攻略記録その17 初心者を一人入れたら、五千人全員レベル5になった
「初心者、一名入りました!」
翌朝。
はじまりの街リスタ。
東草原。
五千人近い冒険者たちから。
歓声が上がった。
「よし!」
「追加報酬!」
「これで条件達成!」
「昨日断った子だよな?」
「連れてきた!」
その中心。
一人の少年が。
ものすごく居心地悪そうに立っていた。
レベル1。
昨日リスタへ来たばかり。
巨大スライム討伐へ参加しようとして。
『初見の方はご遠慮ください』
と断られた。
その直後。
攻略律が。
《初心者優先参加制度》
《レベル5以下の冒険者を》
《パーティーに一名以上含めると》
《追加報酬を獲得できます》
を追加した。
結果。
昨日まで断っていた者たちが。
今朝は。
「こっち来て!」
「装備貸す!」
「後ろに立ってるだけでいい!」
「絶対死なせないから!」
と。
初心者を奪い合った。
少年は。
複雑だった。
「……僕」
「何?」
「今日こそ戦えるんですよね?」
一同。
沈黙。
「もちろん!」
「当然!」
「初心者用だし!」
「戦っていい!」
少年の顔が明るくなる。
「よかった!」
その後ろ。
ミーナが腕を組んでいた。
「昨日と言ってること真逆なんですけど」
誰も聞かなかった。
――――
「では」
パーティーリーダー。
例のレベル3の新人少年が。
前へ出た。
冒険歴。
数日。
五千人を率いるのは。
もう誰も突っ込まなくなっていた。
「初心者一名」
「はい!」
「参加確認」
《初心者優先参加条件を達成しました》
五千人。
「よし!」
《追加報酬対象になりました》
「よっしゃ!」
《初心者が安全に参加できるよう》
ミーナの顔が止まった。
「……待って」
《パーティー内の戦力差を調整します》
「待って」
グレンが首を傾げた。
「戦力差?」
初心者の少年。
レベル1。
周囲。
レベル70。
レベル80。
レベル90。
当然。
差はある。
《レベルシンクを開始します》
沈黙。
「……何ですか、それ」
ポポルが聞いた。
ミーナが。
嫌そうに答えた。
「たぶん」
「たぶん?」
「強い方が弱い方に合わせます」
五千人が。
静かになった。
《初心者優先パーティー》
《上限レベル》
《5》
「……」
一秒。
二秒。
三秒。
「は?」
光。
五千人を包んだ。
――――
「うわああああああ!」
東草原。
絶叫。
グレンが。
自分の両手を見る。
「力が……」
いつもの剣を握る。
重い。
「重い!?」
レベル78の魔法使い。
「《大爆炎陣》!」
何も起きない。
「え?」
もう一度。
「《大爆炎陣》!」
《現在のレベルでは使用できません》
「うそだろ!?」
レベル91の騎士。
「《聖壁》!」
《現在のレベルでは使用できません》
「待て!」
神官。
「《大治癒》!」
《現在のレベルでは使用できません》
「回復できない!」
別の神官。
「何が使える!?」
確認。
《小治癒》
「これだけ!?」
剣士。
確認。
《斬る》
《強く斬る》
「技が二つしかない!」
盗賊。
《盗む》
「これ戦闘で使えない!」
弓使い。
《射る》
「名前そのまま!」
高レベル冒険者。
全員。
レベル5。
長年鍛えた技。
大半。
使用不能。
ミーナが。
空を見上げた。
「初心者に合わせすぎ!」
――――
さらに。
問題は装備だった。
「剣が持てない!」
グレンが叫ぶ。
彼の剣。
ヴァルハラ製。
高級品。
魔王軍の幹部と戦える。
今。
《装備適正レベル》
《70》
《現在レベル》
《5》
《性能が制限されます》
グレン。
「どれくらいだ?」
表示。
《攻撃力》
《418》
矢印。
《12》
「木の棒と変わらん!」
ミーナ。
「初心者に合わせるんだから当然でしょう!」
「鍛冶師に謝れ!」
鎧。
《防御力》
《362》
矢印。
《9》
「布服より少し硬いだけだ!」
魔法使い。
杖。
《魔力増幅》
《+290》
矢印。
《+4》
「枝じゃないか!」
高レベル装備。
全部。
見た目だけ豪華な初心者装備になった。
「俺の伝説級剣が!」
「私の古代杖!」
「竜鱗鎧が!」
隣で。
初心者の少年。
木剣。
《攻撃力》
《11》
グレン。
伝説級剣。
《攻撃力》
《12》
二人。
見比べる。
「……一違う」
「はい」
「俺の剣」
「はい」
「木剣より一強い」
「そうですね」
グレンが。
遠くを見た。
「七十年の鍛錬とは」
「そこまで生きてないでしょう」
――――
「でも!」
冒険者の一人が言った。
「技術は残ってる!」
剣を構える。
「レベルが下がっても!」
「はい」
「俺たちには経験がある!」
巨大スライム。
遠くで。
ぷるん。
「昨日の攻略も知っている!」
