第18話 笛を吹く。
早番の奴らから引継ぎをして、王太子妃の部屋のドアの前に立つ。
しばらくすると変な匂いが漂ってきて…やたら太ったアルマン公がくわえ煙草で歩いてくる。
「ん。」
弟が葉巻の吸いさしを預かり、廊下の脇に置いてある灰皿に捨てる。いつも通り。
今日も側使いがフルーツの盛籠を持ってきた。どんだけフルーツ好きなんだろうな。
いつものように開けられたドア。ご機嫌で入っていくアルマン公。
ドアが閉まったので、ちらりと弟を眺める。平常。
灰皿に入れた葉巻がくすぶって、相変わらず嫌なにおいがする。
たまに、すぐに消えずにくすぶることがあるから気にするな、とは聞いている。そのうち消えるから、と。
ん?今回の葉巻はよほど残っていたのか?
大きなお皿位の大きさの灰皿は、装飾の施された陶器製。気が付いてはいたが、華国の製品だ。足台には龍の装飾がある。チンロン商店辺りが納めた物だろう。物は良い。そこから、煙が上がっている。
「・・・・・」
弟は、俺をちらりと見て、口元だけで笑った。
え?
『そろそろいいかな?』
なにが?
弟がポケットから今日もぎ取っていた杉や松の葉を灰皿に放り込む。ちょうど立っている弟の影で、メインの廊下からは見えていない。
ぶすぶすといぶって、やがて火が上がる。そこに追加で青々とした葉を覆うように放り込む。
『今だ!』
「え?」
「火事だあ!火事です!!」
大声で弟が叫ぶのと同時位に、もくもくと煙が上がる。
笛を吹く。
響き渡った笛に、まずメインの廊下に立つ騎士が駆けつけた。突き当りになっている王太子妃の部屋の前の廊下はもう煙が充満している。弟とその騎士たちが、中々開かない王太子妃の部屋のドアを蹴破っている。
「火事だあ!」
城内に鳴り響く笛の音と叫び声。騒然としている。
「どうした?大丈夫か?」
《《たまたま》》通られた第二王子の一行が駆けつける。みんなハンカチを口に当てている。すごい煙だ。
「火事です!!早くお逃げください!」
ドアがちょうど開けられ、廊下から煙が流れ込んだ王太子妃の部屋。《《たまたま》》来た第二王子の一行と駆けつけた衛兵と近衛師団の前には…。
「これは、なんだ!!一人残らず拘束しろ。そのまま連れていけ。妃は丁寧に連れていけ。警備の近衛も同行しろ。事情を聴く。ドア前にいた当番の騎士は直接私が事情を聴く。」
第二王子が、間髪入れずにテキパキと指示を出す。
部屋の中にいた者は、次々に連れ出される。
そのまま、の指示が出たので、アルマン公や騎士の何人かと、一緒に入った側使いは、ズボンをはく暇が与えられず残念な姿だが、テンションが高いらしく、わめくだけで恥ずかしいという感じではない。
侍女たちは騎士のお情けから、上着を羽織らせてもらっているが、これもまた夢の中の様だ。上着を羽織らせた騎士を上目使いで見ている。
「・・・ズーハン?」
次々引っ立てられていく人の中に、一人、見知った顔を見つけて、動揺する。いや、そんなことは…。
王太子妃はさすがに拘束はされなかったが4人がかりで、囲まれて連れられて行った。
第二王子一行の近くに《《たまたま》》いた大臣が、部屋の中を隅々まで調べるように指示している。
バタバタしているうちに、あんなにひどかった煙がもう収まっていた。何処かが燃えた痕跡もない。部屋中、廊下中、なんなら服や髪まで臭いが。
「何をしている!!」
騒ぎを聞いて駆けつけた王太子が、指示を出していた大臣の胸ぐらをつかむ。顔が真っ青だ。目が血走っている。
「殿下、ボヤ騒ぎがございまして、部屋を開けさせたところ、中がひどい有様でして。王太子妃には不義密通の疑いがございますので、医師の所に運んでございます。取り調べはその後の予定でございます。」
「・・・はあ?誰の許可を取ってそんな勝手な事!」
「兄上、ちょうど私がたまたま通りかかりまして、煙がひどかったので急いで開けさせました。中のことは、大変残念ですが大臣が述べたとおりです。目撃者も多く、覆せませんね。私も、たまたま来ていた大臣も見ましたので。」
「・・・・・」
「妃については、議会にかけることになります。そのほか、今回拘束した者については、落ち着き次第事情聴取を始めます。今回のことは大変残念ですが、現行犯での逮捕ですので、隠し立てはできません。下手に動くと、議会に叩かれますよ?いいですね?」
「・・・・・」
王太子はもともと青白い顔を真っ白にして膝から崩れ落ちた。
第二王子が念押しして、大臣に後の処理を頼むと、事情を直接聞く、と言われた俺たちは、奴の部屋に連れ込まれた。殿下の護衛騎士がドアの外に立った。一緒にいた家庭教師と侍女と女中は隣の控室で着替えるらしい。
「まず、風呂に入ろうよ。思ったより臭いよね。」




