第20話 長い夜。
「ふふふっ。俺も同じようなことをお嬢に言われたな。俺なんか、素性もわからない。自分が何者でもなかったからな。俺は俺でいいと言ってくれた。」
「それでさ、お前たちはこのままでいいのか?」
「は?」
「・・・・・」
「いいもなにも、お嬢が誰とも結婚しないと言ったんだ。俺はお嬢について行くだけだ。今回の事だって、エクルーズ商会の独占販売のために動いただけだ。」
「あ、そこね。」
がさがさと戸棚の奥を探したら、焼き菓子とドライフルーツが出てきた。その辺の皿に載せて、ベッドに持ち込む。
「・・・ヘイロンの弟さんはこの国の法で裁かれるから、まず救い出せない。」
「ああ。」
「こんな言い方はなんだが、弟さんは偽名を使っているだろうし、そのまま本名を明かさないほうが良いと思うんだ。もし、お前が今後もこの国で商売をする気ならな。」
カミーユ、バカなのかもと思ってごめん。
「そうだな。」
「でもお前、あちこちで弟を探しているって言ってた?マダムにちらっと聞いたんだけど。」
「・・・ああ。どっかで弟の耳に入るかなあと思ってな。」
「疑われるな。」
「・・・・・」
探し出してきた焼き菓子を食べる。さすがに王城のお菓子は美味しいな。
正直、こんな展開になるなんて想像もしていなかった。
父と、正直な商売をコツコツやってきた。今のヘイロン商会への評価はその努力のたまものだと思っている。
弟には…どう見えていたんだろうな。
俺ならもっとうまくやる、そんなふうに思ったのか?なあ、ズーハン?
「アルマン公には余計なことを言わせないで処刑するとして…。」
「・・・・・」
「俺は弟を見つけて、華国に連れて帰ることにするよ。」
「え?」
「は?」
「・・・弟は近衛騎士になっていたジスランだ。今回の英雄さ。これでどうだ?」
「ああ。なかなかいい筋書きだね。どうする?ジスラン?」
「俺はお嬢から離れる気はない。」
「そうか?割といい機会かもよ?ヘイロンは弟にゆくゆくこの大陸の商売を任せるんだろう?スーは商売の基礎は出来ているし、この国もユテイニ国も熟知してるだろう。堅物だから不正なんかないだろうし。」
「・・・・・」
「しかも、独占販売契約をエクルーズ商会とするんだ。見えてこないか?」
「は?なにが?」
・・・鈍い。この男、自分のことは見えないらしいな。
多分俺と同じぐらいカミーユも呆れていそう。こいつは、そうか、リーサの事しか見えていないんだな。なるほどねえ。
「カミーユ、お前も、覚悟しておいたほうが良いな。」
カミーユはさっき開けたシャンパンの瓶を開ける勢いだ。水じゃないんだぞ。もっと味わえ。
「覚悟って?」
「お前の兄上は、どうなるかを、だよ?」
「・・・え?」
「場合によったら、国王も。」
「・・・・・」
「腹をくくれ。お前にはアンジェリーヌがいる。そうなんだろう?」
「・・・・・」
「多分だが、その父親の大臣も動くだろう。覚悟をしておけよ。カミーユ殿下。」
「そうだな。カミーユ殿下。なんならエクルーズ商会を王室御用達にしてくれてもいいぞ。」
スー…残念な奴。




