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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十六章 西都の大ダンジョン

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第二百五十七話


 ダンジョンの最深部。その場に相応しくない小さな書斎の中、突然シズマが倒れ込む。

 おびただしい量の血を吐き出し、崩れ落ちるように床に倒れたその姿に、メルトは慌てて駆け寄り、シーレはすぐさま臨戦態勢を取る。


「……何をしたんです。シズマに」


 射貫かんばかりの視線。殺意と焦燥の混じった瞳で、ダンジョンマスターを見つめる。

 だが――


「これは……私ではありませんよ。貴女、何か薬はありませんか? 回復魔法は? その青年、かなりのダメージを負っているように見受けられますが」


 そう、ラヴィ・リディックは何もしていない。ただ唐突に血を吐き倒れたシズマを目にし、驚いているだけだったのだ。

 だがそれでも、シーレは警戒を緩めない。そしてメルトは、自分の収納魔導具から低級のエリキシル剤を取り出し、シズマの口に運んでいた。


「ダメ、全然顔色が戻らないわ。シーレ、どうしよう?」

「私の手持ちの薬でなんとか……ですが……」


 シズマではなく、独立したシーレが持つゲーム時代のアイテムは限られている。

 故にシーレは自分の手持ちのアイテムを確認し、それが本当に効果があるのか分からないでいた。

 ましてや、内蔵のダメージが多いであろう、大量の吐血。強引に大量の薬を飲ませるのは危険だと判断していた。


「……今回は特別ですよ。お二人とも、少し彼から離れてください」


 するとその時、ダンジョンマスターであるラヴィが、倒れたシズマの元に歩み寄り、静かに彼の胸元に手を翳す。


「本来『既に渡した権能』に関与するのはルール違反です。ですが……なるほど、これは凄まじい力ですね……本来なら再現出来ないような力まで『ただの仮想遊戯の再現』という形で全て再現されてしまっています。これなら……」


 なんと、本人でもないのに、ラヴィがシズマの胸元に手を翳すとメニュー画面が現れ、それを操作し、最も効果の高い薬を選び取り、具現化してみせたのだ。


「……世の理を覆すような薬すらこんなに大量に……これは、もっと危機感を持った方がいいのかもしれませんね……」


 かつて、幾度か使用されたことのある、シズマが持つ最も高性能な霊薬。

 美しいその瓶を取り出すと、ラヴィはそれをシズマの口に含ませ、残りを身体にふりかけてやる。

 すると、見る見るうちに全身が光に包まれ、苦しそうな表情が和らぎ、口の端から漏れていた血の流れも止まっていた。


「……善性の有無に関係なく、彼はこの先も沢山の問題に直面するでしょうね。大きすぎる、そして万能過ぎる力は人を苦しめることもある。そして……容易く道を踏み外させてしまう」


 回復したシズマを見下ろしながら、ラヴィはすぐ横に座り込み、シズマの頭を自分の膝の上に乗せ、所謂膝枕の状態にしてやる。

 どこか憐れむように、警戒するように。それは、これまでシーレやメルトが見てきたダンジョンマスター達とは全く異なる姿に見え、二人は困惑する。

 だが、シズマを救ってくれたことを思い出し、二人は彼女に礼を述べた。


「あ、あの! シズマを助けてくれてありがとう!」


「……感謝します。しかし他人が干渉出来るものではありません、本来その力は。それが出来てしまう貴女を、私はどうしても警戒してしまいます。ですが……本当にありがとうございます」


 向けられる感謝が嬉しかったのか、ラヴィもまた微笑みながら――


「どういたしまして」


 そう返したのであった。






 身体が、温かかった。

 腹の奥が、肺が、胸が、じんわりとした温かさに包まれていくような感覚がした。

 頭の奥に蔓延っていた痛みの原因が、分解されていくような感覚。

 そして、首のあたりから後頭部にかけて、柔らかく、温かなものが触れているのを感じた。

 目に力をいれ、ゆっくりと瞼を開く。


「ん……」

「起きましたか? 気分はどうですか?」


 窓から入る日差しに目がくらむ。が、次第に声の主の姿がはっきりしとしてきた。


「どわ!」

「おっと」


 何故か、このダンジョンマスターの膝枕で目を覚ました俺は、大急ぎで飛びのき、若干の警戒心を抱きながら視線を向ける。


「な、なんですかあんた!」

「シズマ! その人、シズマを助けてくれたのよ?」


 その時、側にいたメルトが、ぷりぷりと怒ったように知らせてくれた。

 俺が? 助けられた? 彼女に?


