第19話 風呂。
「思い切ってやったね。さっさと片付いて良かった。」
でかい風呂だったから、面倒なので3人で入った。臭かったし。燻製になった気分。
「ああ。弟君の思い切りの良さには恐れ入ったよ。《《たまたま》》お前たちが通りかかったのはラッキーだったな。」
「うふふっ。たまたまね。」
「そうだな、たまたま。」
「え?ああ、そういう事?じゃあ、あの女中もリーサの回し者?」
「女中?エンマだろう、侍女服だろ?」
「んいや、女中。可愛くて胸がでかくて俺好みの女中。髪が肩ぐらいの娘。」
「・・・・・」
頭を洗っていたカミーユが、びっくり眼で振り向く。
「髪は…。」
「綺麗な銀髪だったぞ。笑ったら可愛かったし、なあ、スー。俺、華国に連れて帰ろうかな。」
「お前、もう二人も嫁がいるんじゃなかったか?」
「大丈夫。あと二人ぐらいは平気。」
「ダメだよ。」
カミーユには珍しく、真面目な、真剣な声だった。頭洗ってる途中だけど。いつもはふざけたような口調だったけど、真顔だし。
「え?」
「あ、あの子はエメ公爵家の娘なんだ。」
「お嬢様かあ。でも俺、不自由させないよ?領地持ちだし。王族ならまだしも、公爵家位ならいけるんじゃない?」
「・・・・・」
カミーユ?何怒ってるの?
「あいつは、僕の婚約者だから。」
そう言って、ガシガシと頭を洗っている。
え?ああ、そうなんだ。なるほど。
「でもお前、婚約破棄したいんだろう?お嬢から聞いた。」
ザバリとお湯から上がったスーが、なんてことないように言った。
「・・・・・」
「おお、じゃあ、いいじゃない?贅沢させてやれるよ?俺。」
「ヘイロン、お前も無駄にはしゃぐな。ズーハンって誰だ?」
3人で髪を拭きながら、部屋にあるだけの酒を引っ張り出す。
カミーユはフリル付きのかわいい寝間着姿。また、こいつは…。
「リーサのとこから貰ってきたんだよ。可愛いだろう?気に入ってるんだ。」
うん。可愛い。
「それで?」
カミーユの部屋着は俺とスーには少し小さい。着替えが無いので仕方ない。もう一度あの燻製された制服を着る気はない。後で侍女に着替えを頼もう。さっさと着替えたスーが、自分の分の酒を作って飲み始めている。
「あ?」
「ズーハン、って。あの側使いを見てお前が言った。知り合いなのか?」
「・・・弟だ。」
「・・・・・」
俺の髪とカミーユの髪は長いので中々乾きそうにない。タオルをかぶったまま、やたら広いベッドに腰かける。
「じゃあ、ヘイロン商会を騙って商売していたチンロン商店てのは…お前の弟か?」
「・・・ああ。間違いないだろうな。ふっ。捕まえて見たら身内だなんてな。」
俺の弟は、二つ違い。弟の母は3番目の側室。母こそ違うが一緒に育った。父も可愛がっていた。教育も何もかも俺と同じものを与えられてきた。どこでどうなったのか、俺が正式に跡取りと決められた辺りからか…家に寄り付かなくなった。
「俺はゆくゆく、親父の跡を継いで領地も見ていかなければならないから、弟にはこっちの大陸の商売を任せようかと話していたんだ。ずっと探していた。それなのにな。チンロンなんて変な名前つけやがって。ははっ。」
スーが、グラスに酒を注いでくれた。
「僕はわかるなあ。その気持ち。」
グイっと酒を飲んだカミーユが、フリフリの寝間着姿で胡坐をかいて言った。
「努力しても努力しても追いつけない。回りはみんな血のせいにする。ヘイロンの母親は正室なんだろう?」
「・・・ああ。関係あるのか?」
「僕もさんざん言われた。兄上は出来が良かったし。僕は女中の子だったから。何でもかんでも比べられて、バカにされた。」
「・・・・・」
「回りが許さないんだよ。自分が自分であることを。」
「・・・・・」
「ずっとそう思っていた。」
「・・・・・」
「リーサがね、言ってくれたんだよ。」
・・・僕は歴史あるエメ公爵家の汚点になることは避けたかった。汚い血が混じると前の家庭教師に言われて、愕然としたんだ。アンジェリーヌだって、本当は兄上の妃にだってなれたのにって。もうさあ、自暴自棄?
突き放しても突き放しても、また笑ってくる婚約者にうんざりしていた。
次から次に女の子と遊びまくって、愛想をつかされたかった。
舞踏会でもどこでも一緒に踊らないし、エスコートすらしない。
あの子はいつも伏し目がちで、目も合わせなくなった。
アンジェリーヌが髪をバッサリ切ってしまった時には、心臓が飛び出るほどびっくりした。あの子は、僕から目をそらすのをやめたんだ。
そしたらさ、リーサが言ったんだ。
「あんたが産まれてきたときって、せいぜい3キロくらいでしょう?
あとはみんなあんたが自分で食べて大きくなってきたのよ?
ここまで大きくなったら、もう自分の物よ!」




