表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボス前の街が、はじまりの街に宣戦布告した結果――レベル93の将軍が木の棒でスライムと戦う羽目になった  作者: 出水克幸
高レベル勢の初心者街流入 ゲームバランス崩壊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/17

攻略記録その14 レベルアップすれば、回復薬はいりません

「回復するな!」


 はじまりの街リスタ、東草原。


 朝っぱらから。


 意味の分からない指示が飛んでいた。


「まだ回復するな!」


「でも俺、もう体力ほとんど残ってないぞ!」


「あと一匹だ!」


「何が!?」


「レベルアップまで!」


「それ先に言え!」


 革鎧の男が、ふらふらになりながらスライムの前へ立つ。


 体力は残りわずか。


 魔力もほとんどない。


 普通なら。


 薬草。


 回復薬。


 回復魔法。


 最低でも一つは使う場面だった。


 だが。


「使うな!」


 仲間が叫ぶ。


「回復薬一本5Gだぞ!」


「俺の命より安いな!」


「今は払わなくていい!」


「その判断で命を比較するな!」


 ぽよん。


 スライムが跳ねる。


「来た!」


 男が剣を振った。


 一撃。


 スライムが消える。


《経験値を獲得しました!》


《初心者応援期間》


《獲得経験値 二倍》


「上がれ!」


「上がれ!」


「頼む!」


 全員が祈る。


《レベルが上がりました!》


「よっしゃああああ!」


《初心者応援特典》


《HP・MPが全回復しました!》


 光。


 傷だらけだった男の体から疲労が消える。


 息が整う。


 空だった魔力も満タン。


 男は剣を振り上げた。


「完全復活!」


 仲間たちが歓声を上げる。


「回復薬ゼロ!」


「宿代ゼロ!」


「回復役なし!」


「もう一周いけるぞ!」


 そして。


 遠くからそれを見ていたミーナが叫んだ。


「行かなくていいんです!」


 昨日。


 初心者を助けるため。


 攻略律が追加した新しい支援。


《レベルアップ時 HP・MP全回復》


 本日。


 初心者を休ませないための仕組みになった。


――――


「誰が最初に思いついたんですか!」


 ミーナが草原へ駆け込んだ。


 冒険者たちは一斉に視線を逸らした。


「怒らないから言ってください!」


「それ怒る人の言い方だろ」


「怒りますけど!」


「ほら!」


 グレンも後からやって来た。


「何をしている?」


「見れば分かるでしょう!」


「分からんから聞いている!」


「回復を節約するため、わざと体力と魔力を減らしてからレベルアップしてるんです!」


 グレンが少し考える。


「……合理的ではないか?」


「あなたまでそっち側に行かないで!」


「いや、待て。レベルが上がれば全快するのだろう?」


「します!」


「なら上がる直前に魔力を使い切った方が得では?」


「そういうことを考えないでください!」


 既に周囲では。


 考え終わった者たちが実践していた。


「魔力残り三!」


「まだ撃てる!」


「火球!」


 どおん!


「残り一!」


「小さいの撃て!」


「火花!」


 ぱちっ。


「ゼロ!」


「よし、スライム倒せ!」


「何で最後だけ剣なんだよ!」


「魔力ゼロだからだよ!」


 スライム撃破。


《レベルが上がりました!》


《HP・MPが全回復しました!》


「魔力満タン!」


「もう一回!」


「やった!」


 今まで。


 魔法使いは魔力残量を考えて戦っていた。


 強い魔法を連発すれば、すぐに動けなくなる。


 だから弱い敵には弱い魔法。


 強敵に備えて大技を温存。


 町へ戻るまでの残量も考える。


 冒険とは。


 だいたい資源管理である。


 今日。


 その概念が死んだ。


「最大威力で撃て!」


「スライム一匹だぞ!?」


「どうせ戻る!」


「《爆炎球》!」


 どおおおおおん!


