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ラスボス前の街が、はじまりの街に宣戦布告した結果――レベル93の将軍が木の棒でスライムと戦う羽目になった  作者: 出水克幸
高レベル勢の初心者街流入 ゲームバランス崩壊

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11/18

攻略記録その11 初心者用スライム、レベル74

朝。


リスタ東門の鐘は、壊れかけていた。


カァン。


カァン。


カァン。


カァン。


カァン。


「止まらない……」


門番バッツが、死んだ目で鐘を見上げていた。


昨日。


終焉都市ヴァルハラと、はじまりの街リスタは停戦した。


そして、非軍事目的の往来が許可された。


たった一晩。


噂は広がった。


《薬草、一枚八ゴールド》


《宿屋、五人で十ゴールド》


《町の外を歩いても、だいたい死なない》


《スライムがいる》


最後の情報が、意外なほど強かった。


「本当にスライムいるんですか!?」


レベル六十八の女魔術師が、子供のような顔で聞いてくる。


バッツは頷いた。


「いるけど」


「見たい!」


「珍しいの?」


「ヴァルハラ近郊で最後に見た人、たぶん二十年以上前です!」


「絶滅したの?」


「弱すぎて生きていけません」


「生態系が違いすぎる!」


その後ろ。


レベル七十三の剣士。


レベル六十五の僧侶。


レベル七十九の商人護衛。


レベル七十六の老夫婦。


家族連れ。


商人。


冒険者。


観光客。


高レベル。


高レベル。


高レベル。


高レベル。


全員、初来訪。


カァン。


《ようこそ!》


カァン。


《はじまりの街リスタへ!》


カァン。


《まずは武器を装備してみましょう!》


「お母さん見て! 褒められた!」


「よかったわねえ」


レベル七十二の母親が、レベル六十四の息子の頭を撫でる。


バッツは何も言わなかった。


リスタではもう、何をもって初心者と呼ぶのか、分からなくなり始めていた。


――――


「薬草採取!」


「取った!」


「スライム五匹!」


「取った!」


「迷子の猫!」


「取った!」


「パンの配達!」


「取った!」


「井戸掃除!」


「…………」


誰も動かなかった。


冒険者ギルド。


午前八時三分。


依頼掲示板。


残り一枚。


《井戸掃除》


ミーナは、掲示板を見た。


次に時計を見る。


そして。


「三分ですよ!?」


叫んだ。


「開店して三分!」


レベル八十一の男が、スライム討伐依頼を持って受付へ来る。


「終わった」


「もう!?」


「五匹だろ?」


「そうですけど!」


「東門出て右にいた」


「戦闘は?」


「一振り」


「五匹を!?」


「範囲に入っていた」


「初心者クエストで範囲攻撃使わないでください!」


「便利だぞ」


「知ってます!」


次。


レベル七十五の女冒険者。


「薬草三枚」


「早いですね」


「地脈探査した」


「薬草三枚のために大魔術使わないで!」


「一帯の薬草分布も分かったぞ」


「初心者が覚える『葉っぱの形を見分ける』が消滅してる!」


次。


「猫」


「見つけたんですか?」


「使い魔に空から探させた」


「あなた本人、一歩も動いてませんよね?」


「依頼は猫を探すことだろ?」


「そうだけど!」


次。


「パンを届けた」


「早すぎません?」


「転移した」


「配達で転移魔法!?」


「冷めない」


「そこだけ聞くと優秀なのが腹立つ!」


ミーナの後ろ。


新人冒険者たち。


レベル一。


二。


三。


依頼を受けるために、朝早くから並んでいた。


誰一人。


依頼を持っていない。


一人の少年が、空っぽの掲示板を見る。


「……今日、何すればいいんですか?」