「それはそうですね」
「なら勝てる!」
グレンも頷く。
「確かに」
ミーナ。
「……まあ」
高レベル者たち。
数値はレベル5。
だが。
戦闘経験。
豊富。
敵の動き。
理解済み。
ギミック。
理解済み。
役割。
理解済み。
「レベルだけが強さではない」
グレンが言う。
少し格好いい。
その瞬間。
《初心者向け操作支援を開始します》
「何だ?」
《使用可能技能を整理しました》
グレン。
技一覧。
《斬る》
《防御》
以上。
「……」
ミーナ。
「経験を活かす技が消されましたね」
「黙れ」
――――
戦闘開始。
巨大スライム。
昨日と同じ。
《初心者用スライム》
《混雑緩和個体》
《推奨参加人数》
《5000人》
五千人。
昨日。
レベル高い。
今日。
レベル5。
「行くぞ!」
新人リーダーが叫ぶ。
「うおおおお!」
一斉攻撃。
剣。
弓。
魔法。
木の棒。
巨大スライム。
《ダメージ》
《1》
《2》
《1》
《3》
《1》
冒険者たち。
止まる。
「弱っ!」
「昨日もっと入ってた!」
「レベル5ですから!」
巨大スライム。
体力。
《99.8%》
「五千人殴ってこれ!?」
ミーナが。
頭を抱える。
「推奨五千人なのに五千人を弱くしたら意味ないでしょう!」
攻略律。
何も答えない。
――――
巨大スライム。
赤い円。
「来る!」
昨日。
三百人吹き飛んだ攻撃。
「避けろ!」
今回は。
全員。
逃げた。
一人を除いて。
初心者少年。
「え?」
赤い円。
少年の足元。
「こっち!」
グレンが走る。
少年を抱える。
転がる。
攻撃。
ずん!
ぎりぎり回避。
「大丈夫か!」
「はい!」
「よし!」
少年の目。
輝く。
「今の」
「何だ?」
「めちゃくちゃ冒険っぽい!」
グレンが。
少し笑う。
「そうか」
「はい!」
ミーナも。
一瞬だけ。
笑った。
今日初めて。
初心者が。
ちゃんと初心者らしい経験をした。
《回避行動を学習しました》
少年。
「え」
《経験値を獲得しました》
ミーナ。
「あ」
《初心者応援期間》
《獲得経験値 二倍》
「あああ!」
光。
《レベルが上がりました!》
少年。
レベル2。
《パーティーレベルシンクを再計算します》
五千人。
「え?」
《上限レベル》
《5》
「変わらん!」
セーフ。
全員。
胸を撫で下ろす。
――――
戦闘。
十分。
巨大スライム。
体力。
《96%》
グレン。
「長い!」
魔法使い。
「高位魔法使わせてくれ!」
神官。
「回復量足りない!」
弓使い。
「矢が減る!」
道具使い。
「アイテムは!?」
一人。
回復薬を飲む。
《回復量》
《300》
実際。
《+30》
「薬まで制限!?」
ミーナ。
「レベル5で三百回復したら全快どころじゃないでしょう!」
「高い薬なんだぞ!」
「値段はレベルシンクされません!」
「一番困るやつ!」
性能。
下がる。
価格。
そのまま。
冒険者たちの財布だけ。
高レベルのままだった。
――――
さらに。
「俺の所持品が使えない!」
男が叫ぶ。
《高級爆裂玉》
《必要レベル40》
《使用できません》
「昨日買った!」
「残念ですね!」
「三百G!」
「残念ですね!」
「返品!」
道具屋店主。
遠く。
「不可!」
「聞こえてたのか!」
――――
巨大スライム。
黄色。
「第二形態!」
「火は禁止!」
全員。
「了解!」
昨日学んだ。
氷。
弱点。
魔法使いたち。
「氷撃て!」
「《氷槍》!」
《現在のレベルでは使用できません》
「あ」
「何使える!?」
《冷たい玉》
「何それ!」
「撃て!」
ぽん。
《弱点》
《4》
「弱点で四!」
五千人。
絶望。
――――
「物理で!」
「斬れ!」
「殴れ!」
「刺せ!」
巨大スライム。
ぷるぷる。
五千人。
小さな数字。
一。
二。
三。
積み重なる。
体力。
《82%》
一時間。
「まだ!?」
冒険者。
疲れている。
ゲームなら。
レベルシンク。
適正コンテンツ。
いい仕組みである。
現実なら。
高レベル者五千人が。
初心者装備相当で。
一時間スライムを殴る。
地獄だった。
――――
午後。
「休憩!」
新人リーダー。
叫ぶ。
「戦闘中だ!」
グレン。
「でもみんな疲れてます!」
「敵は待たん!」
巨大スライム。
ぽよん。
止まっている。
「待ってます」
「……」
初心者用。
親切。
「十分休憩!」
五千人。
一斉に座る。
巨大スライム。
待つ。
ミーナ。
「何この戦闘」
ポポル。
「初心者向けでは?」
「遠足みたいになってます」
――――
休憩中。
新しい問題。
「食事!」
冒険者。
パン。
《高級戦闘食》
《筋力+30》
食べる。
《レベルシンク中》
《筋力+2》