 草原が揺れる。


 煙が晴れる。


 一匹のスライムがいた場所だけ。


 小さな穴になっていた。


 ミーナが頭を抱える。


「一匹に使う魔法じゃない!」


「魔力は戻る!」


「地面は戻らないんです!」


 リスタ東草原。


 今度は経験値ではなく。


 地形が減り始めた。


――――


 午前九時。


 新しい言葉が生まれた。


「あと一匹!」


 である。


「俺あと一匹!」


「こっちも!」


「先いいか!?」


「俺、体力赤いんだぞ!」


「こっちは魔力ゼロ!」


「順番だ!」


 スライム一匹を。


 十人が囲んでいた。


 以前なら。


 誰が倒してもよかった。


 今は違う。


「触るなよ!」


「俺が倒せばレベル上がるんだ!」


「俺もだ!」


「じゃんけんしろ!」


「戦場でじゃんけんするな!」


 ぽよん。


 スライムだけが何も知らずに跳ねている。


 全員が手を出せない。


 経験値は欲しい。


 しかし。


 最後の一匹を他人に取られると。


 回復できない。


「……これ」


 ミーナが呟いた。


「前より狩りが遅くなってません?」


 グレンが頷いた。


「全員が止めを欲しがっている」


 少し前まで。


 高レベル勢が初心者の獲物を一瞬で奪うことが問題だった。


 今度は。


 全員が止めだけ欲しがる。


「俺が削る!」


「削りすぎるな!」


「分かってる!」


 剣士がスライムを軽く斬る。


「まだ生きてる!」


「よし!」


「次!」


「俺が削る!」


「何で削る係が増えるんだ!」


「攻撃参加した方が経験値入るかもしれないだろ!」


「検証してないぞ!」


「じゃあ今検証する!」


「今やるな!」


 誰が経験値を得るのか。


 最後の一撃なのか。


 攻撃した全員なのか。


 近くにいるだけなのか。


 昨日までなら。


 誰も気にしていなかった細かい条件。


 今日は。


 回復量がかかっている。


 冒険者たちは急に学者になった。


――――


 午前十時。


 草原の端。


 地面に大きな表が置かれていた。


『経験値分配検証』


『一人で討伐』


『二人で攻撃』


『三人で攻撃』


『止めのみ参加』


『見ているだけ』


『応援だけ』


 ミーナが紙を見る。


「最後何ですか?」


「検証です」


「応援?」


 冒険者が胸を張る。


「戦闘に参加せず『頑張れ』と声をかけた場合、経験値が入るか」


「入ったら嫌だなあ……」


「昨日、本読んだだけでも入ったんだろ?」


「その前例を便利に使わないで!」


 別の男が手を挙げる。


「じゃあ始めるぞ!」


 一人がスライムと戦う。


 少し離れた場所から。


「頑張れー!」


「負けるなー!」


「そこだー!」


 討伐。


 全員が自分の表示を見る。


「入った?」


「俺は入ってない」


「俺も」


「じゃあ応援だけはゼロ!」


 記録係が書き込む。


『応援のみ 経験値なし』


「知識を増やさないで!」


「大事な情報だぞ!」


「何に使うんですか!」


「安全に応援できる」


「それは普通に応援してください!」


 検証結果。


 一時間後。


 紙は三枚になった。


 冒険者の情熱は。


 魔王討伐より細かい仕様確認へ向いていた。


――――


 昼前。


 今度は。


 回復役が怒り始めた。


「仕事がない!」


 神官服の女性が冒険者組合へ入ってきた。


 受付嬢が顔を上げる。


「どうしました?」


「朝から誰も回復を頼みに来ない!」


「よいことでは?」


「私の仕事です!」


 回復役。


 仲間が傷つけば回復。


 毒を受ければ治療。


 長期戦では生命線。


 パーティーに一人いるだけで安心感が違う。


 なのに。


 今日の募集掲示板。


『東草原周回』


『火力三名募集』


『回復役不要』


『レベルアップ全快利用』


 その下。


『初心者用スライム高速周回』


『攻撃役のみ』


『回復薬不要』


『宿休憩なし』


 さらに。


『魔力全消費歓迎』


『次のレベルまで近い人優先』


 神官の女性が震えている。


「昨日まで『回復役いませんか』って頭下げてきた人たちが!」


「はい」


「今日は『火力枠埋まってます』って!」


「流行って怖いですね……」


「私、昨日まで重要職だったのよ!?」


「今日も重要です!」


「誰も呼ばない!」


 そこへ男が入ってきた。


「あ、神官さん」


「回復!?」


「違います」


「違うの!?」


「東草原で一緒に戦いません?」


