第二百五十五話
(´・ω・`)二巻の発売まで残り一日、明日発売です。(店頭に並ぶまでラグがあるかもしれませんが。
「では、頂きます」
スティルが優雅にティーカップに口をつけるのを見届け、俺も口にする。
新たに用意された湯は適温で、最高の状態の一杯を堪能するも、ここが裏通りにある場末のバーだということを思うと、なんだかミスマッチで笑えてくる。
華やかな香りで喉を湿らせ、温め、これから長くなるであろう会話の準備を整える。
あと三日でこの都市を離れるそうだが、それに関する報告だろうか?
「我が主。早速本題に入らせて頂きます。現在、私が北都に移動するという情報は既に一部業界に顔の効く貴族のご婦人にも出回っているようです。つまり、こちらも上の人間とのコネクションを築きつつある状態です。そこで耳にした話なのですが、やはりシズカは既に帝都入りを果たし、直近での目撃情報は貴族外……それも、最低でも伯爵以上の爵位がなければ入れない、上位貴族の住まう区画で目撃されたようです」
「やっぱり皇帝の次男がバックにいるのが確定した訳か。そこにあるんだろ? その次男の屋敷も」
「そうなります。ですが、面会場所に自分の屋敷を選ぶとなると、まだ皇居や城に入れるほどの信頼を勝ち取っていない証拠でもあります。まだ、付け入る隙はあるでしょうね」
スティルは、以前与えてくれた情報の追加内容を知らせに来てくれたようだ。
まだ、か。だがもしもシズカの力が有用と分かれば、間違いなく城に召し抱えられ……いや、妻や妾として囲われる可能性もある、か。
むしろ、そちらの方が『本業』ですらあるのだから。
「まぁ、本題ではあるのですが、実はもう一つお知らせしておきたい話があります。こちらの方が私としては優先度が高いですねぇ……」
が、どうやら話はここで終わらないらしい。
十分に有用な、重要な報告はなされたと思ったのだが。
「ここのバーなのですが、探索者区画で放送されている内容をこちらでも視聴出来るんですよ。なので、様々な情報が入ってきています」
「おいおい、それって危ない橋渡ってるんじゃないのか? 大丈夫かこの店」
「ええ、しっかりと違法視聴ですとも。まぁ……お陰で良い情報が得られました」
違法視聴……昨今、あまり聞きたくないワードではあるなぁ。
そして、スティルは続きを語る。
「我が主の活躍は聞いています。そして……恐らく最終試練で競うことになるであろう相手についても。是非、お耳に入れておきたいと思った次第です。興味ありませんか?」
「な……アンガレスの情報だと? 聞かせてくれ。あいつが『変異亜人』と呼ばれる特殊な人間なのは知ってるんだ。だがその具体的な情報を知らない」
「おや、そこまでは調べていたのですね。では、こちらが調べた内容をお教えします。ご存じの通り、この国は隣に獣人の国である『シジュウ連邦国』があります。当然、言い方は悪いかもしれませんが『交雑種』のような、様々な血が混ざった人間も生まれます。無論、本来妊娠の確率はとても低いそうですが。ですがそれでも、時折子供が出来ます。そして中には……『自分に混ざっている様々な血のいいところだけ引き継いだ当たり個体』も誕生するそうですよ」
それはなんだか、動物の品種改良を思わせる内容だった。
獣人の中にも、当然それぞれ得意分野がある。それは魔術であったり腕力であったり、俊敏さであったり気配察知能力であったり。
そして、それらの素養を引き継いだ普通種の人間やエルフ……この場合は交雑したのでハーフエルフが生まれることもあるそうだ。
「アンガレスと呼ばれるあの男は、何代にもわたり、様々な種族の中から優秀な血を取り入れて品種改良された、人工的な『上位種族』と言えるでしょうね。その根底には『かつてシジュウ連邦国との戦争で煮え湯を飲まされた上位獣人に対抗する為』という目的があったそうですよ。皮肉なものですね、実際にあの男は、かつて小狐さんを下したこともあったとか。本当に天然の上位獣人を越えているようですねぇ」
「……今のメルトなら分からないぞ。彼女は今も成長している。そしてこれからも、加速度的に」
「そうですね、失礼しました。ともあれ……アンガレスは特異な存在です。それだけは留意してください。気配察知も、魔力の扱いも、純粋な身体能力も、恐らくは主より上。しっかりと補助をかけた上で、短期決戦を意識してください」
「ありがとう。ふふ、なんだか面白いな。スティルまでルーエやシレントと同じことを言うんだから。安心してくれ、もう既にあの二人と訓練に入ってる。勝つさ、必ず」
スティルは結局、俺の為に情報を集めてくれていたのだ。
……そうか、人工的に生み出された、上位の種族か。
メルトを下した以上、それも納得、だな。
「スティル、感謝する。お陰で気合いが入ったよ。シズカの件も知らせてくれてありがとう」