「シズマ、貴方は吐血と共に気を失っていました。正直、回復する手段を持ち合わせていませんでした……その方が、シズマのメニュー画面に介入し、最高級の霊薬を取り出し使用してくれたのです。それでなければ、恐らく助かりませんでした。一体、どうしたというのです……何か心当たりはないんですか?」


「え……俺が死にかけ……? いや、メニューに関与……?」


 警戒度が一気に跳ね上がる。ここは、絶対に安全な領域だと思っていたのに、それに関与できるなんて……恐怖でしかない。

 だが、当の本人であるダンジョンマスターは、ただ穏やかに笑みを浮かべているのみだった。


「私が貴方に関与するのはこれが最初で最後です。せっかく、ダンジョンを踏破した他世界の存在を、ダンジョンに関係ない理由で死なせるなんて不本意でしたから。それに……貴方は、良くも悪くも世界を変える可能性があります。きっと、楽しいことをこれからも起こしてくれそうですから」


 そう言いながら、彼女は元々座っていた椅子へ向かう。

 俺が……世界を変える?


「どういうことだって聞いても、無駄なんでしょうね?」


 ダンジョンマスターだとしても、恩人であるのなら。二人が、この女性に敵意を抱いていないのなら。俺も、一定の敬意を払うべきだろうと、敬語で接する。


「そうですね、教えられませんね。ただ、少なくとも貴方達はこのダンジョンを、大いに盛り上げ、短期間でクリアし、大勢の人間に恐怖されていた相手を打ち負かし、これ以上ないくらい観衆を沸かせました。今回のことはそうですね『盛り上げたご褒美』とでも思っておいてください。さて、ではダンジョンコアをお渡ししますね」


 気になることはあるが、これ以上の追及は無駄だろうと、そして俺自身、この人を詰問する気は起きなかった為、大人しく彼女に従う。

 すると彼女は、立派な書斎机の引き出しから、美しくカッティングされたオーブ、随分とこれまで見てきたオーブよりも手の込んだ意匠のそれを取り出して見せた。


「踏破する人間が久しく現れなかった為、多くの力が込められ純度が高まったコアです。どうぞ、こちらをお持ちください」


「……確かに」

「わー! 凄く綺麗! 今まで見てきたコアと色も違うね!」

「確かに……今までは赤と黒、渦巻くような、どこか脈動するような、そんな印象を受けましたが」


 今回俺が受け取ったダンジョンコアは、青と緑の光が、まるで溶け合っては別れるようような、そんな不思議な輝きを放つ、宝石のような品だった。




『幻影遊戯の地下迷宮のダンジョンコア』


 極めて大規模な直系ダンジョンが作り上げた超高純度なダンジョンコア

 人々の命の輝きや嘆きや絶望ではなく希望や楽しみを吸収して生み出された

 本来負の感情の方が成長が早いがそれを良しとしないダンジョンマスター願いの結晶




 どうやら、本当にこのダンジョンマスター……ラヴィ・リュディックは善性の高い存在のようだ。だが、甘くはないのだろう。ダンジョンマスターの存在の秘密、この世界の秘密、関与しているであろう、上位世界の存在などを聞いても、決して教えてくれない、そんな気がするのだ。


「確かに受け取ったよ」


「有効活用してくださいね。国に売り払うもよし、どこかに持ち込むのもよし。ただ、どちらにしても気を付けて。貴方達がダンジョンコアを手に入れたのはみんなが知るところなのだから」