 女性の顔が明るくなる。


「回復役として?」


「攻撃魔法使えます?」


「少しなら」


「じゃあ火力で」


「回復させなさいよ!」


 役割まで壊れ始めた。


――――


 正午。


 リスタの道具屋。


「返せ!」


 店主が叫んだ。


「返品させてくれ!」


「できません!」


 昨日。


 初心者用回復薬は売り切れていた。


 観光客。


 冒険者。


 記念購入。


 ガルド。


 需要がありすぎて足りなかった。


 だから店主は。


 朝一番で。


 大量に仕入れた。


 木箱。


 二十箱。


 回復薬。


 ぎっしり。


「昨日売り切れたんだぞ!」


「そうですね」


「だから倍仕入れた!」


「はい」


「一本も売れん!」


「そうですね」


 店の前。


 冒険者が通り過ぎる。


「回復薬どうですかー!」


「レベル上げるからいい!」


「安くします!」


「荷物になる!」


「半額!」


「いらない!」


 店主が膝から崩れた。


「昨日まで取り合いだったのに……」


 ゲームバランスが変わると。


 経済は。


 一日で死ぬ。


「薬草もあります!」


「いらない!」


「毒消し!」


「毒受けてない!」


「魔力回復薬!」


「レベル上げる!」


「お願いだから何か買って!」


 店主が冒険者を追いかける。


 完全に立場が逆転していた。


――――


 そのころ。


 宿屋も死んでいた。


「今夜泊まる人ー!」


 宿屋の主人が通りで叫んでいる。


 誰も止まらない。


「一泊12G!」


「レベル上げるから!」


「朝食付き!」


「狩りながら食う!」


「風呂付き!」


 一人。


 冒険者が止まった。


「風呂はちょっといいな」


「でしょう!?」


「でも寝なくていいんだよなあ」


「寝ろ!」


 主人が肩を掴む。


「人間は寝ろ!」


「HP満タンなんだけど」


「体力と睡眠は別だ!」


「でも疲労感もないぞ」


「こっちの生活があるんだ!」


 宿屋主人の主張が。


 世界の健康ではなく。


 経営に変わっていた。


――――


 午後一時。


 冒険者たちは。


 さらに効率化した。


「次のレベルまでどれくらいだ?」


「あと少し」


「じゃあ温存!」


「何を?」


「レベルアップを」


 ミーナが聞き返した。


「……温存?」


 男が説明する。


「今、体力満タンだろ?」


「はい」


「ここでレベル上げたら回復が無駄になる」


「まあ……」


「だから今は経験値を入れない」


「それは昨日やりました」


「違う」


 男は真顔だった。


「先に体力と魔力を使う」


「嫌な予感」


「減ったらレベル上げる」


「ですよね」


「全回復」


「はい」


「これを繰り返す」


「完全に回復を資源として数え始めてる!」


 今まで。


 レベルアップは結果だった。


 敵を倒す。


 経験を積む。


 気がつけば上がる。


 今日から。


 回復手段になった。


「体力半分!」


「まだ上げるな!」


「魔力三割!」


「まだ!」


「二割!」


「もう少し使える!」


「鬼!」


「回復がもったいない!」


 回復効率を最大化するため。


 わざと消耗する。


 休むと損。


 薬を使うと損。


 回復魔法も損。


 完全に。


 目的と手段が入れ替わっていた。


――――


「その考え方は禁止!」


 ミーナが即席の看板を立てた。


《レベルアップのために故意に負傷しないでください》


 五分後。


 横に別の紙が貼られた。


《自然な戦闘による負傷は可》


「誰が補足したんですか!」


 冒険者が手を挙げた。


「どこからが故意か分からないので」


「書かなくていい!」


「敵の攻撃を避けなかった場合は?」


「避けて!」


「盾を使わない場合は?」


「使って!」


「防具外した場合は?」


「着て!」


「高い防御力の装備から弱い装備に変えるのは?」


「何でそんな境界ばっかり攻めるんですか!」


 ルールができると。


 人は。


 まず境界を探す。


 特に冒険者は。


 ダンジョンより先に穴を探す。


 グレンが看板の下へ追記した。


《常識的に戦うこと》


「これでいい」


 ミーナが首を横に振った。


「一番揉める書き方です」


「なぜだ」


「全員、自分だけは常識的だと思ってるからです」


 その後。


 十五分で揉めた。


――――


 午後二時。


 新たな募集が現れた。


『あと少しでレベルが上がる方』