「いえいえ。私はもう明日から忙しく、主の戦いを観戦することも叶いませんが、ご武運をお祈りします」
「ああ、気持ちだけで十分だ。スティル、そっちも気を付けて。最悪の場合、内乱になってしまうだろ? 信者を集めてシズカにぶつけるとなると。そうならないようにこっちも動くさ」
「ええ、そうですね。そうならないよう、我が主には頑張って頂かないといけませんねぇ……」
「さて、じゃあ俺はそろそろ行くよ。支払いはまかせろー」
「残念、この世界にはマジックテープの財布はありませんからねぇ」
なんと通じてしまった古のネットミーム。
俺は支払いを済ませるも、スティルはもう少しだけここで一人で過ごすと言うので、そこで彼と別れ、帰宅したのであった。
そして、さらに日にちが経過し、試練が開始される日となった。
予定時刻は正午からだそうだが、その二時間前には家を出て、三人で探索者ギルドに向かい、本日の試練に参加する旨を報告する。
「了解致しました。まだもう片方の挑戦者は来ていませんので、先に向かい待機していてください」
「分かりました」
ギルド内で今から向かう旨を報告しに行くと、今日のことを知っている他の探索者達が、休憩スペースではなく、受付のある一階に集まっていた。
俺が、俺達が今日ここに来るかどうかを見守っていたのだろう。
そして――
「なんで……なんで来やがった……忠告したはずだ。いいか、今日は行くな。あいつは……アンガレスは……少し前に、国の要請である船に乗った。他の探索者も一緒にだ」
「……ああ、俺の知り合いも一緒に乗った。なんでも『無事に帰国すれば白金ランクだ』とか言われていたんだってよ……」
「知ってる、あれだろ『ホワイトレーベル』って探索者クランの連中だよな。あれ、メンバーの七割が参加して、帰ってきたの半数以下だったらしいぜ。全員、アンガレスにやられたって話だ」
記憶を掘り起こす。そうだ……確かヤシャ島には、アンガレスが船の上で訓練する為の相手として、探索者の一団を同乗させていたという話だ。
そして……大多数の人間が助からず、途中で船から海に遺棄されたのだと。
「あいつは『赤い衝動』に囚われた狂人だ。噂の『ヴェイルクラメルの子供達』の生き残りだって話だ。おい兄さん、本当に悪いことは言わねぇ、殺されるくらいなら試練を後回しにしろ」
初めて聞く『ヴェイルクラメルの子供達』という言葉。
恐らく、これがスティルの言っていた、特殊な人間を人工的に生み出す施設、組織の名前なのだろう。
「ご心配感謝します。ですが……勝手にこちらのことを見定めないでください。勝ちますよ、俺は」
「っ! なら、勝手にしろ……だが忘れるな、アンタ達はパーティなんだろ。後ろの二人の嬢ちゃんのことを守る義務が、リーダーのアンタにはあるんだ。それだけは忘れるなよ……」
本当に心の底から心配してくれているであろう探索者の皆さんに見送られながら、俺達はダンジョンへと向かう。
そして――再開の転移紋章から俺達は、二つ目の試練の間……ダンジョン踏破手前の、最後の試練の間に戻ってきたのであった。
「相変わらずコンクリうちっぱなしみたいな殺風景な場所だね……相手はまだ来ない、か」
「シズマ、戦いになるのって本当なのかしら? シズマが戦うんだよね?」
「そのつもりだよ」
メルトが、心配そうな表情を浮かべながら問いかけてくる。
それに答えながら……俺は、全ての補助を発動していく。
『サイレントウォー』
『戦闘中自分が出す音を消し隠密性を高める』
『次の一撃が確定でクリティカルになる』
『音を出す行為で敵に気付かれ難くなる』
『クリムゾンハウル』
『威圧的な咆哮と宣言で相手を委縮させ動きを鈍らせる』
『自身の攻撃力をランダムで強化(最大九倍)』
『使用後最初の攻撃にのみ適用される』
『ラピッドステップ』
『移動速度と攻撃速度を100%上昇させる』
『使用後の攻撃回数を一度だけランダムで上昇させる(最大九倍)』
『傭兵の流儀』
『爆発系の罠を使った際の効果を上昇させる』
『また不意打ち時に与えるダメージが100%上昇する』
『ウォークライ』
『敵の注意を自分に引き付ける』
『防御力40%上昇+防御力の現在の値を攻撃力に加算する』
『オスティナート』
『自分を含む周囲の味方に掛かっている補助効果をさらにもう一度重ね掛けする』
『効果は攻撃一回分のみ』
『エンペラーアイ』
『遠距離攻撃の威力とクリティカル威力を1.5倍にする』
『また必中効果と追尾効果を一度だけ付与し射程を延長する』
『使用者の能力が条件を満たした為スキル融合を開始可能』
『融合を開始しますか?』
「なんだ、これ」
俺は、突然勝手に表示されたメニュー画面に驚くも、【神眼】【初級万能魔法】【ウォリアーズハイ】【食繋者】を習得した時のことを思い出し、スキル融合を許可する。
やっぱり、これはゲーム時代に未実装だった項目や機能まで、この世界では実装されているということなのだろうか?
