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ラスボス前の街が、はじまりの街に宣戦布告した結果――レベル93の将軍が木の棒でスライムと戦う羽目になった  作者: 出水克幸
高レベル勢の初心者街流入 ゲームバランス崩壊

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18/21

攻略記録その18 初心者一人に、師匠が五千人つきました


「俺が育てる!」


「いや俺だ!」


「こっち来い! 装備全部出す!」


「初心者用回復薬百本あるぞ!」


「レベル90だ!」


「俺は92!」


「強さで師匠を決めるなああああ!」


 朝。


 はじまりの街リスタ。


 冒険者組合の前。


 初心者十二人。


 高レベル冒険者。


 約五千人。


 完全に人数がおかしかった。


 原因は昨夜。


 攻略律が突然始めた。


《メンター制度》


《高レベル冒険者が》


《初心者を一名育成すると》


《特別報酬を獲得できます》


 である。


 初心者を助ける。


 高レベル者が知識を教える。


 冒険の楽しさを伝える。


 本来なら。


 とてもよい制度だった。


 報酬という一文がなければ。


「君!」


 屈強な戦士が初心者の少年の肩を掴む。


「俺を選べ!」


「えっ」


「今日中にレベル30まで上げる!」


 ミーナが突っ込んだ。


「育てすぎ!」


 別の魔法使い。


「うちなら一時間だ!」


「もっとダメ!」


 神官。


「死亡ゼロ保証!」


「それはちょっといい!」


「でしょう?」


「いや待って、死ぬ可能性ある育成が混じってるんですか!?」


 後ろ。


 一人。


 目を逸らした。


「誰ですか今目を逸らした人!」


――――


 初心者の少女が。


 おそるおそる手を挙げた。


「あの」


「はい!」


 数百人の冒険者が同時に返事した。


「怖い!」


 少女が一歩下がる。


 ミーナが間に入った。


「一人ずつ!」


 少女。


「師匠って、自分で選んでいいんですか?」


 高レベル勢。


 静止。


 その発想が。


 なかった。


「……選ぶ?」


「はい」


 一人の剣士。


「こっちが?」


「初心者を?」


「違います」


 少女。


「私が」


 全員。


 ざわつく。


「選ばれる側!?」


「高レベルなのに!?」


「当たり前でしょう!」


 ミーナが叫ぶ。


「師匠なんだから相性があります!」


 そこから。


 地獄の面接が始まった。


――――


「得意武器は?」


「大剣だ」


「私、弓使いたいです」


「次!」


「判断早い!」


「魔法使いの方」


「はい!」


「火?」


「火専門だ」


「昨日、火属性禁止って聞きました」


「……次!」


「巨大スライム基準にしないで!」


 別の初心者。


「優しい人がいいです」


 五千人。


 急に笑顔になる。


「僕は怒らないよ」


「失敗しても大丈夫」


「自分のペースでいい」


 ミーナ。


「昨日、初心者がレベル6になって報酬消えた時、一番怒ってた人たちですよね?」


 全員。


 視線を逸らす。


――――


 一時間後。


 初心者十二人。


 メンター十二人。


 ようやく決まった。


 残り。


 四千九百人以上。


「……俺たちは?」


「余りです」


「余りって言うな!」


「初心者が足りません」


「増やせ!」


「人を資源みたいに言わないでください!」


 商人が手を挙げる。


「近隣の村から募集しますか?」


「募集?」


「『今リスタで冒険者登録すると師匠付き』」


 ミーナが止まった。


「……宣伝としては普通ですね」


「さらに入門祝い10G」


「勝手に金つけないで」


「紹介者にも5G」


「紹介制度にするな!」


 だが。


 二時間後。


 町の入口。


『初心者募集』


『今なら無料メンター付き』


『装備相談あり』


『育成支援あり』


『紹介特典あり』


 看板。


 完成。


「誰が許可したんですか!」


 ポポル。


「町おこしになるかと思って」


