全振り』
五枚目。
『実は運極振りが強い理由』
ミーナ。
「最後を剥がしてください」
「なんでですか!」
「タイトルから怪しい!」
さらに。
『最新版』
『完全版』
『改訂版』
『昨日までの常識は捨てろ』
『2026年最新版』
ミーナ。
「一日のうちに最新版多すぎません?」
「研究が進んでる」
「進みすぎ!」
昨日の攻略。
今日には古い。
初心者が。
一番信用してはいけない言葉。
『これだけ見れば大丈夫』
が。
町中に増殖していた。
――――
午後一時。
少年の前。
黒板。
《筋力》
《体力》
《素早さ》
《魔力》
《精神》
《器用》
《運》
少年。
「七つあるんですね」
「基本は」
メンターが答えた。
「基本?」
少年。
嫌な顔。
「隠し能力もある」
「言うな!」
ミーナが止める。
「初心者に隠し能力を教えない!」
「でも後で重要になる」
「例えば?」
「交渉」
「はい」
「発見」
「はい」
「耐性」
「はい」
「好感度」
「……はい」
「重量許容量」
「それは重要ですね」
「釣り運」
「何ですかそれ」
「魚が」
「今いらない!」
「料理成功率」
「今いらない!」
「転倒耐性」
「そんなのあるの!?」
少年。
頭を抱える。
「何に振ればいいんですか……」
メンター。
九十八人。
「全部必要」
「初心者に一番言っちゃダメな答え!」
――――
「じゃあ」
少年。
言った。
「全部一ずつ振るのは?」
室内。
凍った。
「ダメだ」
「絶対ダメ」
「中途半端」
「器用貧乏になる」
「特化した方がいい」
「後半困る」
「火力足りない」
「装備条件満たせない」
少年。
「さっき全部必要って」
全員。
目を逸らした。
「全部必要だが」
「全部振るな」
「意味分からないです!」
初心者。
ゲームの最初で。
一番困るやつ。
必要な能力は多い。
ポイントは少ない。
そして。
振る前には。
未来が分からない。
――――
その頃。
別の初心者。
少女。
既に振っていた。
《筋力+2》
《魔力+2》
《運+1》
師匠。
絶句。
「何で?」
「何がです?」
「何で筋力と魔力」
「剣も魔法も使いたくて」
「……」
「ダメですか?」
師匠。
悩む。
高レベル冒険者として。
効率だけなら。
ダメ。
でも。
少女は楽しそう。
「……ダメではない」
ミーナ。
少し笑う。
少女。
「じゃあ次は運に」
「それは待て」
「なんで!」
――――
午後二時。
最適化勢。
動く。
「計算表を作った!」
机。
巨大な紙。
《レベル20時点最適ステータス》
《レベル40》
《レベル60》
《最終装備必要値》
《転職条件》
《期待ダメージ》
《一分あたり平均火力》
初心者。
覗く。
数字。
数字。
数字。
「……冒険って」
「はい」
「こんなに計算するものなんですか?」
ミーナ。
「人によります」
計算した男。
「感覚で振ると後悔するぞ!」
「怖がらせない!」
「一ポイントの差が最終的に」
「今レベル2です!」
「だからこそ!」
「初心者を最終装備から逆算しないで!」
冒険。
まだ始まっていない。
ラスボス用ステータス。
決まり始めている。
――――
そこへ。
一人の冒険者。
「振り直せばいいじゃん」
全員。
止まる。
「……振り直し?」
少年。
希望の目。
「できるんですか!?」
「できる」
歓声。
「じゃあ好きに振れる!」
ミーナ。
「よかった!」
冒険者。
続ける。
「一回5000G」
沈黙。
「……いくら?」
「5000G」
少年。
所持金。
17G。
「無理です」
「ですね」
希望。
三秒。
終了。
「初心者向けじゃない!」
ミーナが叫ぶ。
「終盤の街なら安い」
グレン。
「リスタでは家買えるぞ」
「振り直す方が高い!」
――――
午後三時。
振り直し薬。
話題になる。
『再選の雫』
価格。
《5000G》
在庫。
《1》
冒険者。
集まる。
「一個!?」
「誰が買う!」
「初心者には無理!」
「高レベルなら?」
「自分で使いたい!」
初心者支援。
関係ないところで。
終盤アイテム争奪戦。
始まる。
ミーナ。
「触らないでください!」
「見るだけ!」
「買うだけ!」
「初心者の話に戻って!」
――――
午後四時。
少年。
まだ。
五ポイント。
未使用。
《未使用ステータスポイント》
《5》
「もう」
少年。
疲れた顔。
「振らなくていいですか?」
全員。
固まる。
「振らない?」
「はい」
「ポイント余らせる?」
「はい」
メンターたち。
ざわつく。
「もったいない」
「未使用は損」
「能力上がらない」
「装備条件満たせない」
「死にポイントよりマシでは?」
一人。
言った。
再び。
議論。
「保留派」
「即振り派」
「必要になったら振る派」
「最終ビルド確定してから派」
「初心者に最終ビルド求めるな派」
新しい派閥。
増えた。
初心者の五ポイント。