ミーナの口が止まった。


「…………」


昨日。


この少年は、木人を三回叩いた。


スライムを一匹、自分の力で倒した。


今日。


その続きが、ない。


理由。


レベル八十前後の観光客が、全部やったから。


ミーナは受付台を叩いた。


「全員一回止まってくださーい!!」


ギルドが静まる。


「初心者向け依頼は!」


指を差す。


新人たち。


「初心者優先です!」


レベル七十台の冒険者たちが、顔を見合わせる。


一人が手を挙げた。


「受付」


「はい」


「依頼書に書いてなかった」


「今日から書きます!」


「受注制限は?」


「今作ります!」


「規約は?」


「今からです!」


「罰則」


「うるさーい!」


制度より、高レベル勢の処理速度の方が速かった。


――――


昼前。


別の問題が起きた。


「スライムがいません!」


新人冒険者十五人が、ミーナの前で訴えた。


「一匹も!」


「昨日までいたのに!」


「朝から三時間探しました!」


ミーナは、嫌な予感がした。


「何匹倒されたんですか?」


ギルド職員が帳簿を見る。


「今朝だけで……百四十二匹」


「百四十二!?」


「討伐依頼以外にも、観光で倒した人が」


「観光で殺さないで!」


「記念に一匹、と」


「お土産感覚やめて!」


リスタ東草原。


スライム。


ほぼ消滅。


薬草。


先日の価格差騒動で減少。


依頼。


消滅。


ミーナは、額を押さえた。


「これ……」


嫌な言葉が、頭に浮かぶ。


「初心者エリアの資源枯渇……」


「何だそれは」


背後。


グレンだった。


ヴァルハラ軍五千人の帰還整理を終え、まだガルド市長の面倒を見ている。


ガルド本人は。


《道具屋へ行ってみましょう!》


の途中である。


理由。


道具屋。


薬草売り切れ。


買う物がない。


「市長は?」


「店の前で腕を組んでいる」


「進まないんですか?」


「薬草が入荷するまで進まん」


「戦争終わったのに帰れない……」


「本人が一番怒っている」


グレンは草原を見る。


「しかし」


「はい」


「スライムがいないなら、しばらく待てば増えるのでは?」


「そうなんですけど……」


ミーナも、そう思っていた。


この辺りのスライムは、昔から不思議なくらい絶えない。


初心者が倒す。


翌日には、またいる。


それがリスタの日常だった。


「明日になれば」


ミーナが言いかけた。


その時。


地面が、光った。


「……え?」


草原一帯。


淡い光。


魔法陣でもない。


誰かの術でもない。


地面のあちこちに。


ぽん。


ぽん。


ぽん。


光の粒が生まれる。


グレンが剣へ手をかける。


「敵襲か?」


「分かりません」


光が集まる。


形になる。


丸い。


青い。


ぷるん。


「スライム……?」


新人たちの顔が明るくなる。


「出た!」


「スライムだ!」


「やった!」


一匹。


二匹。


十匹。


五十匹。


百匹。


草原中。


青。


青。


青。


スライムが、一斉に補充された。


ミーナも安堵する。


「よかった……」


そして。


一匹の頭上に、文字が浮かんだ。


《初心者用スライム》


「…………」


ミーナが止まる。


「そんな名前でしたっけ」


グレンが聞く。


「違うのか」


「普通は《スライム》です」


さらに。


その下。


《推奨レベル 70》


ミーナ。


「…………」


グレン。


「…………」


新人。


「…………」


ぷるん。


初心者用スライムが、跳ねた。


着地。


ドンッ!!


地面が割れた。


「どこが初心者用――――!?」


ミーナの絶叫。


次の瞬間。


百匹以上の《初心者用スライム》が、草原で一斉に跳ね始めた。


ドン!


ドン!


ドドン!