「料理も!?」
「当たり前でしょう!」
「一皿80G!」
「値段の話ばっかり!」
別の冒険者。
初心者用干し肉。
《筋力+2》
価格。
4G。
全員。
高級戦闘食。
見る。
初心者用干し肉。
見る。
「……同じ」
ミーナ。
「今だけは」
数百人。
一斉に。
初心者用干し肉を買いに走った。
商人。
「売り切れ!」
「またか!」
初心者用商品。
また高レベル勢に。
奪われた。
レベルシンク。
初心者を守るどころか。
高レベル者の買い物まで初心者化させた。
――――
午後二時。
戦闘再開。
巨大スライム。
《70%》
「削れ!」
新人少年。
少しずつ。
戦い方を覚えていた。
赤い円。
避ける。
通常攻撃。
木剣。
十一ダメージ。
「十一!?」
グレン。
伝説級剣。
十二。
少年。
木剣。
十一。
「差が一」
「言わないでください」
少年。
「でもグレンさんの方が上手いです!」
「そうか」
「同じくらいの攻撃力なのに!」
「後半はいらん」
――――
巨大スライム。
体力。
《50%》
《フェーズ移行》
「十六匹!」
「班!」
「昨日と同じ!」
五千人。
素早く動く。
一班。
二班。
三班。
十六班。
「削れ!」
問題。
火力。
弱い。
《30》
《29》
「間に合わん!」
「攻撃!」
「全力!」
《20》
十六匹。
まだ半分。
「ダメージ足りない!」
「高位技能使えない!」
《10》
「無理!」
《5》
「撃て!」
《0》
《時間切れ》
十六匹。
復活。
「うわあああ!」
昨日クリアしたギミック。
今日は。
火力不足。
攻略法を知っていても。
数値が足りない。
「人数増やすか!」
誰かが叫ぶ。
ミーナ。
「もう五千人です!」
「一班人数増やせ!」
「全体人数変わらない!」
「じゃあ装備!」
「制限される!」
「料理!」
「制限!」
「薬!」
「制限!」
「どうすれば!」
新人少年。
小さく。
「……レベル上げれば?」
全員。
見る。
「今?」
「僕ら」
少年。
表示を見る。
「初心者がレベル5までなら」
ミーナ。
「……あ」
「僕がレベル5になったら」
「上限」
「上がらない?」
沈黙。
全員。
考える。
今。
少年。
レベル2。
シンク上限。
5。
初心者制度。
条件。
レベル5以下。
「でも上限5は固定じゃないですか?」
ミーナが言う。
「初心者に合わせるって表示だった」
グレン。
「なら初心者側のレベルが上がれば?」
「確認してません」
「検証だ」
「戦闘中に検証始めないで!」
――――
少年。
分裂スライム。
一匹。
攻撃。
討伐。
《経験値を獲得しました》
《二倍》
光。
《レベル3になりました》
五千人。
待つ。
《パーティーレベルシンクを再計算します》
「来た!」
《上限レベル》
《5》
「変わらん!」
ミーナ。
「ですよね!」
さらに。
少年。
討伐。
《レベル4》
《上限レベル5》
「変わらん!」
「あと一つ!」
「やるの!?」
少年。
レベル5。
《初心者優先参加条件》
《達成中》
《レベルシンク上限》
《5》
「そのまま!」
全員。
崩れ落ちる。
「意味なかった!」
少年だけ。
レベル1から5になった。
「僕」
「はい」
「今日すごく成長しました!」
満面の笑み。
ミーナ。
何も言えない。
「……よかったね」
そこだけは。
本当に良かった。
――――
問題は。
次だった。
少年。
もう少し経験値。
《レベルが上がりました!》
《レベル6》
全員。
止まる。
《初心者優先参加条件を確認しています》
ミーナ。
「待って」
《レベル5以下の冒険者》
《0名》
「待って!」
《初心者優先参加条件》
《未達成》
《追加報酬対象から外れました》
五千人。
「うわあああ!」
それだけではない。
《初心者保護レベルシンクを解除します》
沈黙。
光。
五千人。
元のレベル。
70。
80。
90。
グレン。
剣。
攻撃力。
《418》
魔法使い。
《大爆炎陣》
使用可能。
神官。
《大治癒》
使用可能。
全員。
ゆっくり。
巨大スライムを見る。
巨大スライム。
十六匹。
残り時間。
《21》
「……撃て」
グレンが言った。
五千人。
本気。
十六匹。
一秒。
消滅。
《同時討伐成功》
「強っ!」
ミーナが叫んだ。
――――
再結合。
最終形態。
赤い巨大スライム。
昨日。
安全地帯が狭すぎて。
全滅。
今日。
高レベル。
「来るぞ!」
赤い範囲。
安全地帯。
小さい。
「入れない!」
「昨日と同じ!」
グレン。
「防御魔法!」
神官。
「《聖域障壁》!」
騎士。
「《不落陣》!」
魔法使い。
「《多重防壁》!」
高レベル技能。
重なる。
巨大攻撃。
白い光。
どおおおおん!