『ウォリアーズスイート』
『極限まで己の力を引き出す秘儀』
『全ての事象を最善に転化させる運命を背負う』
『故に敗北は運命を狂わせることに他ならない』
『負けが許されない最強の自己強化の極み』
『副作用として使用中の精神汚染に加え使用後一時間で肉体にダメージが現れる』
『使用者の能力次第で副作用は小さくなる』
「……なるほど、これは……補助をかける作業が楽になるってことなのかな」
様々なスキルが相互に干渉して、驚異的な倍率になっていた俺の一撃。
だがそれが、スキルの合成で逆に弱くなるとは考えられない。
それに新たに副作用まで現れてしまったのだ、せめて効果はこれまで以上だと思いたいが。
俺は、今憶えた『ウォリアーズスイート』を発動させ、全身に力がみなぎるのを感じる。
目に、頭に、血が激しく流れ込むのを感じる。手足全ての関節に、力がみなぎってくる。
思考が、クリアになっていく。入ってくる情報の量が、飛躍的に増えてくるのを感じる。
「……シズマ、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよシーレ。メルトも心配しなくていい。……そう長くかからないよ、この戦い」
そう、二人を安心させるように言った次の瞬間だった。
室内に新たな声が聞こえてくる。
「あれれー? それってどういう意味っすかねぇー? なんだよ、到達者現れたのかよ。めんどくせー……魔物一匹だったらよかったのに、三匹に増えちまったなー」
それは、いつの間にかこの試練の間に現れたアンガレスの言葉だった。
俺達の側ではなく、まるで対面するように、少し離れた位置に現れた男。
シュリスさんの情報では、三〇代という話ではあったが、とてもそうは見えない。
恐らくそれも、彼が特殊な種族だからなのだろう。
相変わらず、特に荒々しい態度でもなければ、凶暴そうな様子でもない。
ただ無気力に、適当に、心の底からどうでもいいとでも思っているかのような態度。
それはきっと『自分が絶対的に優位だと信じて疑わない』余裕からくる、全てを下に見ているが故の態度なのだろう。
「あれ? そっちの狐、見たことあるねー? ああ、ヤシャ島でボコったヤツじゃん! なに、こっちに来たの? 偶然じゃん」
「悪いヤツに憶えられてても嬉しくないわ!」
「なに、生意気だな。今度は毛じゃなくて尻尾引きちぎってやろうか?」
その瞬間、メルトが『ヒッ』と短い悲鳴を上げ、こちらの背後に隠れてしまった。
……先に失礼なことを、脅すようなことを言ったのはお前だからな。
「うるせぇよ黙ってろ。またクソ漏らして気絶させられてぇのか? お前有名だよ、ワンパンでやられてクソ漏らしたって。負けるにしてもなぁ? もう少しマシな負け方があっただろ? お前今も漏らしてんのか? なんかくせぇぞ、おい」
瞬間、アンガレスがこちらに迫る。
だが途中で、その動きが見えない壁に阻まれたかのようにピタリと止まった。
そして、すぐに空中に文字が現れる。
『メンバーが揃ったので最後の試練を開始します。今回は最後の試練を突破し、ダンジョンの最奥に進めるパーティを選定する形となります。どちらかのパーティが全滅するまで、勝ち抜き戦を行います。先方を決め、前に出てきてください』
予想通り、こちらとあちらでの団体戦……今回はアンガレスただ一人である為、三対一の戦いだ。
俺は勿論、先方として挙手する。
「ほらほら、俺が最初に出てやるよ。ちゃんとおむつはつけてるか? これ、中継されてるんだろ? みんなの前で大恥かくことになるよなぁ? こりゃもう生きていけねぇよなぁ? お前、なんでまだ生きてるの? ああ、外国の一部の貴族にしか知られていないと思ってるからか? 今広めてやるから安心しろって」
「殺す。ガチで殺すわお前。指先からちぎってバラバラにしてやるよ。そっちの狐も、エルフも、全部ちぎって犯して、殺してお前の死体と混ぜてミンチにしてやるよ」
……口プレイは基本。お前が先に煽ったんだ、ならこっちは百倍にして返すのみだ。
怒れ怒れ。許さないのはこっちだ。こんなことなら、あの浜辺での戦いで……殺すべきだった。
そして、空中に浮かんでいた文字が『試合開始』の表示に変化し、俺達の間に存在していた見えない壁が消える。
目の前に、猛烈な速度でアンガレスが迫ってきていた――
(´・ω・`)今回は部数が少ない為、通販サイトなどでもすぐになくなる可能性があります。