「町長おおおお!」


――――


 その頃。


 最初のメンター育成が始まっていた。


「まず剣を振ってみろ」


「はい!」


 レベル1の少年。


 木剣。


 振る。


《基本攻撃を習得しました》


《経験値を獲得しました》


「止めろ!」


 メンターが叫ぶ。


「えっ!?」


「これ以上振るな!」


「一回しか振ってません!」


「経験値二倍期間中だ!」


「じゃあ何を教えてくれるんですか!?」


 メンター。


 固まる。


 制度。


《初心者を育成してください》


 現実。


《育てると初心者ではなくなる》


「……」


「師匠?」


「今日は」


「はい」


「心構えを教える」


 ミーナ。


 遠くから聞く。


「逃げた!」


――――


 別の組。


 レベル2の少女。


 師匠はレベル88の魔法使い。


「魔法というものはな」


「はい!」


「まず魔力の流れを感じる」


「はい!」


「目を閉じろ」


 少女。


 目を閉じる。


「胸の奥にある力を――」


《魔力感知を習得しました》


「まだ説明途中!」


《経験値を獲得しました》


《初心者応援期間》


《獲得経験値 二倍》


《レベルが上がりました》


 少女。


「やった!」


 師匠。


「やってない!」


「えっ?」


「いや、やったけど!」


 育てる。


 報酬条件に近づく。


 だが。


 育てすぎる。


 初心者卒業。


 昨日。


 初心者枠から外れた瞬間。


 追加報酬が消えた。


 高レベル冒険者たち。


 学習していた。


「レベル5で止めろ!」


 誰かが叫んだ。


「全員、5で止めるんだ!」


 ミーナ。


「初心者育成なのに成長上限作るな!」


――――


 昼。


 メンター制度の詳細が判明した。


《メンター目標》


《初心者と一緒に依頼を三件達成》


《初心者へ戦闘指導》


《初心者へ装備説明》


《初心者のレベルを5以上上昇》


《卒業試験を達成》


 高レベル勢。


 固まった。


「レベルを5以上上げる?」


「はい」


「レベル5で止められない?」


「はい」


「昨日の追加報酬条件は?」


「レベル5以下」


「……」


 ミーナ。


「制度同士が喧嘩してる!」


 初心者優先参加制度。


 レベル5以下。


 メンター制度。


 5レベル以上育成。


 両立。


 ほぼ不可能。


「どっちの報酬取る?」


「メンター報酬は?」


「まだ不明!」


「じゃあ初心者枠!」


「でもメンターランク上げたい!」


「ランク?」


 ミーナが止まる。


「何ですかそれ」


 表示。


《メンターランク》


《新人指導員》


《熟練指導員》


《達人指導員》


《伝説の師匠》


 五千人。


 目。


 変わる。


「伝説」


「欲しい」


「称号つく?」


「たぶん」


「上げるぞ」


 ミーナ。


「称号だけで何でそんな燃えるんですか!」


 冒険者。


「名前の横につくから」


「それだけ!?」


「それが大事」


 理解。


 できない。


 でも。


 ゲームあるあるとしては。


 非常に強い。


――――


 午後。


 育成効率表が作られた。


『メンター経験値』


『依頼同行 +1』


『戦闘指導 +1』


『装備説明 +1』


『卒業 +5』


 その下。


『最短ルート』


 一、初心者登録。


 二、初心者用装備購入。


 三、東草原で戦闘。


 四、簡単依頼三件。


 五、卒業試験。


 ミーナ。


 紙を見る。


「もう教育じゃなくて周回になってる」


 さらに。


『目標時間』


《二時間十二分》


「早っ!」


「昨日三時間だったぞ!」


「更新された!」


「誰が!?」


「北門組!」


「ルート違う!」


「西門の方が近い!」


 初心者育成。


 RTA化。


「次、一時間台狙うぞ!」


「初心者の人生でタイムアタックしないで!」


――――


 さらに問題。


 効率のよい初心者。


 効率の悪い初心者。


 差が出始めた。


「この子、説明飛ばせます」


「採用!」


