第21話 そしてそれから。
王城から書簡が届いた。
フラル国王から直々のお見合いの勧めだ。
エクルーズ商会フラル支店は王室御用達になり、今まで以上に繁盛している。ヘイロン商会と独占販売契約をしてから、絹を扱う直営店も出した。ユテイニ国にも逆出店した。
ヘイロン商会の窓口は相変わらずあの、ヘイロンだが。
「ああーーーー断りにくいわね。」
「リーサ様?なに?ああ、またお見合ですか?腹くくったらいいんじゃない?」
「は?」
手紙を覗き込んで、社員のマイクが笑う。
「スーは出て行ったまま帰ってこないし、国元からもいい加減にしろって会長が怒って連絡寄こしてましたよ?リーサ様ももう、25歳ですからね?」
「・・・だから!結婚なんかしないって言ってるでしょう?」
「スーもいないのにですか?」
「・・・か、関係ないわ。」
「へえへえ。」
にやにや笑いながら、マイクが自分の席に戻る。
国王から勧められた見合い相手はヘイロンの弟、ズーハンというらしい。今まで国元で修行させていたが、こっちの大陸の商売を任せるらしい。確かにヘイロン商会の持っている販売網も使えるようになり、有利ではある。
はあああ…。
気分転換に、フランシーヌの店に出掛ける。護衛はマイクに頼んだ。もちろん馬車を出してもらう。
「あらあ。お久しぶりね、リーサ様。」
「ああ。マダムもお元気そうで何より。」
「うふふっ。憂鬱そうなお顔ですこと。断り切れないお見合い話でも来ましたか?」
「・・・・・」
この人は…何でも知っていそうで怖いな。
高貴な方が直営店に来たいというので、きっちり掃除させて、一日貸し切りにする。
「お久しぶりでございます!リーサ様。」
「いらっしゃいませ。アンジェリーヌ様。お待ちしておりました。」
アンジェリーヌが背の高い侍女を連れてやってきた。
お茶を出してもらって、人払いする。
「相変わらず、似合うわね、カミーユ?」
「は?俺だって恥ずかしいんだけど?」
あのボヤ騒ぎの翌日、カミーユの部屋に朝食を誘いに行ったアンジェリーヌに、フリフリの寝間着姿を見られてしまったカミーユ。
「か…かわいい!!」
そう言って、抱き着かれてしまったらしい。まんざらでもなかったようだ。
それ以来、二人のお忍びのお出かけはドレスをお召だ。笑える。
「それで、国王直々に何の御用で?絹を見に来たの?」
「ああ。お前の見合いだけどな、今度の日曜日になった。ヘイロンの弟が乗った船がだんだん着くから。いいな?」
「はいはいはい。」
「うん。わかればいいんだ。」
「お断りしても、商売に支障はないのよね?」
「断る?まあ、会ってみてから決めろよな。」
アンジェリーヌ様の髪は短いままだ。
今はフラル国内で、王妃様の髪型をまねるのが大流行していて、街中でも短い髪の女性をよく見る。
お二人はなんだかんだと言いあいながら、アンジェリーヌ様のドレス用の絹を決めている。
「あら、この色のドレスだったら、あなたのほうが似合いそうね?」
「ば、バカかお前は!」
・・・目の毒だわ。
あのボヤ騒ぎから、いろんなことが目まぐるしく変わった。
王太子は静養のために一線から退き、王太子妃は修道院に入った。糸を引いていたアルマン公とチンロン商店の店主は処刑。アルマン公爵家は取り潰され、関わったかなりの数の家門も処罰された。
第二王子の戴冠式を待って、先国王が退位。カミーユは国王になった。
カミーユは、自分の望んでいた通り、自国を一度ぶっ潰し、大急ぎで新しい国を作ろうとしている。アンジェリーヌと一緒に。
それよりなにより…ずっと一緒にいると思っていたスーが、突然退職して出て行ってしまった。
さて、当日。
そうそう、エンマはカミーユに引き抜かれて、王城勤めになったので、自分の侍女はいない。用意していたドレスに着替える。髪は女性社員が整えてくれた。
深いブルーのハイウエストのドレス。切り替えには黒のベルベットのリボン。
さすがに、いつものスーツ姿ではな。
何だか知らないが、社員総出で見送りされた。まあねえ、上手くいけば商売がでかくなるから…。
王城の応接室を使ってのお見合らしい。国賓扱いかよ?
迎えに出てくれたエンマと話しながら、応接室まで来る。
「ここからは、どうぞお一人で。人払いがしてございますから。頃合いを見て、お茶をお出しいたしますのでね。リーサ様、頑張って下さいね?」
エンマに謎の応援をされて、応接室に踏み込む。
『初めまして、エクルーズ商会のリーサと申します。お兄様にはいつもお世話になっております。』
スカートをつまんでお辞儀した頭をゆっくりと上げる。
カーテンが開けられているので、午後の日差しで立ち上がったその人が逆光になって良く見えない。華国の正装のようだ。
『華国語、お上手ですね。初めまして。ヘイロンの弟のズーハンと申します。』
あら?なんだか心地いい声ね。
そっと差し出された手。握手ね?まあお見合と言っても商売上の事ですものね。
手を伸ばして、お相手の手を握りこもうとして…グイっと引き寄せられる。
え???
「ただいま、リーサ。遅くなった。」
「え?????」
引き寄せられた華国の服は、お香の匂いがほのかにする。良く知っている体温の気がした。
その人を見上げる。
「あ…え?」
「思ったより時間が掛かってしまった。お嬢がまだ結婚してなくてよかった。はあああ。」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、ため息までつかれてしまった。
「は?え?スー?あなた、私を置いて行ったんじゃないの!」
「そう。姫のためにドラゴンを捕まえに行ってた。時間が掛かったけど捕まえたから。俺と結婚してくれる?」
「え?何言ってるの、スー?置いていったのを許さないわよ。」
「うん。ごめん。」
「何年たったと思ってるのよ!」
「うん。急いだんだけど。」
「ずっと一緒だって言ったのに。」
「うん。ごめん。」
「帰って来るなら帰ってくると言ってくれればよかったじゃない。」
「うん。ごめんね。ドラゴンを捕まえられるかどうか、出て行ったときはわからなかったから。」
ぼろぼろと涙がこぼれる。スーが私の肩に顔を埋めている。くすぐったい。
なんと言うか…腹立たしさと、それを大きく超える安堵。
「わ、私は…。」
「うん。ただいま。リーサ。」