「逃げて!」


新人たちが悲鳴を上げる。


グレンが剣を抜く。


一匹が、新人へ向かって跳んだ。


「伏せろ!」


グレン。


一閃。


スライムが吹き飛ぶ。


だが。


消えない。


「硬い!?」


グレンの眉が上がる。


レベル七十八。


その一撃を受けて。


初心者用スライム。


生存。


ぷるん。


「本当に七十前後あるぞ!」


「なんで!?」


ミーナの前。


文字。


新しい表示。


《初心者のみなさんが快適に冒険できるよう、周辺環境を調整しました!》


「余計なことしたあああああ!!」


――――


リスタ町役場。


「説明しろ」


ガルドが言った。


怒っている。


非常に。


頭上。


《道具屋へ行ってみましょう!》


まだある。


「私に言われても!」


ミーナが叫ぶ。


「お前は詳しいだろう!」


「詳しいだけで作ったの私じゃありません!」


窓の外。


グレン率いるヴァルハラ兵が、《初心者用スライム》と戦っている。


リスタを守るため。


停戦翌日。


すでに共同防衛だった。


ポポルが、例の表示を書き写した紙を見る。


《初心者のみなさんが快適に冒険できるよう、周辺環境を調整しました!》


「親切だねえ」


「どこが!?」


ミーナが机を叩く。


「レベル七十ですよ!」


「でも」


ポポルが紙を見る。


「今、リスタにいる冒険者って」


一同。


止まる。


ヴァルハラから、大量流入。


レベル六十。


七十。


八十。


町の人口構成。


一夜で激変。


グレンが、外から戻ってくる。


「分かったぞ」


「何がです?」


「奴ら」


グレンは息を整える。


「ヴァルハラから来た冒険者にはちょうどいい」


ミーナの顔が引きつる。


「…………」


「レベル七十前後なら、普通に戦える」


「まさか」


ミーナは、窓の外を見る。


高レベル冒険者たち。


「うおおお! スライム強え!」


「楽しい!」


「久しぶりに歯応えある雑魚だ!」


「スライムなのに二発必要だぞ!」


大喜び。


その横。


レベル一の少年。


震えている。


「倒せない……」


ミーナが呟く。


「……初心者の判定」


「何?」


「この街にいる人間の強さを見て」


一呼吸。


「勝手に引き上げた?」


ポポルが感心する。


「便利だね」


「便利じゃない!」


初心者向け環境。


利用者。


高レベルだらけ。


結果。


世界。


《では初心者はこのくらいですね!》


レベル七十。


「初心者の定義が壊れました……」


ミーナが頭を抱える。


――――


午後。


緊急対策。


「ヴァルハラの皆さん!」


ミーナが、草原で叫ぶ。


「一度、町の外へ出てください!」


ざわ。


「なぜだ!」


「このスライム、皆さんのレベルに引っ張られてる可能性があります!」


「面白いのに!」


「初心者が死にます!」


「一匹だけ!」


「駄目です!」


「記念に!」


「持って帰らないで!」


高レベル冒険者を、町の外へ追い出す。


一人。


十人。


百人。


さらに。


商人。


観光客。


護衛。


なるべくヴァルハラ側へ戻す。


リスタ内。


新人中心。


しばらく待つ。


光。


ぽん。


新しいスライム。


《初心者用スライム》


ミーナが恐る恐る、その下を見る。


《推奨レベル 1》


「戻った!」


新人たちから歓声。


「やった!」


「これなら!」


少年が木剣を構える。


スライム。


ぷるん。


少年。


「えい!」


ぽこん。


スライムが、破裂した。


「…………」


少年が止まる。


ミーナも止まる。


グレンも止まる。


《経験値を24獲得しました!》


「え?」


少年の体が光る。


《レベルが上がりました!》


「えっ」


また光る。


《レベルが上がりました!》


「えっ!?」


さらに。


《レベルが上がりました!》


少年。


レベル一。



レベル四。


「三つ上がった!?」


ミーナがスライムの残骸を見る。


「待って」


別の新人。


歩いている。


足元。


小さなスライム。


ぷち。


《経験値を18獲得しました!》


「踏んだだけ!?」


《レベルが上がりました!》


「戦ってない!」


さらに。


荷車。


