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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十六章 西都の大ダンジョン

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第二百五十六話

『ああ、これがそうなのか』目の前に危機が迫る中、俺は不思議と落ち着いた気持ちで、自分の頭に浮かんだ言葉の意味を理解する。


「ぶち死ねガキがあああああああ!!」


 腕がどの軌道で振るわれ、自分のどこに触れるのか。

 その暴力の流れを、どうすれば自分から逸らすことが出来るのか。

 力の流れが、暴力の意思が、相手の思惑が、脳に正確な情報として蓄積されていく感覚。


 今、理解した。これが……これが『ルーエの見ている世界』なのだと。

 あらゆる武を網羅し、使いこなし、戦闘術の全てを理解した超越者の視界なのだと。

 迫る腕を。爪の先から赤黒い、磨き抜かれた宝石のような刃を生やしたアンガレスの腕を、俺はそっと動きに合わせるように手の平を重ね、優しく力を加える。


「っ!?」


 こちらを切り裂くはずだった攻撃が、紙一重で外れる。

 続く連撃が迫るも、それが来ることを予測していたかのように、ゆっくりと流れる時間の中、余裕をもってその連撃を、最小限の動きで回避する。


 通り過ぎた腕の、肘の部分に『トン』と軽く弾みをつけて、自分の親指で突いてやる。

 力の流れ、込められた力み、それらが作用し、信じられないほどあっさりと、アンガレスの左腕の肘が壊れる。


「なあああああああ!?」


 だらりと、振り回した慣性で、外れた前腕がぶらりと関節の可動域を無視して揺れる。

 関節の外れた腕には、とてもよく、綺麗に、刃が入る。

 抵抗なく、アンガレスの前腕が斬り飛ばされる。

 骨の抵抗が一切なかった。一瞬の攻防で、アンガレスの右前腕が失われる。


「あああああああ! クソが! おめえ、マジで!! ざけん――」


 絶叫を上げる為に力んだ腹筋に、剣の柄を打ち込み、怯んだ隙に自分のもう片方の拳を鳩尾に深く突きさす。

 相手の呼吸が止まる。絶叫が中断される。

 大きな口を開け、目が見ひらいたアンガレス。

 一瞬止まった動きに合わせ、俺は――剣を振り抜き、両目を深く切り裂いた。


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

「……ふぅ」


 一瞬の攻防。その一瞬で、全てが終わる。

 脳内に、快楽物質が放出されているのが分かる。これは、ハイになるってやつだ。

 叫ぶアンガレスに言葉をかける。


「じゃあ、今から切り刻む」

「ふざけんな! くそが! くそが!」


 片腕から大量の血をまき散らしながら、出鱈目に腕を揮う。

 既に完全に視力を失っている両目から血を流し、まるで泣いているかのようなアンガレス。

 戦意未だ衰えず、か。


 剣を振り上げる。

 背後から聞こえる制止の声を、片手で制するようなジェスチャーをする。


「降参しないな? いいんだな?」

「殺す! そこか! そこか!! そこがあああ!!!」


 掴みかかろうと、ない方の腕をこちらに向ける。

 冷静な判断を既に失っている様子だが、どうにもこの試練の間は……まだ試合終了とみなしてくれはしないようだ。


「……降参か戦闘不能じゃないとダメか」


 俺は、暴れるアンガレスに合わせ、カウンター気味に次々と剣を叩き込む。

 無論、刃を立てて。

 残った腕から、手首が消し飛ぶ。

 暴れる膝を蹴り砕く。

 床に崩れ落ちたアンガレスに、俺は――


「まだ試練は終わらないのか。ならもう……殺すしかなくなっちゃったじゃないか」


 最後の一撃を、振り下ろした――――




『試練終了。片方のパーティが戦闘不能となりました。敗北者を送還します。勝者は最下層へお進みください』




 強く、強く息を吐く。完全に動かなくなったアンガレスの身体の下に現れた紋章が、ヤツをダンジョンの外に転送したのを見届ける。

 これで、本当に試合終了だ。


「……最後の一撃で殺さなかった俺を褒めてやりたいな」


 俺は、最後に振り下ろした剣を、直前で少し捻り、刀身の腹でアンガレスの首を叩いたのだ。首が折れても不思議じゃない一撃。

 だがそれでも、消える直前のヤツの胸は、浅く上下していた。

 生きているのだ。だが……『今この都市にあるのはメルトの作った低級のエリキシル』くらいだ。つまり……あの重傷を癒すことは出来ないのだ。


 時間の経った重傷を癒すのは難しい。つまり、あいつはもう廃業……少なくとも『強者として生きていくことが出来ない』というわけだ。


「ふぅ……勝ったよ、二人とも」

「凄い……シズマ、凄いよ!! 今までで一番すごい! 私、なにをしたのか分からなかった!」

「今の動きは……明らかに今までとは違っていました……どういうことなんです?」


 メルトの純粋な賞賛と、シーレの喜びに混じる疑問。

 俺にも上手く説明できないけれど、ひとまず『シレントとルーエとの訓練の成果が現れた』とだけ彼女に言うと、少し考え込んだ後に――


「なんらかの副作用があるのではないですか? ここまでの強化……普通ではありません。ゲーム時代のとはまた違う、異質なものを感じました」


「んー……たぶん正解だと思う。補助の効果もあったんだと思う。でもそれ以上に……『人類の限界』と『ゲームのキャラクターの限界』を宿したような、そんな感覚だった。それに……」


 圧倒的な、倒錯感。快楽。加虐性。それを、確かに感じた。

 俺はあの時確かに、アンガレスを『壊すのが楽しかった』のだ。


「二人ともー! 階段出てきたよー! 先に進もー?」

「おっと! そうだった、先に行こうかシーレ」

「ええ、そうですね。ここが最終試練なら……先はもう、ダンジョンの終着点なのでしょうか?」

「かもしれないね。なら、ダンジョンマスターもいるかもしれない」


 なら、殺すべきか? だが、これまで都市と共存し、歪ではあるが娯楽を提供していたという側面もある。

 もし、邪悪な存在でないのだとしたら……ここでダンジョンを消滅させるような真似をするのは悪手、か?