煙。
晴れる。
五千人。
立っている。
「耐えた!」
「高レベルってすごい!」
ミーナ。
「元からこの人たち強かったんですよ!」
初心者街に来てから。
誰も覚えていなかっただけである。
――――
「攻撃!」
五千人。
全力。
巨大スライム。
体力。
《30%》
《20%》
《10%》
「削れる!」
《5%》
グレン。
一閃。
《1%》
新人少年。
木剣。
「僕も!」
走る。
巨大スライム。
ぽよん。
少年。
一撃。
《11》
《0%》
沈黙。
《討伐成功》
一秒。
歓声。
「うおおおおおおおおお!」
東草原。
揺れる。
新人少年。
自分の木剣を見る。
「僕が」
「はい!」
「倒した?」
「最後の一撃だけですけど!」
「やった!」
グレンが。
少年の頭を乱暴に撫でる。
「よくやった」
「はい!」
それは。
ようやく。
ちゃんとした。
初心者の冒険だった。
――――
そして。
報酬。
《巨大初心者スライム討伐報酬》
五千人。
期待。
《初心者優先参加条件》
《未達成》
「……」
《追加報酬》
《なし》
沈黙。
一人。
「初心者」
少年を見る。
レベル6。
「……上がっちゃったな」
少年。
「はい」
「追加報酬」
「ないですね」
冒険者。
五千人。
ゆっくり。
少年を見る。
少年。
後ずさる。
「え」
ミーナ。
前へ出る。
「責めない!」
「いやでも!」
「この子のおかげでレベルシンク解除されたでしょう!」
「それはそうだけど!」
「倒せたでしょう!」
「でも報酬!」
「経験と報酬どっちが大事なんですか!」
全員。
「報酬!」
「即答しない!」
――――
夕方。
冒険者組合。
掲示板。
新しい募集。
『巨大スライム再戦』
『レベル5以下一名募集』
『条件』
『戦闘参加可』
『ただし』
『レベル6にならない方』
ミーナ。
読む。
「無理でしょう」
受付嬢。
「ですよね」
さらに。
『経験値取得禁止』
『敵への止め禁止』
『発見禁止』
『実績解除禁止』
『レベルアップしそうになったら離脱』
ミーナ。
「また初心者に何もさせない募集になってる!」
その横。
別の紙。
『初心者枠』
『レベル1推奨』
『装備不要』
『戦闘不要』
『報酬分配あり』
『入口待機のみ』
新人冒険者が。
列を作っていた。
「戦わなくていいんですか?」
「いい!」
「何もしなくて?」
「いい!」
「報酬もらえる?」
「もらえる!」
「やります!」
ミーナ。
頭を抱える。
昨日。
初心者を。
報酬ボーナス用の置物にした。
今日。
それを。
正式な募集条件にした。
その瞬間。
空中。
《初心者の安全なパーティー参加を確認しました》
ミーナ。
顔を上げる。
「……嫌」
《高レベル冒険者による初心者支援が定着しています》
「定着してない!」
《初心者が安心して冒険できる環境になりました》
「冒険してない!」
《初心者支援を拡充します》
「拡充するな!」
表示。
《メンター制度を開始します》
沈黙。
《高レベル冒険者が》
《初心者を一名育成すると》
《特別報酬を獲得できます》
五千人。
初心者の列。
見る。
一秒。
「俺が育てる!」
「こっち!」
「俺、レベル90!」
「装備全部出す!」
「一日でレベル上げる!」
ミーナ。
絶叫。
「だから早く育てすぎるのが問題なんでしょうがああああ!」
はじまりの街。
次は。
初心者一人に。
高レベル冒険者が。
五千人群がることになった。