政治問題になった。
――――
「もう投票で決めましょう!」
誰かが言った。
ミーナ。
「ダメです!」
「でも百人いる!」
「だからダメ!」
「多数決なら公平!」
少年。
小さく。
「僕のステータスなんですけど」
誰も聞いていない。
投票。
《筋力》
三十一票。
《体力》
二十八票。
《素早さ》
二十票。
《魔力》
十四票。
《器用》
三票。
《精神》
二票。
《運》
一票。
ミーナ。
「運に入れた人!」
盗賊。
手を挙げる。
「信念です」
「いらない信念!」
結果。
《筋力》
最多。
「筋力5!」
剣士勢。
歓声。
少年。
「僕、魔法使いたいかも」
全員。
止まる。
「先に言って!」
「言う暇なかったです!」
――――
投票。
やり直し。
《魔力》
三十六。
《精神》
二十九。
《体力》
二十一。
《素早さ》
九。
《筋力》
三。
《運》
一。
ミーナ。
「まだ運いる!」
「可能性を捨てるな!」
「今日だけ捨てて!」
少年。
「……でも剣も少し」
全員。
「どっち!?」
「初心者に決断迫りすぎ!」
――――
夕方。
ついに。
攻略律。
動いた。
《初心者のステータス配分に》
《長時間を要していることを確認しました》
ミーナ。
顔を上げる。
「お願いだから何もしないで」
《初心者の選択負担を軽減します》
「本人に決めさせればいいだけ!」
《おすすめステータス配分機能を追加します》
少年。
「おすすめ?」
表示。
《初心者向け》
《バランス型》
全員。
見る。
《筋力+1》
《体力+1》
《素早さ+1》
《魔力+1》
《運+1》
沈黙。
「全部一」
誰かが呟く。
さっき。
全員で否定した。
全部一。
「器用は?」
「精神は?」
「五ポイントしかないから」
「なぜ運を入れた!」
盗賊。
拳を握る。
「攻略律は分かってる!」
「黙って!」
少年。
「これでいいです」
「待て!」
百人。
一斉。
「まだ議論が!」
「もう嫌です!」
少年。
《おすすめを適用》
ぽん。
《ステータスを振り分けました》
終了。
三秒。
百人。
六時間。
敗北。
――――
翌朝。
もっとひどいことが判明した。
「装備できません」
少年。
武器屋。
剣。
《必要筋力》
《12》
《現在筋力》
《11》
「一足りない」
魔法杖。
《必要魔力》
《12》
《現在魔力》
《11》
「一足りない」
軽弓。
《必要器用》
《10》
《現在器用》
《9》
「器用に振ってないから足りない」
盾。
《必要体力》
《12》
《現在体力》
《11》
少年。
店の真ん中。
立つ。
「……何も装備できません」
ミーナ。
空を見る。
「バランス型あああああ!」
何でもできるように。
均等にした。
結果。
何をするにも。
一だけ足りない。
初心者あるある。
最悪の形で完成した。
――――
さらに。
別の初心者。
「おすすめ押しました!」
魔法使い志望。
全部一。
剣士志望。
全部一。
弓志望。
全部一。
神官志望。
全部一。
「全員同じ!」
ミーナが叫ぶ。
《初心者向けバランス型を推奨しています》
「職業見てない!」
町中。
初心者。
同じ能力。
同じ失敗。
装備屋。
大混乱。
「筋力一足りない!」
「魔力!」
「器用!」
「精神!」
武器屋。
「初心者用装備ならあります!」
全員。
振り向く。
《初心者用木剣》
《必要能力》
《なし》
「結局木剣!」
高レベル師匠たち。
絶望。
百人で。
最適解を考えた。
最終的に。
全員。
木剣。
――――
夕方。
冒険者組合。
掲示板。
『初心者ステータス相談会』
その下。
『おすすめ自動配分使用禁止』
『振る前に相談してください』
さらに。
『一ポイントは残しておくこと推奨』
さらに。
『職業決定後に配分』
さらに。
『迷ったら体力』
その横。
『迷ったら好きに振れ』
その横。
『運極はロマン』
ミーナ。
最後だけ剥がす。
「何度貼るんですか!」
「需要がある!」
「ない!」
そこへ。
空中。
表示。
《初心者のステータス相談が活発です》
「また来た……」
《メンターによる育成方針の不一致を確認しました》
「そこはものすごく合ってます」
《初心者が混乱しないよう》
「嫌」
《育成方針を統一します》
百人のメンター。
静かになる。
《メンター投票制度を開始します》
ミーナ。
「……投票?」
《初心者の重要な育成方針は》
《登録メンターによる多数決で決定します》
少年。
「え?」
《初心者本人にも》
《一票が与えられます》
沈黙。
少年。
百人の師匠を見る。
自分。
一票。
師匠。
最大百票。
「……僕の人生ですよね?」
ミーナ。
答える。
「そうです」
「僕」
「はい」
「一票?」
「……はい」
少年が。
ものすごく遠い目をした。
はじまりの街リスタ。
初心者を迷わせないため。
初心者本人の意見が。
一番通らなくなった。