 どんな相手が出てくるのか。それを想像しながら、階段を下っていく。


 階段を下ると、まるでどこかの建物の中のような、特別豪華でもない、ただの長い廊下が続いていた。印象としては、それこそどこかのお屋敷、グローリーナイツのクランホームに近いと感じた。

 上品で、程良く風格があるが、相手を委縮させない。だが、その廊下が果てしなく続いているという事実に、少しだけ俺達は驚いていた。


「すっごく長い! ダンジョンっぽくない! 敵の気配もしないわねー?」

「そうですね……シズマ、どうですか?」

「俺の『神眼』でもただの廊下って出てるね。本当にただ長いだけの廊下だ」


 果てが見えないくらい、同じ景色が続く廊下。白い壁に板を張り付けたような、こぎれいな廊下。

 薄緑の絨毯がどこまでも続き、視界の果てまでただただ続いている。

 進みながらも時折、これが何かの罠なのではないかと後ろを振り向くも、そこには前方と同じように、俺達がひたすら歩いてきた廊下が続くのみ。


「……むむ! 空気の流れが変わった!」

「本当ですか? 私は何も感じませんが」

「本当よ、きっともうすぐゴールね!」

「お、ついにか」


 彼女の言葉に少し歩みを早めると、ついに廊下の果て、この内装に合った木製の扉が待ち構えていた。

 ダンジョンの中だというのに、俺はその扉をノックする。


『入ってください』


 女性の声だった。穏やかな、敵意や何か裏の意図を抱えているかのようなものではない声。

 声の主がダンジョンマスターなのかと疑ってしまう、そんな声色だった。

 ドアノブを捻り、相手の声に触発されたかのように、静かに扉を開く。


 そこは、小さな書斎だった。

 部屋に対してやや大きな、立派なアンティーク調の机。

 そしてその机に相応しい豪華な椅子には、一人の女性が静かに腰かけ、こちらに向かい、優し気な視線を向けていた。


「ようこそいらっしゃいました。まずはダンジョン踏破、おめでとうございます」

「え、ああ……ありがとうございます」

「ありがとうございます。これで踏破……なのですか?」

「貴女がダンジョンマスターなのかしら? 戦うのかしら?」


 薄い、水色の髪を伸ばした女性だった。

 種族は人間にしか見えない。年齢も二十代中頃、本当にただの女性にしか見えない。

 ここはダンジョンの奥深くのはずなのに、書斎の窓から差し込む日の光が、彼女の淡く美しい色の髪を、キラキラと輝かせる。


「戦いませんよ。ダンジョン踏破の報酬であるダンジョンコアは、このダンジョンが生み出したものを使いますから。私を倒しても……恐らくコアは現れないでしょう。全ての力がダンジョンに流れるようにしていますからね」


 なんとなく、その言葉が嘘ではないと感じた。

 俺は再び『神眼』を発動させ、ここにいる女性の詳細を調べる。




『ラヴィ・リュディック』


 極めて異質な存在。

 ダンジョンマスターであると同時に統括組織『クオンタムゲイザー』の幹部。

 あらゆる外世界を視認し知識を取り入れているうちに人と娯楽を愛してしまった。

 極めて強力な権能を持ち本来であれば――――「覗き見はダメですよ?」




「な!?」


 突然、確認していた相手の情報に、彼女の言葉が割り込み表示され、思わず目を離す。

 声の主を見れば、この女性……ダンジョンマスターの『ラヴィ・リュディック』が、こちらをどこか楽しそうに見つめていた。

 ……怒っていない、のか?


「なるほど……随分とよい力を授けられたようですね。さもすれば……私達の領域に近づけるような強大な力を。与えたのは……フェルシューラー辺りでしょうか?」


「……いや、違う」


 俺は、海底へ向かうダンジョン『大地蝕む死海』のダンジョンマスターの名前を出され、咄嗟に否定してしまった。

 なんとなく……理由は分からないけど。


「そうでしょうね、あの子がこんな力を無暗に渡すとも思えませんからね。別に責めるつもりはありません。力を渡したこちら側に非があるのですから」


「……俺が、力を与えた存在を既に消滅させたとしても?」


「……ええ。私達ダンジョンマスターは、別に人間の敵である必要はありませんから。それこそ、貴方のように力を与えた人間に消滅させられるリスクもありますし。殺された者は自業自得です」


 そう言いながら、彼女は微笑んだ。

 ……よかった。正直、得体が知れない相手と今ここでやり合うのはごめんだ。

 ほっと息を吐く。だが次の瞬間――――


「ん……んぐ……ごふっ……」


 突然、胸が苦しくなり咳き込むと、喉から何かが溢れ出し、口から零れ落ちた。

 見るまでもなく、血の味が口内に広がり、意識が、遠くなる。

 目が、瞼の裏を見た気がした――


(´・ω・`)本日書籍版二巻が発売されます。

恐らく店頭ではほぼみかけないと思いますので、見つけたらラッキー程度に思ってください。

通販サイトでの購入がメインになるかもしれませんが、そちらも限りがある状態です。

コミカライズ次第です、今後は。もう自分の頑張りだけでどうこうできない状態です。

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