「この子、戦闘経験あります」


「初心者じゃないだろ!」


「レベル1です!」


「じゃあ採用!」


 別の少年。


「ゆっくり覚えたいです」


 メンター。


 顔。


 曇る。


「……ゆっくり?」


「はい」


「どれくらい?」


「一週間くらい」


「一週間!?」


「普通でしょう!?」


 ミーナが叫ぶ。


 周囲。


 二時間育成に慣れた者たち。


 ざわつく。


「長いな」


「メンター枠塞がる」


「報酬効率が」


「教育に効率持ち込むな!」


 だが。


 制度に報酬がある。


 ランクがある。


 順位がある。


 すると。


 人は。


 効率を考える。


――――


 午後三時。


 冒険者組合。


 新しい募集紙。


『メンター対象初心者募集』


『条件』


『指示を聞ける方』


『移動が速い方』


『説明スキップ可能』


『戦闘経験あり歓迎』


『初見不可』


 ミーナ。


 紙を破った。


「最後!」


「何でですか!」


「初心者育成に初見不可って何!?」


「時間かかるので!」


「時間かけるのが育成!」


――――


 その頃。


 逆の現象も起きた。


「師匠を変更したいです」


 初心者の少女。


 受付嬢。


「理由は?」


「全部やってくれるので」


「……いい師匠では?」


「私が戦う前に敵倒します」


「はい」


「薬草も取ってくれます」


「はい」


「道も教えてくれます」


「はい」


「依頼の答えも教えてくれます」


「はい」


「私」


 少女。


 真顔。


「何もしてないです」


 受付嬢。


 黙る。


 遠く。


 ミーナ。


「キャリーしすぎ!」


 師匠。


 レベル93。


「安全第一だ!」


「弟子に何もさせてない!」


「失敗させたくない!」


「失敗も経験です!」


「経験値入るぞ!」


「その経験じゃない!」


――――


 別の師匠。


 さらにひどい。


「ここに立ってろ」


「はい」


「動くな」


「はい」


 師匠。


 東草原。


 スライム。


 一撃。


 次。


 一撃。


 次。


 一撃。


 初心者。


 見てるだけ。


《パーティー経験値を獲得しました》


《レベルが上がりました》


「やった!」


「動いてない!」


 ミーナ。


 駆け込む。


「何してるんですか!」


「育成」


「放置じゃないですか!」


「安全だ」


「本人何もしてない!」


「レベル上がってる」


「それを育成と呼ぶな!」


 初心者。


 一時間後。


 レベル7。


「師匠」


「何だ」


「剣ってどう振るんですか?」


「……」


 レベル7。


 基本攻撃。


 未習得。


 また。


 数字だけ育った初心者。


 誕生。


――――


 夕方。


 問題は。


 さらに悪化した。


《メンターランキングを更新しました》


 町の中央。


 巨大な表示。


 一位。


《疾風のロイド》


《卒業人数 14》


 二位。


《鋼拳バド》


《卒業人数 12》


 三位。


《氷槍のサーラ》


《卒業人数 11》


 五千人。


 見る。


 空気。


 変わる。


「十四?」


「一日で?」


「抜ける」


「夜もやれば」


「初心者どこ!?」


 ミーナ。


「ランキング出すなあああ!」


 それまで。


 報酬目当て。


 今。


 順位目当て。


 もっと悪い。


「一位取る!」


「初心者三人予約!」


「予約するな!」


「明日の入門者押さえた!」


「先物取引みたいにするな!」


――――


 夜。


 初心者。


 足りない。


 メンター。


 余る。


 需要。


 完全逆転。


 朝。


 師匠を初心者が選んでいた。


 夜。


 初心者が。


 希少資源。


「初心者一名!」


 男が叫ぶ。


「誰か紹介して!」


「弟が十三歳!」


「冒険者になる予定は!?」


「ない!」


「説得して!」


「やめなさい!」


 ミーナ。


 止める。


「家族をランキングのために冒険者にしない!」


