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第16話 葉巻。 

王太子妃の私室へ続く廊下に立って、早、2週間。

その間、2人の側付きの騎士が退職したらしい。体調が思わしくなく、意味不明なことをつぶやくようになって…。ここのところの人材不足の要因は似たり寄ったり。

人によっては、呪われているというものもいる。


「呪いねえ…。いい男限定の呪いって…。」

「俺はいい男だから心配だな。大丈夫かなあ。」

「って、自分で言うのか?お兄ちゃん?」


今日から夕方からの当番なので、少し早めだが、ゆっくり晩飯が食える。

晩飯後に、弟の部屋にお邪魔している。部屋の造りは全く同じ。違う事と言えば、甘いものがこの部屋にはないことかな。


『呪いねえ…。どう見ても薬物だな。』

『そんなことして楽しいのかな?』

『そりゃあ、自分の思う通りに王太子が動けば、何でもできるだろうしな。』

『王も、か?能力が無いとは聞いていたけど。』

『どうなのかな?どっちにしろ、もう終わりだな、この国。』

『・・・・・』


どこでどんなことがあるか分からないので、二人で華国語で話す。もちろん小声だ。


『観察したところ…持ち込みしているとしたら、王太子妃の父親あたりだろうな。』

『侍女か側付きは確認しているだろう?』

『まあ、息がかかった者が入っているんだろう。』

『でもなあ、例えば現場を押さえたとしても、俺たち切り殺されて終わりじゃない?』

『だろうな。』

『えええ!それをそんなにあっさり言うの?』

『お兄ちゃん、声でかいよ。マダムが、切り札を持たせてくれただろう?それを使うしかないだろうな。』

『切り札…ねえ。』


ため息をつきながら、暗くなりかけた窓の外を眺めた。


初めての夕方からの勤務だったが、王太子妃の私室のドアの前を任される。

今までドア前にいた騎士は、中に詰めている騎士が2名退職したため、中に入ったらしい。順番かよ?次は俺たちか?


やることは変わらない。何も見なかったことに、何も聞かなかったことに。そうすれば破格の給金が週ごとに貰える。どうも王太子妃の実家から特別手当が出ているらしく、その辺の騎士さんよりかなりもらっているようだ。


明かりが灯される頃に、アルマン公爵とその側使いが許可証を持って訪れた。手には山盛りのフルーツの入った籠。この人たちが訪れるのは3日に一度。同じ時間。そう引継ぎされた。今まで見なかったのは、夕方の決まった時間だったかららしい。


「ん。」


城内で葉巻かよ?何様のつもりだ?

そうは思ったが、アルマン公が差しだした吸いかけの葉巻をお預かりして、部屋脇に用意された灰皿に捨てる。手まで臭くなるぞ。引継ぎ通りだ。


今、上流社会では流行っているらしいな。葉巻。臭くてたまらないがな。

もちろん、本来ならくわえ煙草で城内を歩き回るなんてあり得ない。例外中の例外が暗黙の了解で認められているってところかな。


見ていたかのように、ドアが内側から開かれる。

「おお、王太子妃殿下におかれましてはご機嫌麗しく。」

猫なで声を出して、アルマン公爵と側使いがドアの内側に消える。


俺たちはほぼほぼ頭を下げたままなので、アルマン公のブクブクとした指に、ごっつい金の指輪がいくつもはめられているぐらいしか見ていない。あと、フルーツの籠な。


小一時間ほどして、ご機嫌なアルマン公が退室する。


「・・・葉巻か。」


弟がぼそっとつぶやく。


「?」






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