ごろごろ。


車輪。


ぷち。


ぷち。


ぷち。


荷車を引いていた八百屋の主人。


《経験値を16獲得しました!》


《経験値を19獲得しました!》


《経験値を21獲得しました!》


《レベルが上がりました!》


「俺!?」


八百屋。


レベル二。



レベル五。


「なんで俺が!?」


ミーナの顔が青くなる。


「弱くしすぎた……?」


世界は、高レベルすぎるスライムを出した。


危険。


高レベル勢を減らした。


再調整。


今度は。


倒されやすさを、極端に下げた。


だが。


経験値まで、下がっていない。


「経験値設定置いてきてる!」


ぷち。


《経験値を20獲得しました!》


通行人。


レベルアップ。


ぷち。


犬が踏む。


飼い主。


なぜか経験値。


「所有判定!?」


ぷちぷちぷち。


子供が走る。


《経験値を17獲得しました!》


《経験値を22獲得しました!》


「遊ばないで!」


「楽しい!」


「レベル上がる!」


「やめてええええ!」


――――


夕方。


リスタ。


異常事態。


宿屋の女将。


朝。


レベル四。


夕方。


レベル十八。


理由。


裏口のスライムを、ゴミ出し中に十二匹踏んだ。


八百屋。


レベル十四。


パン屋。


レベル十一。


門番バッツ。


レベル八から。


レベル十九。


「俺、何もしてないんだけど」


「門通るスライム全部踏んでます」


「あれ敵だったの!?」


「今日からです!」


子供たち。


軒並み。


レベル五以上。


猫。


レベル三。


「猫まで!?」


ポポル町長。


レベル九。


「僕、ガーデニングしてただけなんだけど」


「鉢植えの下に三匹いました!」


「肥料かと思った」


「生きてます!」


そして。


朝。


レベル一だった少年。


現在。


レベル十二。


少年は、震える手で冒険者証を見る。


「すごい……」


「すごくありません」


「一日で十二!」


「喜ばないで!」


「明日、もっと強い依頼受けられますか?」


ミーナが止まった。


「…………」


嫌な予感。


ギルドへ走る。


掲示板。


《初心者向け》


《スライムを5匹倒そう!》


《推奨レベル 1~5》


少年。


レベル十二。


ミーナが、ゆっくり振り返る。


「……受けてみて」


「はい!」


少年が依頼書へ手を伸ばす。


ぱちん。


弾かれた。


《対象レベルを超えています》


少年。


固まる。


「…………」


ミーナも固まる。


「もう一回」


ぱちん。


《対象レベルを超えています》


「…………」


少年の顔から、笑顔が消える。


「ミーナさん」


「はい」


「僕」


一呼吸。


「初心者じゃなくなったんですか?」


ミーナは、答えられなかった。


昨日。


木剣を持った。


今日。


初めてスライムと戦う予定だった。


なのに。


スライムを一匹倒し、何匹か踏んだだけで。


レベル十二。


初心者クエスト。


受注不能。


ミーナが、ギルドの外へ出る。


町を見る。


あちこち。


レベルアップの光。


ぱあっ。


ぱあっ。


ぱあっ。


《レベルが上がりました!》


《レベルが上がりました!》


《レベルが上がりました!》


「……まずい」


グレンが来る。


「何がだ」


ミーナは、冒険者台帳を見た。


朝。


レベル一から五。


四十三人。


現在。


六人。


「初心者が」


グレンの眉が動く。


「何?」


「減ってます」


「死んだのか!?」


「逆です!」


ミーナは叫ぶ。


「レベルが上がりすぎてるんです!」


グレンが黙る。


ミーナは、町を見た。


はじまりの街リスタ。


初心者のために存在してきた街。


その初心者が。


今。


猛烈な勢いで、初心者ではなくなっている。


ミーナは、呟いた。


「このままだと……」


夕日。


レベルアップの光。


ぷち。


また一匹。


《経験値を獲得しました!》


「はじまりの街から」


一呼吸。


「初心者が消えます」


停戦二日目。


戦争より先に。


ゲームバランスが、死に始めた。

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