『緊急回復枠』


 ミーナが掲示板を二度見した。


「何ですかこれ」


 募集主が説明する。


「危なくなった時用です」


「誰が?」


「パーティーが」


「どういう意味です?」


「この人」


 隣に。


 レベルアップ直前の冒険者が立っている。


「俺、あと少しです」


「だから?」


「普段は戦わない」


「はい」


「全員が消耗したら最後の一匹を俺が倒す」


「まさか」


「俺だけ全回復」


「全員じゃないじゃないですか!」


「そこから俺が守る」


「効率悪い!」


「非常用です」


「回復役連れて行って!」


 神官の女性が遠くから叫んだ。


「そうよ!」


「でも神官は報酬分配が」


「金の話するな!」


 回復役の立場が。


 レベルアップ直前の人間と競合し始めていた。


――――


 午後三時。


 最初の事故が起きた。


「上がらない!」


 東草原に叫び声が響く。


 男がスライムを倒す。


《経験値を獲得しました!》


 それだけ。


「……あれ?」


 体力。


 残りわずか。


 魔力。


 ゼロ。


「もう一匹!」


 倒す。


《経験値を獲得しました!》


「上がらない!」


 仲間が青ざめる。


「あと一匹じゃなかったのか!?」


「そうだと思ってた!」


「思ってた!?」


「朝の感覚で!」


「レベル上がって必要経験値増えてるだろ!」


 一同。


 沈黙。


「あ」


 当たり前だった。


 レベルが上がれば。


 次に必要な経験も増える。


 低レベルのうちは。


 ぽんぽん上がる。


 だが永遠には続かない。


「回復薬!」


「持ってない!」


「なんで!」


「レベルアップすると思ったから!」


「神官!」


「パーティーに入れてない!」


「宿!」


「ここ草原!」


「終わった!」


「終わってません!」


 ミーナが走ってきた。


 後ろから。


 例の神官の女性。


「どきなさい!」


 回復魔法。


 淡い光。


 男の傷が塞がる。


「助かった……」


 神官は腕を組んだ。


「何か言うことは?」


 男が正座した。


「回復役は必要です」


「よろしい」


 リスタの回復役。


 午後三時十二分。


 復権。


――――


 だが。


 事故は一つでは終わらなかった。


「俺も上がらない!」


「こっちも!」


「必要経験値増えてる!」


「回復薬どこ!?」


「店!」


「買ってない!」


「宿!」


「満室じゃない!」


「今日は空いてる!」


「逆に助かった!」


 冒険者たちが。


 一斉に町へ戻り始めた。


 道具屋。


 店主が遠くから集団を見た。


「……来た」


 目が光る。


「来た!」


 冒険者たちが飛び込む。


「回復薬!」


「あります!」


「十本!」


「あります!」


「魔力回復薬!」


「あります!」


「全部くれ!」


「昨日の二倍で!」


「値上げした!?」


「需要です!」


「商売人!」


 午前中。


 大量在庫で泣いていた男。


 午後三時。


 強気の価格設定。


 経済も。


 全回復並みに復活が早かった。


――――


 午後四時。


 町役場。


「状況を整理します」


 ミーナが黒板の前に立った。


 書かれている。


《獲得経験値 二倍》


《レベルアップ時 HP・MP全回復》


 その下。


 今日起きたこと。


 一、回復薬を使わない。


 二、宿屋へ泊まらない。


 三、回復役を外す。


 四、魔力を使い切ってからレベルアップ。


 五、体力を減らしてからレベルアップ。


 六、経験値の止めを奪い合う。


 七、経験値分配の検証開始。


 八、レベルアップを回復として温存。


 九、必要経験値増加を忘れて事故。


 十、回復薬が再び売れる。


 ポポルが黒板を見つめた。


「……一日か?」


「まだ夕方です」


「一日経っておらんのか?」


「はい」


 グレンが腕を組む。


「冒険者というのは、妙なところだけ対応が早いな」


「攻略法には異常に早いんです」


「戦争の時にもこの頭を使ってほしかった」


「使った結果が今ですよ」


 戦争から始まった。


 初心者街でチュートリアルに捕まり。


 薬草が消え。


 スライムが消え。


 宝箱に五千人並び。


 環境調整が壊れ。


 初心者が消え。


 経験値が二倍になり。


 今度は。


 回復するためにレベルを上げる街になった。


「では」


 ポポルが言う。


「この支援を止めてもらえばよいのでは?」