「そう……ですね」

「そっか、中継されていたんだもんね」

「恐らく、シズマの強さも周知されたでしょうね。シズマ、それより先程の症状について、何か心当たりは本当にないんですか?」


「あ、そうだね、教えないとね。……まぁ、これまで複数の補助を重ねがけしてきたけれど、それをまとめてかけられるようになった……かな? ただ、これまで以上の効果と……副作用がある。たぶん、さっき俺が倒れたのは副作用だよ」


「っ! なら、今後は使わないでください」


「いや、他の補助が消えた以上、今後も使うよ。副作用は俺の成長に応じて弱くなるそうだし、今回のことで学習したからね。予防は出来るはずだ」


 正直、副作用を舐めていた。だがここまで深刻だと分かれば、今後は自動回復の薬を事前に服用したり、薬をシーレやメルトに渡しておくことで対処可能なはず。

 ……正直、あの力を自重するのは惜しい。俺は使える力は全部使いたいんだ。少なくとも周囲に危害を与えるような力でないのなら……。


「……どうやら、原因が分かったようですね。では、今後の活躍を期待しますね。お帰りの際はその扉をくぐってください。行き先を変更しておきましたよ」


「おー! よかったー、私またあのなっがーーい廊下を歩かないといけないのかと思った!」

「ふむ、どこに繋がっているんですか?」


「ギルドの専用出口ですよ。踏破した人間は皆、ダンジョンの入り口ではなく、ダンジョン最寄りのギルドの専用出口から出るようになっているんです。中継を見ていた人間に祝福される為に」


「はは……ちょっとした騒ぎになっちゃいそうだな……」

「ええ。しかしそれだけの活躍を貴方達はしましたから」


 仕方ないと、必要経費だろうと、俺達は覚悟を決め、帰ろうと背中を見せる。


「……お疲れ様でした、三人とも。また……いつか挑みにきてくださいね」


 最後にかけられた言葉を聞き届け、扉をくぐる。

 振り返ろうと思ったが、そこにはもう書斎の姿がなく、見慣れない閉じた扉があるのみだった。

 そして次の瞬間――


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「すげえええ! 新たな踏破者、いや……王者の帰還だ!!!!」