――――


 そして。


 最悪の発想。


「新しい冒険者が足りないなら」


 商人が。


 言った。


「新しく登録させればいい」


 ミーナ。


「誰を?」


「今まで冒険者じゃなかった人」


「だから誰を?」


 商人。


 町を見る。


 パン屋。


 宿屋。


 農家。


 店員。


「住民」


 ミーナ。


 数秒。


 理解できなかった。


「……住民?」


「一度冒険者登録」


「はい」


「初心者になる」


「はい」


「メンターをつける」


「はい」


「報酬を得る」


「はい」


「その後冒険者を辞める」


「やめて」


「翌日また――」


「絶対やめて!」


 商人。


「でも登録し直せば初心者判定が」


「試すな!」


 未確認。


 だからこそ。


 冒険者たち。


 目。


 輝く。


「検証」


「しない!」


「一人だけ」


「ダメ!」


「パン屋の親父!」


「巻き込むな!」


――――


 翌朝用。


 掲示板。


 ミーナが。


 全部剥がしていた。


『初心者募集』


『即日卒業』


『師匠付き』


『最短二時間』


『放置可』


『初心者経験不要』


「最後なんなの……」


 初心者なのに。


 初心者経験不要。


 意味が分からない。


 そこへ。


 昨日までランキング一位だった。


 疾風のロイド。


 走ってくる。


「ミーナ!」


「何です?」


「大変だ!」


「もう毎日大変です!」


「メンター報酬が入らない!」


「え?」


「十四人卒業させた!」


「はい」


「条件達成した!」


「はい」


「なのに!」


 表示。


《メンター報酬審査中》


「審査?」


 ミーナ。


 見る。


《育成した初心者の冒険継続状況を確認しています》


 一同。


 止まる。


《卒業後24時間以内に》


《冒険者活動を停止した対象》


《9名》


 ロイド。


「……」


《実質的な育成未達成と判断しました》


「え」


《メンター実績を減算します》


 一位。


《卒業人数14》


 更新。


《有効卒業人数5》


「うわあああああ!」


 ランキング。


 一位。


 転落。


 七位。


「俺の一位!」


 ミーナ。


 少しだけ。


 笑う。


「ざまあみろとは言いません」


「顔が言ってる!」


 攻略律。


 珍しく。


 まともだった。


 初心者を速く卒業させるだけでは。


 育成とは認めない。


「これで」


 ミーナ。


「ちゃんと育てるようになりますね」


 ポポル。


「うむ」


 グレン。


「ようやく正常化か」


 三人。


 安心。


 その瞬間。


《メンター制度の利用状況を確認しました》


 ミーナ。


 顔。


 固まる。


《初心者一名に対して》


《メンター希望者が過剰です》


「そこも合ってる」


《メンター間の公平性を改善します》


「嫌な予感」


《一人の初心者に》


《複数のメンターを設定可能にしました》


 沈黙。


 表示。


《上限》


《100名》


 五千人。


 初心者十二人。


 見る。


 一秒後。


「入れて!」


「俺も!」


「空きある!?」


「一人百人まで!」


「十二人なら千二百枠!」


「早い者勝ち!」


 初心者。


 逃げる。


「怖い怖い怖い!」


 ミーナ。


 叫ぶ。


「一人に百人も師匠いらないでしょう!」


 その日の朝。


 はじまりの街リスタでは。


 一人の初心者に。


 剣の師匠。


 魔法の師匠。


 回復の師匠。


 採取の師匠。


 料理の師匠。


 装備の師匠。


 移動の師匠。


 戦利品分配の師匠。


 休憩の師匠。


 そして。


 なぜか。


「弟子の師匠同士をまとめる師匠です」


 までついた。


「もう会社組織じゃないですか!」


 初心者を一人育てるため。


 百人が。


 会議を始めた。


 冒険。


 まだ。


 始まっていなかった。

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