 室内が静かになる。


 ミーナがゆっくり振り返る。


「……どうやって?」


「攻略律に頼む」


「頼み方知ってます?」


「知らん」


「私もです」


「……」


 この街の最大の問題。


 支援制度に。


 窓口がない。


――――


 夕方。


 北門。


 あの最後にやって来た。


 レベル3の新人少年。


 彼は。


 まだ立っていた。


「……あの」


 門番が振り返る。


「何だ?」


「もう動いていいですか?」


「待て」


「昨日からほぼ何もしてないんですけど」


「今、町が危険だ」


「魔物が?」


「経験値が」


「まだそれなんですか!?」


 少年は遠くを見る。


 東草原から。


 冒険者たちが次々と帰ってくる。


「俺、冒険者になりに来たんです」


「知っている」


「剣を振りたいです」


「まだだ」


「依頼を受けたいです」


「危ない」


「スライム倒したいです」


「もっと危ない」


「じゃあ何ならしていいんですか!?」


 門番が考える。


「……見学?」


 少年の顔が明るくなる。


「見学!」


「あ」


 門番が止まる。


「初めての見学で経験値入るか?」


 二人。


 沈黙。


「やめます」


「それがいい」


 新人少年。


 冒険開始二日目。


 まだ。


 何も始められていなかった。


――――


 その夜。


 リスタの酒場。


 冒険者たちが。


 今日の検証結果を持ち寄っていた。


「レベルが上がりやすいのは低レベルだけだ」


「当たり前だろ」


「でも二倍期間だから思ったより長く使える」


「体力満タンで上がるともったいない」


「だからって減らすな。昼に事故った」


「魔力だけ使い切るのは?」


「安全な場所ならあり」


「回復役一人は入れろ」


「薬も最低三本」


「宿帰還ライン決めよう」


「止め役の順番も」


「経験値分配は?」


「四人までなら――」


 ミーナは酒場の入口で聞いていた。


 そして。


 少しだけ。


 嫌な顔をした。


 朝。


 無茶苦茶だった者たちが。


 事故を一度経験しただけで。


 もう安全手順を作り始めている。


「……学習してる」


 隣のグレンが言う。


「よいことでは?」


「そうなんですけど」


「何が不満だ」


「昨日までは、問題が起きたらもっと問題を増やしてたでしょう?」


「今日も十分増やした」


「最後だけ急に賢くなられると調子狂うんです」


 酒場では。


 一枚の紙が完成した。


『東草原周回・暫定ルール』


『回復薬を最低三本携行』


『回復役を一名以上確保』


『故意に負傷しない』


『必要経験値を事前確認』


『レベルアップ全回復を前提にしすぎない』


 ミーナが読む。


「まとも……」


 グレンも読む。


「まともだ」


「この街で久しぶりにまともなもの見ました」


 冒険者が紙を掲示板に貼った。


 その瞬間。


 ぽん。


 空中に文字が浮かんだ。


《初心者のみなさんの攻略情報共有を確認しました!》


 ミーナの顔が止まる。


「……あ」


《協力して冒険する姿勢を評価します!》


「待って」


《初心者応援期間》


「待って待って」


《パーティー活動支援を追加します》


 酒場が静まり返った。


 冒険者たちが。


 ゆっくり空を見る。


《パーティー人数が多いほど》


《獲得経験値にボーナスが発生します!》


 沈黙。


 一人が。


 小さく言った。


「……何人まで?」


 ミーナが振り向いた。


「調べないで」


「いや、でも」


「調べないで!」


「四人と五人で違うかもしれない」


「調べるな!」


「八人なら?」


「やめて!」


「五千人なら?」


 グレンの顔色が変わった。


 ミーナも。


 止まった。


 二人の脳裏に。


 同じ光景が浮かぶ。


 五千人。


 初心者洞窟。


 宝箱。


 長蛇の列。


「……まさか」


 グレンが呟く。


 酒場の奥。


 誰かが既に。


 紙へ数字を書いていた。


『二人』


『三人』


『四人』


『八人』


『十六人』


『百人』


『五千人』


 ミーナが走った。


「一番下を試すなあああああ!」


 初心者を助けるはずの支援は。


 ついに。


 人数が多いほど得をするようになった。


 リスタには。


 ちょうど。


 暇を持て余した高レベル勢が。


 何千人もいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