「すげえぞ!!!!! おい若ぇの、お前本当にすげぇぞ!!!」

「マジで瞬殺しやがった! あのアンガレスを! お前どうなってんだよ! 信じられねぇ!」

「見くびって悪かった! あんな達人技見たことねぇよおれぁ!」


 爆発したかような歓声に包まれたのであった。

 そう、ここは本当にギルドの本部、俺達がよくお邪魔する休憩スペース、その一角にある扉の前だったのだ。

 ここが、ダンジョンの出口と繋がっているのか……が、こちらから扉をもう一度開いても、そこには壁があるだけ。やはりもう戻ることは出来ないようだ。


「うひゃー! すっごい人の数ね! みんなー! シズマ勝ったよー! 凄いでしょー!」


 メルトが自慢するように、無邪気に周囲にそう言うと、一斉に皆が盛り上がる。

 さすがにここまで騒がれると、ちょっと……困る。


「……これは、早々に都市を出た方がいいかもしれませんね。コアを欲しがる存在は今、この国には多いみたいですし」


「……そうだったね。メルト、急いで帰ろうか」

「え? これ飲んでから!」


 すると、メルトはいつの間にかギャラリーから奢られたジュースを美味しそうに口にしていた。

 俺達にも勧められるのだが……まぁ、一杯くらい付き合うべき、なんだろうな。

 心配をかけたのだし。


「シーレ、一杯だけ付き合おうか」

「そう、ですね。仕方ないですね」


 そうして、大勢の探索者に歓迎されながら、俺達はダンジョンを走破したという喜びを改めて噛みしめたのであった。






「……いやぁ飲まされたね」

「お腹がぽよぽよよー!」

「二人とも、乗せられすぎですよ? もう辺りも暗いですし、都市を出るのは明日にしましょう?」

「もう出ちゃうのー? まだまだいっぱい楽しそうなところ、ありそうなのになー」


 ついつい探索者達の歓待から抜け出す機会を失った俺達は、ようやくギルドの職員に解散するように警告され、帰路についた時にはもう、辺りは茜色に染まっていた。


 本当はもう少しゆっくりこの都市で過ごしたかったのだが、シーレやあのダンジョンマスターも言っていたように、今ダンジョンコアは狙われているみたいだからな。

 俺達も、早急に次の都市に移動した方が良いだろう。


「次は確か……南の都市に向かうのでしたよね?」

「そうなの? 南の都市ってどんなところなのかしらねー?」

「名前は『南都サリザダバン』だね。ここにも大きなダンジョンがあるって話だよ」

「へー! なんだか楽しみね、この国の都市って! また不思議なものがあるのかしら?」

「そうですね、かなり文明、文化が進んだ国のようですし、期待出来ますね」


 俺達は、そんなまだ見ぬ都市に思いを馳せながら帰路につく。

 南都か……スティルとは逆の都市だが、向こうも向こうで、何かするつもりなんだろうな。

 ……確かこの都市の南門から街道に出て、帝都に向かう峠を途中まで進んで、そこでさらに分岐路で南下する方を選べばいいはずだ。


「楽しかったねー、このおっきな街。動く絵とか、じっくり見る方になってみたかったなー」

「そうですね、私達は映る側でしたもんね」

「もしかしたら、次の都市にもあるかもしれないね」


 だが、もしかしたらもう、そんなにゆっくり観光を楽しんでいる余裕なんてないのかもしれない。

 明日、朝一番で探索者ギルドに昇級の申請を行ったら、そのままこの都市を出た方がいいだろうな。

 俺達は、今夜のうちに貸家のオーナーに『明日、都市を出発するので、今週いっぱい分の料金を支払っておきます』と伝えに行き、借家の中を掃除して明日に備えたのであった――




 翌朝。まだ日が昇り切らないうちに借家を出た俺達は、ギルドに向かい昇級の手続きを行った。

 さすがギルドは二四時間営業ではあるのだが、こんな早朝だと職員の皆さんも若干、目に疲れの色が見てとれた。


「おはようございます。俺達のパーティ全員の昇級申請をお願い出来ますか?」


「! おはようございます、シズマさん。お三方の昇級ですね? かしこまりました、申請しておきます。それで……コアの買い取りについてなのですが……」


 やはり聞かれるか。この国のギルドがどこまで『国に対して従順なのか』まだ分からない以上、あまり波風は立てたくないんだよな。かといって売るという選択はないのだが。


「すみません、それは他の仲間と相談して決めますので、今は保留でお願いします」

「畏まりました。では、お三方の昇級の申請だけしておきますね」


 さて、恐らく遠からず国の人間にも俺達のことは伝わるはず。

 ランク次第で貴族と同等の身分を与えるなんて制度があるんだ、これは間違いない。

 俺達は手続きを済ませると、早々に外に出て、自分達の馬車に乗り込んだ。


「ふぅ……じゃあ、南門から街道に出ようか」

「了解です。この時間なら往来も少ないですし、安心して都内を進めますね」


「なんだか今日、少しお空が曇っているねー? 途中で雨が降り始めちゃうかもだから、早めに出て正解だったね」


 今日の御者は俺だ。メルトの言葉に空を見上げれば、確かに灰色の雲が、遠くの空で広がっているのが見えた。

 メルトに客車から頭を出すのを止めるように言い、馬車を走らせる。


 やがて、俺達はこの情報伝達技術が発達し、娯楽や服飾が住人を楽しませる、今までで最も近代的な都市『西都リーゼネーヴェン』を後にしたのであった――

(´・ω・`)現在、書籍版二巻が発売中です。

今回はすぐになくなりそうなので、購入を検討中の方はお気を付けください。


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